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もはやストーリー性やクリエイティヴィティは不要? 企業CM増加で見えてきたTVCMの価値

 昨今、TVCM業界にある変化が見られる。それは商品単一ではなく企業CMが増えていることだ。企業名を連呼するものから、その企業の取り組みを紹介するものまで。いまやTVCMは「新商品の発売をコマーシャルするもの」という枠では収まりきらなくなっているのが現状だ。TVCMはどのような変化を遂げ、現在に至るのか。歴史を辿りつつ、現在の変化の背景についても迫る。

抽象度、インパクトのあるコピー、新人の登竜門だった昭和・平成のTVCM

  • 『ミノルタ』のCMで人気を博した宮崎美子(C)ORICON NewS inc.

    『ミノルタ』のCMで人気を博した宮崎美子(C)ORICON NewS inc.

「日本で初めて放送されたTVCMは1953年、『精工舎』の時報を伝えるCMだったと言われています」と語るのはメディア研究家の衣輪晋一氏。アニメの鶏が実写の時計のぜんまいを巻くなど、アメリカで流行していた手法を取り入れた、日本においては最新技術の映像だった。

 以降、そうしたクリエイティヴな映像作品が多く続いた。開高健がNYで魚を釣りをする(そのあとに豪快にウィスキーを飲む)『サントリーオールド』や迷子の子犬がひたすら街をさまよう『サントリートリスウイスキー』、果物と野菜と思いきや電球が鮮やかに光り出す(果物を電球に見立てた)『松下電器』の電球など、映像で見せていくものも多数。

「一方で『丸善石油』の「オー! モーレツ!」や「スカッとさわやかコカ・コーラ」「当たり前田のクラッカー」などの流行語もTVCMから登場。その後は若手芸能人の登竜門的なTVCMも増えていき、その代表格が『ミノルタ』の宮崎美子さんのCM。斉藤哲夫さんの名曲『いまのキミはピカピカに光って』と共にヒットし、宮崎美子さんの人気を決定的にしました。余談ですがこれは故・志村けんさんがパロディで当時演じ、子どもたちの間にも広く普及しました」(衣輪氏)

 過去のCMを見ていくと、どちらかというと、ストーリー性や抽象度の高い(一見すると商品と関連性のない)CMや、キャッチコピーばかりが印象に残るものが多く、最後に企業名が入りはするものの、SNS上では『トリスウィスキー』の過去CMについて「子どもの頃に見た子犬のCM、まさかお酒のCMと思わなかった」などの声も見られる。

 ほか「この頃のCMには夢がある」「こういう印象に残るCMをまた観たい」など、そのクリエイティヴィティの高さに感心する声も多数。こうした映像の最新技術は代々、受け継がれ、80年代後半あたりからCGなどデジタル技術を使用した作品が急増した。「しかし昨今は“面白いものが少なくなった”の声も。これはバブル期までは物も情報も少なく、故に日本は新たなものや情報を取り入れて鮮烈なものを送ることが出来たわけで、今はクリエイティブ的なものも、飽和状態である “物理的側面”とリンク。すでに創れない映像はなく、故に新鮮味を失っている可能性も」(同氏)

生活様式の変化、景気後退がTVCMを企業ブランディングの場に

  • 「素材の会社はAGC〜♪」で日清紡のCMに出演する広瀬すず(田中達晃/Pash (C)oricon ME inc.)

    「素材の会社はAGC〜♪」で日清紡のCMに出演する広瀬すず(田中達晃/Pash (C)oricon ME inc.)

 また景気の後退に伴って、「広告・CM出稿」などのマーケティング費用が削減の方向へと向かっている現実もある。特にコロナ禍に見舞われてからのここ2年は、BtoC向けCMでは、変化した生活様式やライフスタイルをサポートするようなCMが増加。その代表的なものが、洗濯用洗剤やノートパソコン類、出前館やウーバーイーツなどのデリバリー企業、またBD/DVDやWOWOWなどの映像コンテンツCMで、いかに“おうち時間”を有意義に過ごせるか、といったCMが増えている。

