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自衛隊らしからぬキャッチ―さ…広報誌『MAMOR』のグラビアがSNSで話題に、“防人の女神”を置くワケ

 扶桑社が発刊する防衛省・自衛隊の広報誌『MAMOR』。自衛隊の広報誌と言われれば、どこかお堅い印象を受けるが、実際にページを開いてみると写真やイラストの点数も多く、自衛隊員のことを身近に感じられるようなキャッチーな企画が並ぶ。そんな同誌の2020年8月号で表紙を飾ったのは声優の鬼頭明里だが、これを受け、とある自衛隊の地域事務所がインスタグラムで公開した“写真”が話題となった。鬼頭明里とまったく同じグラビア風のポーズを撮る隊員の写真だ。この投稿はツイッターでも一般人が拡散するなど大きな反響を呼んだが、一連の流れを編集部はどう見ていたのだろうか。

「ネタにしていただけたのは非常にうれしかった」

 話題となったのは雑誌の中の鬼頭と同じポージングを取る、自衛隊員の写真だ。自衛隊のSNSアカウントは、各地域でラフに運用されている傾向があり、時折ゆるい呟きが話題になることも。『MAMOR』に関連した投稿が大きな反響を呼んだ事に同誌編集長の高久裕氏は「うれしいですよ」と顔をほころばせる。

「昔から“悪い広報はない”とよく言われたものですけど、例え叩かれたとしても無視されるよりはいいと思っています。せっかく物を作って、世に出しているのなら誰かに何かを言って欲しいと思うのは普通の感覚。あのようにネタにしていただけたのは非常にうれしかったです」(高久氏)

 これまで『MAMOR』の表紙に登場してきたのはいわゆるグラビアアイドルやタレントと呼ばれるジャンルの人たちだ。しかし8月号で「鬼頭さんを表紙に」と提案したのはエディターの菊池祐太氏。2017年7月号で表紙を飾った人気声優の竹達彩奈もアニメやサブカル好きの菊池氏の一言がきっかけとなり実現に至ったという。

「竹達さんも鬼頭さんも自信を持って世に出した表紙ではあったんですが、実際『MAMOR』の読者ではない層からも反応がありました。感想ハガキのコメントも、普段とは全然違う内容のものが送られてきましたし、似顔絵イラストに、『表紙にしてくれてありがとうございます』とコメントが添えてあるものも届きましたね」と菊池氏。

 創刊から14年。これまでで最も売れたのは2019年2月号だという。表紙はアニメ『ガーリー・エアフォース』とコラボしたもの。創刊以来、初となるイラストが採用されたが、高久氏は「ものすごい反響がありました」と振り返る。

「これは発行部数3万を売り切りました。僕は『週刊SPA!』をはじめとしたさまざまな雑誌を数十年作ってきて、グラビアというと、グラビアアイドルやタレントさんが飾るものと固定観念があったわけだけど、アニメというものがものすごく大きな市場に成長していることを実感しました。その分野における菊池のアイデアには信頼を寄せています。僕のようなおじさんが知らない世界もあるなと割り切っているというか(笑)」

「○○目当てで買った」が重要、YouTuberやボーカロイドも表紙の候補に

 そもそもなぜ自衛隊の広報誌に著名人のグラビアを掲載しているのだろうか。そこには高久氏のこんな狙いがあった。

「この雑誌は普段自衛隊にまったく興味がない人に買ってもらいたい雑誌です。『自衛隊のことなんてまったく知らないし、興味もない』という人にこそ手にとって欲しいと思っています。となると、やはり表紙に力を注ぐなど手にとってもらうきっかけを作らなくてはいけません。その上で、読んでみたら初心者向けの自衛隊情報がわかりやすく載っていることが重要なのかなと。実際メールとかハガキでは、『竹達さん目当てで買いましたが、中身も面白かったです』などの意見をもらうんですよ。そこから定期購読に繋がった人もいます。手にとってくれる人の門戸を広げたいーー。つまりそういうことです」

 とはいえ、企画会議から校正まですべて自衛官の監修が入り、ある程度の制約もある。しかしそんな中でも高久氏が持ち続けているマインドは「攻めの姿勢」だ。

「創刊して2〜3年目くらいに『水着のグラビアを載せたい』と防衛省に提案したら『必然性があれば』と言われました。なんとか、必然性を探り続けて実現したグラビアが2019年9月号の大貫彩香さん。このグラビアは掃海艇といって、海に入って機雷を排除する自衛官の設定なんです。その号の特集『掃海』と結びつけることで、なんとかここまで露出した写真を掲載することができました。読者の方は何気なく見ている写真だと思いますけど、我々にとってはエポックメイキングな撮影。苦節10数年でようやくここまでたどり着きました(笑)」

 鬼頭明里さんをはじめとして、制服で表紙を飾る女性たちは“防人の女神”と呼ばれ、SNSを中心に話題になることも多い。一体編集部はどのような視点でブッキングをしているのだろうか。

「パッと見て誰もが反応できる有名人という視点は変わりません。今後登場いただきたいタレントさんは綾瀬はるかさんや深田恭子さん。多くの人に愛されている人に表紙を飾ってもらいたいと思っていますし、YouTuberやボーカロイド(初音ミクさん)も候補にあがっています。今後も防衛省と相談しながら、話題性を作る事にチャレンジしていきたいですね」(菊池氏)

『SEMER(せめる)』の姿勢で創っていく

 「防人の女神たち」のグラビア撮影は自衛隊の基地・駐屯地などで行われているが、実際に著名人が現地を訪れてることで副産物が2つ生まれているという。

「まずロケ先の部隊がすごく喜んでくれるんです。訓練のモチベーションアップにも繋がっていると思いますね。一方、表紙を飾ってくれる方も自衛隊の基地に行くのはだいたい初めての経験だったりするから、みんな興奮してTwitterやブログなんかで情報をシェアしてくれるんです。そうすることで何万人といるファンに向けてリーチすることができる。SNSマーケティングじゃないけど、それがきっかけで雑誌を手に取ってくれる読者も結構いるんです」(高久氏)

 実際に雑誌を手に取った読者の心を掴む工夫も忘れない。高久氏が編集する上で大切にしていることは創刊以来、一貫している。それは「素人の視点」を持ち続けることだ。

「雑誌に関わるライターには常にフレッシュでいることを求めています。長年携わると、どうしても驚きはなくなってしまう。しかし初めて自衛隊の基地や駐屯地を訪れたライターなら戦車を見ると『すげー!』と素直に驚き、その興奮がキチンと文章に出てくるんです。『MAMOR』では初めて戦車を見た感動や驚きというものを伝えていきたいと思っています。もちろん固定で書いてくれているライターもいますけど、なるべく同じ部隊には行かせないというような工夫もしています」

 「出版不況」や「活字離れ」という言葉が叫ばれて久しい。新型コロナウイルスの影響で「店舗離れ」も一段と加速している。そんな時代における誌面作りをどう考えているのか。高久氏は最後にはこう話した。

「これからも『SEMER(せめる)』の姿勢で作っていきたいですよ。長い事、出版社で働いていますけど、近い将来、紙の雑誌は無くなっていくんじゃないかなという危機感を持っています。防衛省もTwitterやYouTubeで情報を展開しているし、ネットの方がダイレクトに勢いを感じられるかもしれない。でもそんな時代だからこそYouTubeやTwitterより反響があるものを作っていきたいんです。紙ならではの攻撃を仕掛けていって、雑誌を読んでくれた人が『自衛隊ってすごいな』と思ってくれたら最高ですね」
(取材・文/中山洋平)
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