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情報番組にコメンテーターはいらない? マンネリ気味の“ワイドショー”化と問われるMCの力

  • 情報番組でそれぞれ司会を務める坂上忍と安住アナ(C)ORICON NewS inc.

    情報番組でそれぞれ司会を務める坂上忍と安住アナ(C)ORICON NewS inc.

 2014年よりフジテレビ系で放送されてきた情報番組『バイキング(MORE)』が、来年3月末で放送終了を発表した。動物の保護活動に注力したいという坂上の意向とのことだが、かねてから各局でタレントMCや芸人コメンテーターの起用に対する批判は相次いでおり、“未知”の新型コロナウイルスへの言及・コメントの信憑性への反発を含めて不信感が強まっていた。そんな中、10月にスタートしたTBSの朝の情報番組『THE TIME,』では、総合司会の安住アナをはじめ、局アナ総勢11人に及ぶ強力布陣を揃え、コメンテーターのレギュラー出演はない。そもそも、情報番組にコメンテーターは必要なのだろうか。

NHKに始まった報道のワイドショー化 差別化競争から各局横並び状態に

 情報番組におけるコメンテーター起用は、報道のワイドショー化から寄与している。報道の歴史は放送開始とともにあるが、今日に続く“ワイドショー”化は1970年代頃に始まった。

「その元祖と思われるのが1974年、NHKで放送開始した『ニュースセンター9時』です」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「ラジオと違い、テレビでは映像を送れる。そうしたテレビが持つ特色を生かそうとして、より一般視聴者層にニュースをより興味深く、テレビらしいわかりやすさでお届けしたい想いでスタートしたと聞いています」(同氏)。

 いわゆる報道番組の改革だった。それまでになかった文化・芸能ニュースを盛り込むほか、長嶋茂雄を引退試合の直後に招くなど、“テレビ”らしい作りを模索。これに各局も追従していき、『アフタヌーンショー』などで“ワイドショー”のノウハウを豊富に持ったテレビ朝日が『ニュースステーション』(1985年〜)で上塗り。メインキャスターの久米宏の手腕により、報道番組に“トーク”を持ち込むというさらなる変革をもたらした。

 90年代に入ると、社会・経済以外の、芸能や生活ネタを扱うソフトニュースの割合が徐々に増え、報道番組とワイドショーのボーダレス化が加速。今日においては、『NEWS ZERO』(日本テレビ系)のようにテレビ局の報道班とバラエティ班が共同チームで制作している番組が多数あるほか、『ワイドナショー』(フジテレビ系)や『サンデー・ジャポン』(TBS系)のように、社会的なニュースも取り上げながらもバラエティとして完全に成立させていたり、『ラヴィット!』(TBS系)に至っては、「ニュースを一切扱わず、ワイドショーのような番組にもしない」という姿勢を打ち出したりと、情報番組のジャンルはさらに複雑化している。

「やがて“ワイドショー”は倫理的に逸脱しかけたスキャンダル、報道被害など悪いイメージがついたため“情報番組”と呼ばれるように。テロップや効果音・BGMの多用、タレントのゲスト演出は定番化し、芸能関連だけでなく社会・経済ニュースについても、芸能人にコメントが求められるようになっていきました」(同氏)

いつしか“ニュース討論番組”になっていた『バイキング』 コロナ禍で募った不信感

 『笑っていいとも!』(フジテレビ系)の後番組として2013年に放送開始した『バイキング』も、昨年9月『バイキングMORE』に改題の機に情報制作局に移行したが、当初はバラエティ班が制作するバラエティ番組だった。サンドウィッチマンの生中継コーナーなどが人気を博していたが、2015年に“情報バラエティ”へのリニューアルを発表。それまでMCは曜日ごとに日替わりだったが、月曜担当だった坂上が全曜日の総合MCに就任。ニュースについて、坂上とゲストらがスタジオで激論を繰り広げる光景もこの頃から見られるようになった。