 また特に目立ってきているのがBtoB企業のCMだ。「AではじまりCでおわる素材の会社はAGC」のAGCをはじめ、『日清紡』や『日野自動車』、企業が目指すところを描く『クボタ』、アニメのストーリーが印象的な『大成建設』。ほかにも、企業はもちろん働く社員へのアピールとも思える『ビズリーチ』『TISインテックグループ』などがある。

「BtoB企業がCMを発信する背景としては、学生からビジネスパーソンまで、その企業の認知を広げたいという狙いがあります。一般消費者とのつながりが薄いのに何故、と思われる方も多いかもしれませんが、認知を上げてリクルート(人材募集)で良い人材に来てもらうため。また営業面に於いても、TVCMが営業のフックとなり、取引先との会話が盛り上がりやすい利点を話す企業もありました。つまり“信頼性”と“話題性”が重要視された結果です」(衣輪氏)

 では一般消費者が相手のBtoC企業ではどんなことを行っているのか。ここでキーワードとなるのがSNSだ。自社広告媒体・いわゆるオウンドメディアを利用し、様々な施行がなされている。代表的なものとしては『日清食品』が「カップヌードル」関連の多種多様のグッズを開発・発表。『Indeed』は、漫画雑誌や電車広告をパロディ化した社内報をSNSで発信してバズり、テレビをあまり見ないとされる若者層へも届くような試みが行われている。

 「このインターネット内での現象はテレビ業界へも波及し始めており、例えばドラマ『おっさんずラブ』では、あえての“公式裏アカウント”戦略が取られ、吉田鋼太郎さんが演じる乙女部長・黒澤武蔵が“影で投稿しているアカウント”としてフィクションと現実をうまく結び話題になりました。また昨今では番組の公式HPだけでなく、公式SNSでも、フリーランスのライターを起用する例が増加。これにより、“単なる宣伝の羅列”だったSNSがプロの腕によって、より面白く辿っていけるという状況が作られ始めています」(同氏)。クリエイティヴィティはオウンドメディアの方へと移行していっているわけだ。

ストーリー性よりもメッセージ性が重要視されていく中で…TVCMの持つ意味

  • 90年代「カルピスウォーター」のCMに出演していた内田有紀(田中達晃/Pash (C)oricon ME inc.)

    90年代「カルピスウォーター」のCMに出演していた内田有紀(田中達晃/Pash (C)oricon ME inc.)

 そんな現代。TVCMではクリエイティヴィティ(ストーリー性)よりもメッセージ性が重要視されるようになっている。この背景にある一つが、「SDGsなどに取り組んでいる会社だということを明確にすることで、消費者のイメージ向上を狙うため(衣輪氏)」。だが、コンプライアンスが厳しくなりすぎた故に、保守的で口当たりはいいが、その反作用で、印象に残るCMが減る結果にもなった。過去には西武百貨店やルミネのポスター広告の件のように、多様性を履き違え、SNS上で議論を巻き起こして炎上した例もあった。

 また先述の宮崎美子をはじめ、『三井のリハウス』の宮沢りえ、『ポカリスエット』の一色紗英、『ポッキー』の新垣結衣、『カルピスウォーター』の後藤久美子や奥山佳恵、内田有紀など、CM発の人気俳優の登竜門的存在だったが、今は、新人よりもベテランかつ人気で、視聴者に“安心感”“信頼“を与えるタレントの起用が増えている。

 これはYouTubeなどのSNSメディアの発達、SNSや通販サイトのインフルエンサーのレビュー人気も裏にある。「人気YouTuberのラファエルさんからお聞きしたのですが『宣伝におけるインフルエンサーの人件費は人気タレントと比べてかなり安い。それとは裏腹に拡散力は強い』とのことで、故に多く起用されるようになっているのではないか。ですが、昨今はその“案件っぽさ”で逆に信憑性を失いつつある現状も見逃せません」(衣輪氏)」。

 メッセージ性が高くストレートに訴求するTVCM、話題性のあるタレント起用のTVCMに注目が集まるようになっている現代。この変化を見ると、TVCMそのものの価値というより、テレビでCMを流すこと“そのもの”が信頼性につながり、さらに企業の価値を高めている時代に入っていることが伺える。TVCMの価値は、“信頼性”として住み分けられている。

(文/西島亨)
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