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日本進出20周年、『ルンバ』の功績 掃除機の枠を超えた“家族”としてのアイデンティティ
ルンバの原点は「地雷除去ロボット」 赤字続きのなかで生まれた起死回生の“ダストパピー”
創業から、地球外探査や地雷の除去など、“人が行けない危険な場所”で活躍するロボットを開発していた同社。産業用ロボットメーカーとして、確固たる地位を築いていたが、収益には結びつかず、創業から2003年までの13年間は赤字続きだったという。
そんな中、2002年に初代ルンバの『ルンバオリジナル』を発売する。原型となったのは、1997年に開発された陸地の地雷を探査・除去するロボット『Fetch(フェッチ)』、海に埋められた地雷を探査するロボット『Ariel(アリエル)』。部屋のどこに落ちているか分からないゴミを探し、集めるルンバの動きは、“見落とし”が許されない地雷探査のノウハウを活かしたものだった。
「産業用ロボット開発の過程でナビゲーション技術を培い、そのノウハウを家の中に活用できないか? と考えたのが開発のきっかけでした」(アイロボットジャパン コーポレートコミュニケーション 村田佳代さん)
日本でも「日本ネーミング大賞2021」を受賞するなど、世界で認知されている『ルンバ』。一般発売に伴い、製品名を決めることになったが、開発者たちが当初つけていた名前は「ダストパピー(=汚れた子犬)」だったという話も。
「ロボット掃除機を発売するにあたり、当時社内で名前を公募しましたが、『ダストパピー』や『サイバーサック』など、エンジニアが提案するネーミングはどれもいまひとつでした。そこでネーミングのプロに相談したところ、踊りの“Rumba”と部屋の“Room”を掛け合わせて『Roomba』はどうか、というアイディアをいただきました。部屋の中を踊るように掃除するイメージができ、みんなが気に入り決定されました」
体重計やおもちゃとの勘違いが多発…日本上陸当初は困難の連続でいったん撤退の憂き目に
「その当時は“ロボットに掃除をさせる”という概念が日本にはなかったため、現場での苦労はたくさんありました。そのシェイプから体重計と間違われたり、ロボットというネーミングからおもちゃ売り場に置かれたりしたこともあったそうです」
2002年当時は犬型ロボット『AIBO』が話題だったこともあり、『ルンバ』は“掃除機”ではなく“玩具”として認識されたのかもしれない。かくしてアイロボットは一旦日本市場から撤退するが、2003年に取り扱い代理店を変更し、再び日本市場へと参入。新戦略を用いて巻き返しを図ることに。
「家電量販店での販売をメインとし、そこでの実演を重点的に行なったり、テレビCMなどのマーケティングに注力したりしました。お陰で2009年頃には認知度が上がり、『ルンバ』という親しみやすいネーミングも手伝って、多くのご家庭で家族のように受け入れていただけるようになりました」
現在では、毎年のように改良モデルを発表し販売。しかしいまだに国内の世帯普及率は10%にも満たない。ロボット掃除機の購入障壁となっているのは、主に『価格』『キチンと掃除してくれるか不安』『自分で掃除したい』の3点だと村田さんは言う。新製品の開発にも、これらをいかに克服するかがポイントとなるそうだ。
「手の届きやすい価格の実現はもちろんですが、『ルンバ』が最後まで掃除をやり遂げるミッションコンプリート率の向上や、平行して清掃機能のアップ、また操作性やアプリの使いやすさなども重要な点です」
ちなみに、同製品は全てグローバル統一モデルであり、世界中のユーザーが同じものを使用している。「洗えるダスト容器」など日本マーケットからのアイデアが、グローバルで採用された例もあるという。
「日本は欧米と違って靴を脱いだ居住空間になりますので、クリーンベース(自動ゴミ収集機)に砂やドロなどの重いゴミが溜まりにくいことから、最近ではクリーンベースの紙パック交換の目安表記を日本市場のみ、60日から1年に延長しています」
ロボット専業メーカーとして「人がより多くのことをできるように後押し」を
同社のミッションは「Empower people to do more −人がより多くのことをできるように後押しする−」。「これは製品をお使いいただくお客様に限らず、社員やその家族、取引先にも当てはまります。この理念は1990年の創業から変わっていません」と村田さんは話す。
「ロボット専業メーカーであること」という点においても、創業30余年にわたり一貫しているそうだ。
「私たちは産業用ロボットで培った豊富なマッピングやナビゲーション技術を駆使して『ルンバ』を開発しています。『ルンバ』がどこにいてどこを掃除すべきか? またベッドの下やソファの奥など、掃除機では掃除できないところまでキチンとたどり着くテクノロジーは他の家電メーカーが作るロボット掃除機には負けないと自負しています」
「『ルンバ』はどんな時でも使う人に寄り添い、皆さんの暮らしが豊かになるようサポートしていきたいと考えています」と村田さんは力強く語る。
紛争地帯や原発で活躍してきたロボットは、20年経った今では世界中で親しまれるものとなり、家庭での居場所を獲得してきた。今後、IoTやAIの技術を活用したスマートホーム化は主流になり、ロボット掃除機にも今まで以上の役割や可能性が求められるだろう。