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2ヵ月で792万円上昇…市場拡大で高級腕時計が過去最高を更新 “投資”と“趣味”をどうシンクロさせる?
1本30万、プレ値の『G-SHOCK』をきっかけに中古時計の世界へ
斉藤もともと時計は好きだったんですが、一番最初に時計が値上がりすることを知ったのは、90年代後半のCASIOの『G-SHOCK』ブームでした。当時は1万5000円くらいのモデルが30万円で売られていた時代。僕はそれを知って「30万円だったら中古でロレックスが買えるよね」って思ったんです。で、中古時計市場を調べてみることにしたんです。
――それで、『ロレックス』を手に入れた?
斉藤紆余曲折あった後、中古市場でそれほど注目されていないパテックフィリップの『アクアノート』に狙いをつけました。当時、ロレックスは値上がりしていたのですが、なんとなくその後値下がりしそうな気がして。それに、『アクアノート』は自分にとって雲の上のような存在だと思っていたので、それが持てるならと調べてみました。すると、雑誌の広告欄に62万円で売られているのを発見して。その金額なら、同額もしくはそれ以上の金額で後々売却できるだろうと思い、購入しました。それが投資的な考えを持って買った最初の時計でした。
――実際、利益は得られたのですか?
斉藤その後、130万円くらいのときに売ったので、購入額からは、倍になりましたね。そのまま持ち続けて、今売却したら、700万円くらいになっていますけど(笑)。
5年間で188万円も資産増「ものすごく効率のいい趣味」
斉藤単に時計が好きということですね。買っても買っても次が欲しくなってしまうんです。お金がある人なら欲しいものをどんどん買ってコレクションにしていけるけど、それができない自分はどうしたらいいか。そこで、考えたのが、腕時計を資産だと思って、いつか売ることを前提に買えば、売ったお金でまた新しい時計を買ってと効率よく楽しめるということでした。高級腕時計は価値が残りやすいので、買った値段より高く売れることも多いです。大好きな腕時計を楽しめるとともに、自分の資産を増やすこともできるんです。
――聞きにくいですが、これまでどのくらい資産を増やすことがきたのですか?
斉藤直近の5年間で188万円ですね。高級腕時計を毎日身につけて楽しめて、188万円のプラスになるんですから、ものすごく効率の良い趣味だと自分では思っています。
――ちなみに、ご自身が所有したもののなかで、最も値が上がった時計はなんですか?
斉藤現在進行形のオーデマ ピゲの『ロイヤル オーク』です。2018年に、オーバーホールや純正のコマなどを買い足して、全部で119万円くらいで購入したのですが、今の市場価格だと400万円くらいになっています。購入時、これくらいになると思っていましたし、今も評価が上がっていますが、まだ売る気はありません。僕が持っているのは初期世代の数があまりないモデルで、まだその貴重さが値段に反映されていないと思っているので。
――買った値段より下がってしまったものはないんですか?
斉藤気をつけて買っているので、何十万単位での損というのはありません。ただ今売ったら損になるだろうなという時計は1本あって、20年くらい持っています。
“投資”と“転売”との違いは、買った段階で利益が確定しているかどうか
斉藤「今48万円のこの時計は将来60万円になる可能性があります」というふうに、将来高くなりそうな時計の情報を発信していたんですけど、ネット掲示板などで「そんなわけないじゃん」とか「バカじゃん」とか、かなり批判されましたね。ちなみにその時計は今、120万円になっています。2015年に『腕時計投資のすすめ』(イカロス出版)という本を出したときも「時計を投資と考えるなんて邪道」とか「本当に腕時計が好きじゃない」など批判をたくさん受けました。でも、僕は実態を伝えただけですし、批判をする人は高級腕時計を持っていない人なのかもしれないなと思いました。
――昨今、プレミアがつく商品を買い占め、それをネットなどで転売することが、社会問題とされています。ネットなどでは、“腕時計投資”と“転売ヤー”が混同されています。
斉藤転売と僕がやっていることは明確に違います。転売は、並ばないと買えないとか、抽選じゃないと買えないというもので、買った瞬間、いや買う前から利益確定なものを、売るだけの目的で買うことですよね。時計で言うと、今、品薄なロレックスのデイトナを、正規店を何店舗も回って定価で買うことを「デイトナマラソン」と言う。150万円で買って、中古店に持って行けば450万円以上で買い取ってくれる可能性がある。これは転売です。
でも、僕がやっているのは、中古市場に現存する腕時計の中から、値上がりするかなとか考えながら買って、しばらく身につけて楽しんで、何年かして、タイミングを見計らって売る。買った値段より上がっていることもあるけれど、買った時点では、今後上がるかどうかは断定できない。市場の動きや、昨今の情勢などをよみながらなので、そこは一緒にされたくないですね。
「需要がなくなって消えるリスクがない」中古腕時計市場はまだまだ大きくなる
斉藤緊急事態宣言が初めて出された2020年4月から下がり始めましたが、解除後から上昇し始めて、2021年にはロレックスの『デイトナ』やパテックフィリップの『ノーチラス』などの人気モデルがどんどん高くなって、過去最高値更新となっています。
――今後はどうなると予想されていますか?
斉藤20年前に30万円で売られていたロレックスが、今、一番安いモデルでも80万円くらいになっていたりするので、「バブルなんじゃないか」「高くなりすぎなんじゃないか」と言われています。データを見ると、日本で売られている中古腕時計の全体の時価総額は861億円なんです。高くなっていると言われていても市場全体でその金額なので、僕はまだまだ大きくなるんじゃないかと思っています。
――まだ大きくなると考えられる理由は?
斉藤時間を知るのに腕時計が必須な時代だったら、腕時計投資にはリスクはあると思います。でも、今、時間が知りたいなら100均の時計でいいし、性能を重視するなら電波時計を買えばいいわけで、そもそも高級腕時計はぜいたくなもの。みんなそれがわかっていて何十万も出して買っている。要は趣向品であり所有欲を満たすものですから、需要がなくなって消えるリスクはないし、まだまだマーケットは広がる可能性があると見ています。
――市場が大きくなるとそれだけ、好きな腕時計が高くなってしまい、手に入れることが難しくなってしまいます。ひとりの時計好きとして、そこへの寂しさはありますか?
斉藤正直、腕時計投資を始めたころは、その気持ちもあったんですよ。ただ、投資として考えたときに、きちんと値上がり、値下がりしてくれた方がいいんですよね。先に述べた通り、どんどん買って何十本もコレクションできるわけではないので。趣味と実益を兼ねて楽しむ。これが私のやり方ですね。
取材・文/河上いつ子
斉藤由貴生 著 小学館
腕時計投資新聞
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