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使い心地ははまるでプラ? 大学生開発の“草ストロー”が全国に拡大「原点回帰してて藁」

 脱プラスチックに向けて「紙ストロー」が普及するも、その飲み心地に不満の声が止まない中、「草ストロー」がじわじわと人気を伸ばしている。開発したのは、東京農業大学4年生の大久保夏斗さん(22)。2年前にベトナム原産の植物を使った完全自然由来・生分解性のストローブランドを立ち上げ、起業した。メンバーはわずか3人ながら、導入数は全国約250店舗に拡大。SNS上でも、「使い心地はまるでプラスチック」「ストロー(藁)の語源に近づいている」「原点回帰してて藁」などと話題を呼んでいる。

旅行先のベトナムで教わった植物“レピロニア”に着目、大学2年生で起業を決意

 草ストローとの出会いは、ベトナムだった。大久保夏斗さんの兄・迅太さん(24)が5年ほど前にバックパッカーとして海外を回っていた途中で、その使い心地に驚いたのがきっかけだった。

「たまたま飛行機で席が隣だったベトナム人のミン・ホアン(現・共同創業者)と仲良くなり、一緒にベトナムの農村地帯を回る中で、レピロニアという植物の茎を使った草ストローのことを教えてくれたのが始まりでした。口当たりはプラスチック製とほぼ変わらないのに、元々水辺に生えている植物なので耐久性や柔軟性も高く、生分解性のため完全に自然に還る点に可能性を感じたんです」
 当時はまだ今ほどSDGsの意識が世界的に高くなく、商品としても未熟だったことから、ベトナムでも草ストローは全然売れていなかった。しかし、レピロニアは使い捨てストローの素材としての優位性が高く、成長スピードが早いため、原材料として安定して確保できる。日本基準の厳しい衛生検査を経れば、十分な商品価値があるのではないかと、迅太さんは弟・夏斗さんとともに“HAYAMI”を起業した。

「元々、学生時代から海外のスタートアップ企業をリサーチする仕事をしていて、サスティナビリティやSDGsに寄与する企業を20代半ばで立ち上げている人は欧米に多いと感じていました。一方、日本では今でこそ増えていますが、5年前は全然いなかったので、やれることがあったらやりたいと思ったのがきっかけです」
 製造は、ベトナムで独占契約を結んだパートナー企業が14人ほどで行っている。ベトナムと日本では品質管理の意識に大きなずれがあることから、あらゆる項目の検査には気を遣った。現地から日本基準に満たない商品が大量に届くこともあり、その感覚を合わせるのには苦労したという。

プラストローの“6倍”単価でも全国250店舗が導入「こんなに広まるとは思わなかった」

 それからミンさんとの出会いからおよそ3年、ようやく日本の市場に出せる準備が整った。しかし、原材料費や輸送費を含めた草ストローの単価は、切り詰めても1本6~7円ほど。1本20円ほどの竹ストローと比べれば安いものだが、コロナ禍で飲食業界が大打撃を受けていた中、プラスチックストローの6倍以上のコストを許容してくれる取引先を探すのには、地道な営業活動を要した。

「はじめは様々な形態の飲食店100店舗にサンプルを提供し、電話や訪問をしてフィードバックをいただきながら、徐々に認知を広めていきました。2年前当時の日本では、SDGsすらあまり知られていなかったので、プラスチックを削減する必要性や、草ストローを導入するメリットを伝える点に難儀しました」
 1件1件回っていく内に、ターゲット層が絞れてきた。ストローの年間使用本数が億単位にのぼる大手飲食店チェーンはコスト面で非現実的。地域限定でチェーン展開している客単価の高い店や、中〜高価格帯でオーガニックな素材にこだわっている店からは徐々に好感触を得られた。

「草ストローを使ったマーケティングツールやイベントを開催することで、お店のブランディング強化や集客、メディア掲載に繋がるメリットを強調しました。最近は草ストローの口元部分に刻印できるサービスを開始し、ブランドコミュニケーション、マーケティングツールとしてもご利用いただいています」
 狙い通り、テレビや新聞、ネットニュースなど、草ストローは多くのメディアに取り上げられ、採用店舗の宣伝にも繋がった。ブランド発足から2年で、導入数は全国250店舗以上に拡大。その反響に「こんなに広まるとは思わなかった」「問い合わせはめちゃくちゃ増えています」と、大久保さん達の予想をはるかに超えたようだ。福岡のカフェでは、使用後の草ストローを県内の動物園にペンギンの巣材として無償提供するなど、地域連携や更なる資源活用にも繋がっている。