 2016年に入ると、放送時間を50分拡大。“生ホンネトークバラエティ”として、とうとう討論を軸とした番組となる。しかし、専門家が出演する機会は少なく、その発言者はほとんど芸人やタレント。「コメンテーターの質が悪すぎる」「芸人が偉そうに語るな」などの声が多数寄せられていた。

 すると程なくして、古市憲寿、箕輪厚介、カズレーザー、最近ではひろゆきなど、“忖度”しないコメンテーターに注目が集まるようになった。いわゆる古くからのテレビタレントは、知識や興味のないニュースにも何かしら意見しなければいけないため、どうしても当たり障りのないコメントやMCや制作側の意図に沿う姿勢が目立っていた。視聴者がその予定調和に飽き飽きしていた反動だろう。

 そこに来て、コロナ禍だ。より正しい情報や意見が求められるようになった。「コロナ禍前は、人々はテレビの討論を“プロレス”的に観る余裕がまだあった。しかし、自らが当事者となる問題に関しては真剣にならざるを得ない。しかも相手は未知のウイルス。天気予報のようにノウハウも前例もないので、誰も正しい予想はできない。コメンテーターは曖昧な回答にならざるを得なくなった」(衣輪氏)

 感染症専門家としてテレビ出演が急増した岡田春恵氏も、昨年のインタビューで報道の怖さや誹謗中傷の苦悩を明かしていた。何が正解か分からず、未来も見えず、人々が不安に苛まれたコロナ禍は、専門家ですら何を言っても批判の対象となっていたのだから、情報番組におけるタレントコメンテーターへの不信感が尚更募ったのは無理もない。

1億総コメンテーター時代、TBSは視聴者に感想委ねる“原点回帰”で風穴なるか

 そんな中、大きな決断に踏み切ったのがTBSだ。夏目三久さんが総合司会を務めていた朝の情報番組『あさチャン!』では、2014年当初からコメンテーターを日替わりで起用していたが、2020年3月に堤伸輔以外全員降板。

 後番組として今年10月に放送開始した『THE TIME,』でも、コメンテーターのレギュラー出演はない。『バイキング(MORE)』同様、2時間半以上ある番組で、コメンテーターなしに、視聴者を退屈させることなくニュースを伝えるのは制作陣としてもかなりつらい。また、若者層を取り込みたいテレビ局としては、NHKニュースのように情報を伝えるだけの堅い印象でも、狙った視聴者は獲得できない。

 そこで光るのが、総合司会の安住アナと俳優・香川照之のトーク力だ。加えて、TBSきっての人気アナ・江藤愛と宇賀神メグが脇を固め、コーナーごとに他8名の局アナが出演。総勢11名もの局アナを動員している。安住アナの冒頭の挨拶、各ニュースの受けコメント、出演者陣とのやり取りの秀逸さには、改めて毎日驚かされる。情報を伝えるための情報番組に置いて、やはりニュースを伝える者のアナウンス力や知見が十分であれば、コメンテーターは不要なのではないかと思わされてしまう。もちろん安住アナほどのアナウンス力、対応力を持ち合わせたアナウンサーが各局にいるかと言えば怪しく、『THE TIME,』が新たな情報番組の指標になるかはわからない。

 しかし、コロナ禍を経た今、情報の伝え手・受け手の意識は確実に変化した。思えば、かつての久米宏や筑紫哲也のニュース番組ではコメンテーターは存在しなかった。ボーダレス化した報道番組と情報番組において、より若者を中心とした視聴者の共感や支持を広げるようと、各局がワイドショー化・バラエティ化し、“タレントコメンテーター”も定番となった。

「そもそもタレントコメンテーターは、“視聴者代表”の立ち位置だった。SNSで誰もが意見を言え、それが可視化された今でも“代弁者”は必要なのか。それに、番組や司会者の意思を汲み取った彼らの発言を“我々の代弁者”と素直に思う視聴者も番組が思うほど多くないはず」と衣輪氏。それぞれが報道や情報をどう捉え、どう思うか、視聴者1人1人がコメンテーターとなれることが求められる時代なのかもしれない。


(文/西島亨)

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