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『伊右衛門』が“脱・お茶”? 正統派の緑茶ブランドからココア&レモネード発売の理由

  • 伊右衛門

    今年「伊右衛門」から発売されたココア、抹茶ラテ、ジャスミンティーラテ、レモネード

 業界に先駆け、ペットボトルで本格緑茶が味わえる商品として2004年に大ヒットを生んだ『伊右衛門』。以降、日本の代表的な緑茶ブランドとして人気を確立してきたが、今秋、抹茶ラテにココア、レモネードが相次いで発売された。ココアにはほうじ茶、レモネードには緑茶入りだというが、これまで愚直に“おいしいお茶”にこだわってきた同ブランドに、何が起こったのだろうか。サントリーに直撃した。

サントリーの“鬼門”だった緑茶… 前代未聞の「老舗茶舗」コラボで後発ながら異例の大ヒットに

サントリー緑茶史上最大のヒットを生んだ『伊右衛門』が誕生したのは、18年前。それまで同社にとって「緑茶は鬼門だった」と、ブランド開発事業部の三宅克幸氏は振り返る。2002年に『緑水』、2003年には『和茶』を発売していたが、どちらもあまりヒットしなかったことから、“売れる緑茶”を開発することが大きな課題となっていた。
「緑茶のターゲット層は老若男女すべての人であり、誰が飲んでもおいしい商品を作るのは、他製品と比べても非常に難しい部門です。幾度もの試行錯誤を重ねていく中で、弊社の技術があれば本格的なお茶の味をペットボトル飲料でご提供できるのではないかと気づき、とにかく“最もおいしいお茶”を作ることを愚直に追求した結果、2004年に京都の老舗茶舗『福寿園』の茶匠が厳選した国産茶葉を100%使用した『伊右衛門』を発売しました」(三宅氏/以下同)
 ペットボトル緑茶としては、1990年に伊藤園から『お〜いお茶』、2000年にキリンから『生茶』がすでに発売されていた。後発となったサントリーだったが、それまで老舗茶舗と組んだ本格緑茶はなかったことに目を付け、寛政2年創業の「福寿園」の門を叩いた。しかし、200年以上の歴史を持つ伝統的な茶舗からすれば、“ペットボトル緑茶”は邪道ではなかったのだろうか。
「確かにこれまで前例がないご提案でしたので、交渉は一筋縄ではいかなかったと聞いています。しかし、福寿園さんも弊社も“お茶のおいしさを広く気さくに”という共通した精神を持っていましたので、話し合いを重ね、“誰が飲んでもおいしい”という味をともに追求していくことに最終的にご賛同いただきました」

 結果、発売直後から販売休止になるほどの大ヒットを呼んだ。その後、各社メーカーが追従する形で老舗茶舗との提携や監修商品が相次ぎ、2007年には日本コカ・コーラから『綾鷹』が発売。原料、製法、味、デザインすべてにおいて、各社が年々高度な仕上がりを極めていく中で、ペットボトルでも本格的な緑茶が味わえることがスタンダードとなった。