バイオマス、生分解性、植物性…ネーミングに惑わされない「ストローリテラシーも必要」

 昨今、SDGsの意識の高まりと共に世界的に多種多様なストローが普及しているが、環境配慮を謳った商品でも完全に自然に還る生分解性素材を使用したものは少ないという。大久保さんは、本質的にエコではないストローが出回っている現状を危惧する。

「消費者を惑わすようなネーミングの製品が多く生まれ、“SDGsウォッシュ”と呼ばれるような、SDGsに取り組んでいるように見えて、実態が伴っていないビジネスは増えているように感じます。例えば、今日本でも増えつつある『バイオマスプラスチックストロー』は、一部原料はバイオマスですが大半は石油由来のプラスチックでできてますし、『酸化型生分解性プラスチックは』、見た目は分解されてなくなっているように見えても、酸化しているだけなので、マイクロプラスチックとして土壌や海の中に残ってしまうんです。
 他の植物性ストローは、サトウキビのバガスなどを利用するポリ乳酸と言われるPLAなどもありますが、その一部は人工的に湿度や温度をコントロールした環境下でないと分解されないケースや海の中では分解されないケースなどがあります。そういった意味で、『草ストロー』と大麦の茎でつくった『麦ストロー』しかないのではないかと思っています」

 大手各社が導入している「紙ストロー」に関しては、今年の『SNS流行語大賞』(イー・ガーディアン)にノミネートされるほど物議を醸している。

「僕は紙ストロー自体悪いと思っているわけではないですが、認証を取れていない製品は森林伐採に繋がっているケースもありますし、大量消費されては本末転倒なので、採用するお店側の意識や、なぜ紙ストローを使うのか判断する消費者の“ストローリテラシー”も必要だと思います。そもそもストローをつけるのが日本のマナーになっていますが、個人的には使いたくない人は使わなくてもいいのではないかと思っていて、あくまで使う選択をする人の中で、草ストローを使いたい人が増えてくれればと思っています。一番は、不必要なストローの消費量を減らしましょうっていう考え方ですね」

草ストローでの利益創出は求めていない、複数事業で本質的な“サスティナブル”目指す

 大久保さんは、事業としてサスティナブルである必要はあるものの、草ストローでの大きな利益創出は考えていない。現状はベトナムで余るほど生えているというレピロニアだが、仮に草ストローの需要が急増すれば、収穫量に対する土壌の負担や二酸化炭素の排出量の計測も視野に入れているという。

 今年1月には、新たにサボテン由来の革商品ブランド『Re:nne』を立ち上げた。これも草ストローと共通して「サスティナブル」と「雇用機会・スキルの創出」がビジネスの基軸にある。
「草ストローのレーザー刻印や発送業務は障害者施設の方々に依頼しており、障害者の雇用やスキル創出に繋がればと思っています。『Re:nne』は有害な化学物質を使用しない100%オーガニックのヴィーガンレザーブランドで、浅草の革職人さんに製品を作っていただいているのですが、彼らも次世代レザーに対応していけなければいけないという課題意識があった中、双方にメリットがある事業として開始しました」
 現在24歳にして複数の事業を手がけ、自分の強みを活かして社会のために行動するのがとても楽しいと生き生きと語る大久保さん。しかし同年代の友人からは、「仕事がつまらない」「会社辞めたい」「生きるために働いているだけ」といった声を耳にすることが多いという。
「副業ベースでも自分がパッションを感じられること、得意なことや好きなことで社会的プロジェクトに参画できる場があればと思い、『SUKETTO WORK』(外部サイト)というプラットフォーム事業も計画しています。日本は労働力が少ない中で、若者がなぜもっとエネルギーを社会にとって良い方向に向けられないんだろうって疑問に思ったことがきっかけで、同じ理念を持った人と気軽に繋がれる場になればうれしいです。私自身こういう活動をしていく中で、色々な繋がりも増えて人生が豊かになったと実感しているので、今後もそういった輪を広げながら、ソーシャルグッドなアクションをどんどん起こしていきたいと思っています」
HAYAMI(外部サイト)

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