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相次ぐ延期でスタートばらつき…ドラマの「クール」は本当に必要? ネット配信の浸透で作品訴求力も変化
コロナ禍で『愛の不時着』『梨泰院クラス』が大ヒットした意味
現在放送中の『半沢直樹』は、視聴率が4週連続で22%超えを記録(ビデオリサーチ調べ、関東地区)するなど好調だ。しかし、ドラマ視聴率はここ数年、下降傾向にあることは事実にある。さらに新型コロナによって、広告市場の縮小も進んでいる。そんなテレビ苦境の環境下で、「クール」の概念が崩れつつあるこのタイミングだからこそ、それにとらわれない番組アプローチが生まれても良さそうだ。
コロナ禍には数々のドラマが再放送され、『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)、『野ブタ。をプロデュース』(日本テレビ系)などの名作が話題を集めたが、一方で、Netflixで配信された『愛の不時着』『梨泰院クラス』といった、連続ドラマの人気がマスへと拡大。芸人やタレントが地上波テレビでその話題を口にし、未だにNetflixが毎日更新する「今日の総合トップ10」のランキング上位の座を守り続いている状況だ。
この人気ぶりはまさに、「観る価値に値する面白いドラマ」と評価された表れそのもの。ファンの反応をみると、『愛の不時着』や『梨泰院クラス』は全16話ほどのボリュームがあるが、その長さはさほど苦にならない様子。それよりも、ストーリー構成や登場人物のキャラクター性が伝わり、ドラマの世界観に没頭させる力があったようだ。『愛の不時着』は何度も繰り返して楽しむファンが多いと言われている。
韓国ドラマは国内市場だけでなく、グローバルでもヒットを狙って制作されることが当たり前。こういった制作事情も影響し、制作費をかけて世界で勝負できるドラマが生まれている。だが、日本のドラマも世界にアプローチできる魅力が詰まっているはずだ。「クール」を前提とした話数の縛りや国内人気だけにとらわれず、世界に向けて発信できるドラマをもっと積極的に展開してもいいのではないか。
“地上波ファーストにとらわれない” 世界にドラマを発信する各局の試み
一方、「クール」を維持しつつも、地上波ファーストにこだわらない施策としては、各局でいくつかの事例が見られる。この動きについても、やはり日本テレビが先行する。
2018年10月期に放送した千葉雄大主演の『プリティが多すぎる』(全10話)は、7年前に新設された「海外ビジネス推進室」による初の試みで、ターゲットを中国市場に絞り、中国や韓国、台湾、シンガポールなど世界10の国と地域で同時配信され、大きな話題に。最終回の配信前に中国・上海で行われた千葉のファンミーティングには、約450人が集まり賑わいをみせたという。
このほか中国ファーストの連続ドラマは、今年2月から放送された古川雄輝主演の『LINEの答えあわせ〜男と女の勘違い〜』(読売テレビ、全10話)もある。ジェネレーションZ世代の若者から支持される中国の大手配信プラットフォーム『bilibili(ビリビリ)』との同時配信が展開され、初回放送開始後、16時間で100万回再生を記録するほどの人気ぶりだった。
また『東京女子図鑑』(Amazon Prime Video)の男子版とも呼べる『東京男子図鑑』(全10話)も日中共同プロジェクトで作られた連続ドラマである。2019年12月にアジア地域で先行配信された後に、今年2020年4月から地上波の関西テレビ、その放送翌日から『FOD』や『U-NEXT』などで配信が展開された。
いずれも話数は10話前後と、アジア全体でみるとコンパクトなつくりだが、これらの動きは地上波ファーストにこだわらない姿勢のひとつとしてみていいだろう。
今年3月には、NHKが地上波の番組をネットで同時配信し、放送後1週間視聴できる「NHKプラス」をスタート。日本テレビも10月から、夜7時から11時のプライム帯を中心に同時配信を毎日、試行することを明らかにしたところだ。ネットも絡めたヒットの広がりは、今後ますます加速することが予想される。
「柔軟にドラマを楽しみたい」コロナ禍で浸透した新たな視聴スタイル
視聴者の視聴スタイルの変化、配信プラットフォームの浸透、オンライン上で世界にアクセスしやすい環境などを背景に、ドラマの楽しみ方は、コロナで自粛が続いたこの半年だけをみても大きく変わったことは明らかだ。『YouTube』や『TikTok』といった短尺コンテンツの話題も盛んなことがそれを裏付ける。コロナ禍の影響は、好きな時に好きなコンテンツを視聴するといった“積極視聴”の視聴習慣をも増長させているのだろう。
まさに、『愛の不時着』ブームはそれも証明するものになっている。かつて韓流ブームの火付け役となった『冬のソナタ』との明らかな違いは、『冬ソナ』は(受信料を払えば)誰でも見ることができるNHKの総合テレビで放送されたものだったが、今回はNetflixという定額制のネット配信サービスで提供されたもの。つまり、ネットの視聴環境が求められ、わざわざ加入して、有料で視聴するといった段階を踏む必要があるにもかかわらず、「それでも観たい」と思わせる積極視聴があったということだ。
これは、テレビ局が編成した番組表から受動的にテレビを見る習慣だけでなく、世界中のコンテンツが一斉に並ぶ棚から、能動的に好みの番組を探して視聴することも受け入れ始めていることを表すものだろう。
春、夏、秋、冬のドラマといった季節感もドラマを楽しむ要素にあるのに違いないが、改編ルールに沿うことにもし惰性があるのなら、作品の魅力は半減するいっぽうだ。良作にこそこだわって欲しい。そのニーズに変わりはない。
(文/長谷川朋子)