ジャスミンティーラテにココア、レモネードも… 抹茶ラテは「缶」にこだわり

「『伊右衛門』のヒット後は様々な緑茶が市場に出回り、競争激化することで当然ながら売上はやや衰退していきました。そのため『伊右衛門』の特徴である抹茶が“健康”に繋がることを売りにするなど、他社商品との小さな差別化を図ったこともあります。ですが、やはり一番大事なのは、当初から掲げていたシンプルに“おいしいお茶”を提供し続けることだと気づきまして、お客様の声を常にリサーチしながら、毎年改良を重ねていきました」
 2020年には、大々的なリニューアルを遂行。従来の4〜5倍の試作を重ね、“豊かな香り・うまみ”と“雑味のない穏やかな渋み”を両立させることで、更なるおいしさを実現した。また、アイデンティティだった竹筒パッケージも刷新し、お茶の緑色がしっかりと見えるように、ボトルを覆う面積が少ないロールラベルに変更。飽和状態にあった日本茶市場において、見事に売上復活に繋がった。
 そして今年、伊右衛門に“異変”が起きた。7月、ファミリーマート限定で『ジャスミンティーラテ』が発売。9月には抹茶ラテ『恋甘』とココア『恋々甘』、10月18日には『京都レモネード』が発売されるというのだ。これまで愚直に“おいしいお茶”を極めてきた伊右衛門に何が起きたというのだろうか。
「“お茶をする”という言葉がありますが、その“お茶”は急須で入れたお茶だけじゃなく、例えばカフェで飲むようなコーヒーだったり紅茶だったり、またはペットボトルのジュースだったりしますよね。そういった“お茶”の時間にも楽しんでいただける商品とは何かと考えました。他社ですと『抹茶ラテ』や『ほうじ茶ラテ』などがありますが、“他でやっていないものを作る”というポリシーを持つ伊右衛門ブランドとしては、これまでにリリースされていないもの、または同じような商品であっても味わいが全く違うものを開発したい。そこで挑戦したのが、ジャスミン×ラテでした」
 さらに、三宅さんが「行くとこまで行った」と豪語するのが、“最高レベルに甘くて濃いホットの有糖飲料”と謳う先月発売の2製品。抹茶ラテ『恋甘』は国産石臼挽き抹茶を中心に複数の抹茶をブレンドしており、ココア『恋々甘』には福寿園の茶匠が厳選したほうじ茶が隠されている。

「缶でのご提供にしたのは、入れられる粒子の量と大きさがペットボトルとは異なるからです。抹茶ラテやココアはそれにより味が大きく変わるので、『恋甘』はテリーヌのような甘くほろ苦い味わい、『恋々甘』はガナッシュのような濃厚さを楽しんでいただけるかと思います。極端な言い方をすれば、“超甘党の方以外はお断り”と言えるほど濃厚な味わいに振り切っています」

長らく飽和状態にあった日本茶市場、勝機は「ラテ」? Withコロナで求められる“刺激”

 本格緑茶のイメージが強い伊右衛門ブランドとして、抹茶ラテやココアを発売することに社内で反対する声もあったという。しかし昨今、消費者の選択も固定されてきた中で、日本茶市場は長らくほぼ横ばいに推移していた。そんな中、昨年V字回復を遂げた背景には、ほうじ茶ブームや綾鷹の『抹茶ラテ』ヒットなどがあった。
 コロナ禍を経た今、サントリー製品でも『伊右衛門 濃い味』や『天然水スパークリング』の売上が好調で、より刺激的な飲料が求められている傾向にある。茶業界でも、タピオカティーブーム然り、昨今はフレーバーティーやフルーツティーの需要が伸びるなど、“シンプルにお茶を楽しむ”というよりは、食感や香りなどに一捻りある商品がトレンドを生んでいる。ひいては緑茶部門においても、プチ贅沢感や非日常感が手軽に味わえる商品開発は、さらなる市場拡大に向けた秘策となる可能性を大いに秘めているのだ。
「『京都レモネード』は、まさに新たなお茶の楽しみ方を提案している商品です。かねてから京都のお茶屋さんでは煎茶入りのレモネードが販売されていて、緑茶と合わせることで後味のキレがサッパリするので、その相性の良さを味わっていただければうれしいです。テーマは、“和のレモネード”。伊右衛門ブランドならではの落ち着いたデザインになっていますので、オフィスや会議室でも違和感なく楽しんでいただけるのではないかと思います」

 古くから日本に根付きながらも、差別化しにくい商品だった「緑茶」という“鬼門”を、見事に“取柄”に変えたサントリー。その背景には、「お客様においしいお茶を届ける」という最もシンプルな信念と共に、常に「変化を恐れない」革新的な姿勢があった。嗜好品の多様化やコロナ禍の影響などにより、茶の国内生産量は年々減少傾向にある。そんな中、“本格緑茶”をペットボトル市場のスタンダードにのし上げた同社が、今度はココアやレモネードまでも、緑茶市場の定番と成すのだろうか――。日本人として、楽しみに見守りたい。


(取材・文=奥村百恵)

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