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青臭いイメージで一時は衰退も…紆余曲折経て“オシャレ飲料”となった豆乳 コーラやよもぎ餅味の珍フレーバーも人気
スタバ効果もあり“豆乳=健康的でオシャレ”な飲料に変化
82〜3年頃には「コレステロール・ゼロ」といった栄養面が新しい健康飲料として着目され、第一次豆乳ブームともいうべき出荷量を記録する。ところが数年経たずにブームは収束。豆汁を漉しただけの「無調整豆乳」特有の青臭い風味が、定着しなかった原因とされる。
やがて飲料メーカーが豆乳事業から続々と撤退するなかで、キッコーマンソイフーズほか数社のメーカーではあくなき味の追求を続行。砂糖や食塩、植物油などを加えた「調製豆乳」を、さらに飲みやすい味わいにするなどの開発努力が重ねられた。
そして2000年代に入り、テレビでは健康番組がブームに。そこで「大豆イソフラボン」や「大豆レシチン」といった豆乳の成分が「美容と健康に効果的」としてクローズアップされる。その頃には第一次豆乳ブームの課題だった飲みにくさも改善されていた。さらにスターバックスコーヒーが牛乳の代わりに豆乳を使用した「ソイラテ」を本格展開したことで、「豆乳=健康的でオシャレ」な飲み物としてのイメージが定着する。2011年以降、豆乳の消費量は毎年過去最高を更新中だ。
豆乳をより身近な存在としているのが、キッコーマンソイフーズが積極展開しているさまざまなフレーバーの200mlパック入り豆乳飲料だ。キッコーマンソイフーズの荻生康成さんによると、麦芽コーヒーやバナナ、いちごといった乳飲料として「わかりやすい」フレーバーは昔からあったが、第二次豆乳ブームが起こった2000年以降、やきいもやおしるこ、プリンやチーズケーキ、杏仁豆腐といったスイーツのようなフレーバーを続々と増やしたという。
「味のバリエーションを充実させていった背景には、豆乳にしかない世界観を作りたいという狙いがありました。また3時のおやつ代わりに豆乳を飲んでいる方も多いという調査から、スイーツ風味のフレーバーを増やしていった経緯があります」
さまざまなフレーバーの登場や味の改良で、独自のポジションを確立した豆乳
「よもぎの風味の再現に力を入れすぎたんですね。ネットには『飲む雑草』とか『畳を飲んでいる気分』といった非常にユニークな味の分析が続々と(笑)。社員みんなで楽しみながら読ませていただきました」
開発スタッフの熱意と本気が生んでしまった珍フレーバーだが、荻生さんは「決して失敗ではなかった」と振り返る。
「美味しさの追求は大前提です。しかしたくさんの商品が溢れるなかから豆乳を選んでいただくためには、想像を超えるサプライズをお届けすることも重要。意外と『こんな豆乳があっても面白いのでは?』といったノリの会話から新フレーバーが決まることもあります。桜餅風味の「さくら」など飲料としては珍しいのですが、好評でした。1人でも多くの方に、大豆の栄養を手軽に摂れる豆乳を飲んでいただけると嬉しいと思っています」
近年は、「プリン」や「杏仁豆腐」をカップに移してあたため、粉ゼラチンを溶かして冷やし固める“豆乳プリン”にしたりと、簡単アレンジを楽しむ人が増えている。また、豆乳をパックのまま冷凍庫で凍らせる“豆乳アイス”もブームになった。これは同社が提案したものではなく、ユーザーから自然発生的に起こったムーブメントであるという。昨年発売のソーダ味も「凍らせるとさらにうまい」と、200ml紙パックの豆乳飲料をそのまま凍らせてアイスやシャーベットにしたり、炭酸水で割って飲む人もいたようだ。
「豆乳飲料をパックのまま凍らせる“豆乳アイス”のアレンジレシピを紹介するSNSがたくさん投稿されているのを見て、弊社ではすぐに紙パックの安全検証を行いました。冷凍したことで紙パックが破裂しないか、外部機関にさまざまな家庭用冷凍庫で分析していただいたんです。その結果、弊社の採用している容器は問題ないことがわかりました。ただし凍らせるとタンパク質が変質しますので、『解凍せずそのままお召し上がりください』とご案内しています」
また容器のまま作ってそのまま食べられ、洗い物いらずな手軽さも200mlパックで作る“豆乳アイス”の魅力だが、ハサミで紙パックを切る際にケガをする危険性もある。そこで同社では安全かつ上手に“豆乳アイス”を作るための紙パックの立て方を考案。パッケージや公式ホームページの動画で紹介し、普及に努めている。
「アレンジレシピについてはユーザーの皆さんの方が先を行っていて、SNSを見るたびに『こんな使い方もあったのか』といった驚きと発見があります。また、豆乳がメインとなった料理も数多く生まれ、豆乳鍋がその代表例でしょう。牛乳の代用品というイメージもありましたが、今では豆乳は独自のポジションが確立されています。冷蔵庫に牛乳と豆乳の両方が常備されている家も少なくありません」
スーパーだけでなくコンビニなどでも多種多様な豆乳飲料が陳列されているが、遊び心あふれる数々のフレーバーで“豆乳=まずい”という意識が薄まり、豆乳が身近なものになったのは、ひとえに企業努力によるもの。あっと驚く珍フレーバーに今後も期待したい。
(文/児玉澄子)