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「間(あわい)に寛容じゃないと文化は生まれない」手塚マキが現役引退後もなお、歌舞伎町とホストを支え続ける理由
「大学に行くよりかホストをやるほうが僕は成長する」大学中退して夜の世界へ
「大学に行くよりかホストをやるほうが僕は成長するんじゃないかなと思って、4年間だけこっちの世界にいようと思って大学を辞めました。ホストというのは当時、いろんな地域の不良のトップが集まってくるから不良の全国大会などと呼ばれていました。そんなすごい先輩を売上でぶっ飛ばす…そんな爽快感から当時はすごく面白く感じました」
もちろんホストという職業が“裏稼業”的ニュアンスが含まれていることは自覚していた。だが、どれだけのお客様を持ち、どう自分という商品をブランディンクし、さらにリスクヘッジはどうするか…ホストという仕事には経営のノウハウが詰まっていることを、当時読んでいた経営学の本でも確認できた。
その一方で「あの(ホストをやっていた)7年間に抱えていたある想いをみんなに経験してほしくない」とも話す。
自分の価値観を覆す部下のホストの存在が起業の原点に「勝ち負けではなくそれぞれの幸福感をどう上げるかが大事」
「私は子供のころから永久就職でいい企業に入ればハッピーと教わっていた世代です。しかし実際にはその神話が崩れ始めた就職氷河期でした。高校時代頃から植え付けられた価値観に“?”が浮かんでいました。更に大学生とホストが同じ21歳でも、ホストとして働いている人たちは15歳ぐらいから高校も行かないで働いている人たちが多く、社会経験が既にある大人だったんです。そういう実社会の中でそういう人たちと生きる方が、大学で学ぶ机上の空論の4年間より、実践的に社会や経営を学べるホスト業界にいた方が自分にとって成長できると感じました」
「それが部下の売れないホストたち。勝つのが当たり前の価値観の中で、独立し、部下を持った時、彼らの“勝ち負けだけではない”価値観、つまり生き方の幅を見せられました。幸せの形はお金だけでも名誉だけでもないと。もちろんホストクラブには競争はある。でもその競争に勝つだけが幸せだと思わないことが大切だと彼らから学びました。それぞれの幸福感をどう上げるか。それは自分の店だけの話しではなくこれからの時代、どう生きるか?において大事なことだと思いました」
とはいえ、そこにいたるまでには彼なりの葛藤があった。
歌舞伎町には、何者かになりたい人が集まってくる。しかしながら、何者にもなれずに去る者、堕ちていく者をこれまでたくさん見てきた。彼らが腐らずに、ホストという仕事を通して、別のキャリアをすることはできないのか。ホストのセカンドキャリアについて考えるようになっていった。
同時に、歌舞伎町に集まる人たちには「アイデンティティ・クライシス」を起こしている人が多いことにも気がついた。
「地元を捨てて、源氏名をつけて俺は何者だろうと思うようになる。他にも自分が男なのか女なのか。可愛いか可愛くないか。そうした人たちが、包み隠さず飲み屋などに商品として陳列されてしまう。すると“私の価値は可愛いだけ”など悩む人も多くなり、自己が形骸化。拠り所を失う。そこでアイデンティティを確立させる為に重要なのが地元意識だと僕は思いました」
その為に、手塚氏は2003年に独立以後、祭りなどの地元のイベントやゴミ拾いに参加させることで、歌舞伎町の商店街と積極的に交流をはかった。ホストのボランティア団体『夜鳥の界』の立ち上げや『歌舞伎町ブックセンター』のオープン、2018年には介護事業を始め、最近では職業体験型インターンも実施。現在も歌舞伎町を軸に多角的な活動を行っている。
そのような取り組みの中で、手塚氏は、次第にホストクラブは世の中の「受け皿」でもあるのではないかと考えるようにもなった。「例えば、大企業には入れなくてもホストにはなれる。誰でもホストになれるし、先述したように、ホストで経営のイロハが学べ、セカンドキャリアへも向かえる。今の社会では、ホストがやんちゃな男の子たちの、未来を作ることもできるセイフティネットなんです」