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20年で34億個販売の『ポン・デ・リング』 “もちもち”で革命起こした背景に「アメリカ文化への憧れ」からの脱却

 昨年、“生ドーナツ”や韓国の『クァベギ』などが流行。ベーカリーやカフェの相次ぐ参入で再ブームが到来したドーナツ市場。さまざまなドーナツが発売されるなか、今も安定した人気を誇るのが、ミスタードーナツの『ポン・デ・リング』。“サクッ”“フワッ”が常識のドーナツ界に“もちもち”で革命を起こして早20年。今では、類似品も多数市販されるほどになった同商品が、一過性のブームに終わらず、普遍的人気を手に入れられた理由とは?

「アメリカ」が憧れから身近に、時代の変化が開発の引き金

 『ポン・デ・リング』が初めて世に登場した2003年当時、ドーナツ市場は“特に大きなトピックスはなかった時代”だった。

「1955年にアメリカで誕生したミスタードーナツが、日本に初上陸したのは1971年。当時は、『アメリカの味をそのままもってこよう』というところに力を入れておりました。その目新しさが受け入れられ、創業年に発売した『ハニーディップ』や『エンゼルクリーム』に続き、その後発売した『フレンチクルーラー』、『オールドファッション』が高い人気を獲得し、定番商品に成長していきました。一方で社内では、新たな“定番商品”開発のための挑戦が始まっていました」(ダスキン ミスタードーナツ事業本部 広報担当/以下同)

 創業当初からあるアメリカ発の商品人気に頼るだけでなく、日本発の商品を開発したい。その背景には『ドーナツ』を取り巻く時代の変化があった。

「日本での創業当初は、海外旅行がまだ当たり前ではなく、アメリカは遠くて憧れの存在だった時代。ドーナツはもちろん、店内装飾、英語も併記されたメニュー、スタッフのユニフォームなど、『日本でミスタードーナツに行けば、アメリカが体験できる』という楽しみがありました。一方で20年、30年と経過し、当時高嶺の花だった海外旅行やアメリカの文化は、日本人にとって身近な存在へと変わり始めていた。そういったこともあり、『ミスタードーナツの新しい顔となる“日本オリジナル”のドーナツを作りたい』と開発に力を入れていきました」

8連の形状は偶然の産物?結果として“もちもち”食感をどの店舗でも提供できる要因に

 新たな定番を目指し、開発された日本オリジナルのドーナツ。だが、なかなかうまくいくものではなかった。

「『ポン・デ・リング』以前にも、定番化したいと思って発売した商品はいくつかあったのですが、なかなか(人気が)長続きしないというのが実状でした」

 そんななかで、開発のキーワードになったのが、『ポン・デ・リング』の大きな特徴でもある“食感”だった。

「お客様のアンケートやグループインタビューから、“食感の良さ”を求めている人が多いということがわかっていました。それまで弊社では、『エンゼルクリーム』や『ハニーディップ』などいわゆるイーストドーナツの“ふんわりしっとり食感”、『フレンチクルーラー』の“軽い食感”、『オールドファッション』の“サクサク食感”と3つの食感を提供し、それらが定番商品となっていきました。食感は、商品開発においてとても大切なものですので、これらとともに定番になりえる“第4の食感”を模索して、開発にあたったそうです」

 かりんとうのような“カリカリ感”や、“外は硬くて中はふわふわ”など、さまざまな食感を試作する中、「ずば抜けておいしかった」のが“もちもち”だったそう。さらに、アンケートなど蓄積していた情報をもとにした「もちもちした食感のスイーツが今後トレンドになる」という同社の予見も商品化の後押しとなった。だが、この開発にも苦労があった。

「餅のようなつるんとした口当たりを目指したんですが、開発当初は『べちゃっ』とした感じになってしまい、これではだめだと試作を重ねました。最初は丸いリング型のドーナツを考えていましたが、もちもちした食感を出そうとすると保水力を高めなければならず、丸い形では均一に作ることができませんでした。ミスタードーナツは全国どこのお店に行っても同じ味わい、同じ食感、同じ形の商品を並べなければいけませんので、どうやって均一を実現するか。試作を繰り返す中で、あの形にたどり着いたそうです」

 “もちもち”食感とともに、これまでのドーナツにはなかった8つの丸を輪のようにつなげた斬新な形は、“新しい顔”にすべく狙ったわけではなく、「試行錯誤の末に生まれた偶然の産物」だったという。この形は「ちぎって食べやすい」ということでも評判となったほか、『ポン・デ・リング』のキャラクター『ポン・デ・ライオン』の特徴的なたてがみのデザインとして多くの人に愛されるなど、さまざまな波及効果を生んだ。

発売からずっと1位…類似商品の乱立には「誇りに思う」

 発売当初から予想を上回る爆発的な売れ行きを見せ、「店舗での売れ筋も、流行などに左右されず、発売からずっと1位です」とロングヒット。これまで累計34億個を販売するなど、名実ともに看板商品になった『ポン・デ・リング』。では、それまで定番化を狙ってなれなかったものとは、どのようなところが違うのだろうか?

「さまざまな要因が重なった結果だと思うのですが、食感や形に特徴のあるものが、定番化しやすいと言えると思います。それに、ひとつの味に固執するのではなく、他の味に展開しやすい生地であることも挙げられるのではないかと。また、さまざまな味を展開した時に、『ポン・デ・黒糖』『ポン・デ・ストロベリー』『ポン・デ・ショコラ』『ポン・デ・あずき』など、味を表現しやすいネーミングだったことも、定番化していくうえで大変重要な要素だったと思います」

 餅をはじめ、古くから日本人になじみのあるこの“もちもち”食感は、黒糖、きなこ、あずき、醤油、抹茶といった和素材とも相性が良く、それまでのドーナツの常識にとらわれないフレーバー展開を実現。「アメリカへの憧れ」から始まった日本のドーナツ文化は、日本ならではの素材を使ったドーナツによって、独自の進化を遂げた。

 一方で普遍的な存在になったからこそ、昨今『ポン・デ・リング』に似た類似商品が数多く市販されている。特徴的な形や、もちもちとした食感など、明らかに模倣とも言えるものもあるが、その現状をどうとらえているのだろう。

「正直なところ、開発時は似たような商品が出てくるところまで予想はしていなかったと思いますが、ミスタードーナツとして、他社がマネしたくなるような世間に浸透した商品を作れたことは誇りだと思っています。ただ、(食感や味など)こだわって研究しておりますので、簡単にはマネできないと自負しています」

 今後も、その独自性と斬新なアイデアで、消費者に“ワクワク”を届けていきたいと言う。

「弊社が大事にしているのは、〈いいことあるぞ、ミスタードーナツ〉の理念どおり、選ぶ楽しさと新しい商品があって、ワクワクできることです。これからも、あってよかったと思われるような、存在になっていきたいと思っています」

取材・文/河上いつ子

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