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宮迫以後の『ホトトーーク』から見えた新たな可能性 不安要素も追い風にしてボトムアップ
オリジエーターゆえに起こるマンネリ化との戦い
最初に“括りトーク”が脚光を浴びたのは2004年のメガネを掛けた芸人を集めた「メガネ芸人」だった。この後「ガンダム芸人」「家電芸人」も話題になり、とくに「家電芸人」は土田晃之や徳井義実、細川茂樹などの新たな一面を発掘。その後は「CoCo壱番屋芸人」「餃子の王将芸人」「天下一品芸人」など外食・食事に関する括り、「エヴァンゲリオン芸人」「ジョジョの奇妙な芸人」などアニメや漫画をテーマにした括り、「黒沢ナイト」「椿鬼奴クラブ」「RG同好会」など芸能人について語る括り。これらを収録したDVDも人気を博し、現在45巻まで発売されるなどの大ヒットとなった。
こう書くと、同番組は順風満帆だったかに思える。しかし2012年の同番組プロデューサー兼総合演出・加地倫三氏のインタビューによれば、「去年(2011年)の11月くらいにちょっとヤバイなって。僕の中で終焉が見えたというか」と吐露。「遊んでいるだけでいいキャリアの番組では無くなってきたなという感覚はあります」と、超人気番組になってしまったがゆえの“息苦しさ”を話していた。
「同番組も長寿番組ゆえの宿命をまぬがれなかった」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「2007年頃からでしょうか。出演芸人がいつも同じ顔ぶれでマンネリを感じるといった声が挙がり始めたのです。フォロワー的番組も多く作られ、フォーマットそのものの新鮮さが失われることによる経年劣化も。ほか、アニメや漫画の括りでは視聴者がよりコアな内容を求めるようになり、出演タレントが“にわか”とSNSで叩かれる現象も見られました。オリジナリエーターだからこそ期待のハードルが上がりきっていた。その弊害でしょう」
世間の不安も大きかった“宮迫以後” MC蛍原一人体制で起きた新陳代謝
「ツッコミとフォローができる宮迫さんなき後の番組を心配する声もありましたが、SNSでは蛍原さんを絶賛する声が目立っていました。芸人対談インタビューなどで、対談相手のトークをより面白くする、対談を率先して回していくなど宮迫さんのポテンシャルを僕自身がナマで見てきた上で敢えて言いますが、宮迫さんのいない制作法で番組のマンネリが解消された一面はある。ここにお笑い第7世代の台頭という幸運にも見舞われた」(衣輪氏)
第7世代のヒットで出演芸人の新陳代謝が行われ、幅が広がったのは番組にとって大きい。若手芸人の予測不可能な動向をしっかりと仕切れる宮迫がいないことはかなりの痛手に思えたが、蛍原一人体制だからこそ生まれた新たな笑いも見られるようになった。
「例えば『今年が大事芸人2020』では、第7世代の宮下草薙・宮下さんと、三四郎・小宮さんがトーク中にガチ(?)喧嘩を。これに蛍原さんが『これはバラエティだよ〜』とフォローを入れた後突如、珍妙なダンスを踊りだしました。非常に新鮮でしたね。もし宮迫さんがいたら、ツッコミでまとめていたところだったでしょうが、災い転じて福となす。蛍原さんだからこその脱力系場収めでお茶の間の笑いをさらったのです」(同氏)
また「NEXTお笑い第七世代」ではブレイクの期待がかかる芸人7組が登場。『アメトーーク!』慣れしてなかった放課後ハートビート・HIWAらが放送事故スレスレで噛んだり、自分のトークを渋滞させたりとヒヤヒヤさせられたが、これについても衣輪氏は、「そこに対して宮迫さんのフォローがなかったゆえに、彼らの“芸人”ではないリアルな“人間”部分がむき出しになり、アクシデント的なヒリヒリした面白さを醸していました。そのヒリヒリこそが『アメトーーク!』の魅力と言え、本来の笑いに、蛍原さん一人だったからこその新たな笑いが見られた象徴的な回でもありました」と分析する。
芸人泣かせのコロナ禍での現場 マイナスを受け止めボトムアップ
6月11日放送の「バラエティ観るの大好き芸人」では、ほぼ全てのバラエティ番組を見ていると豪語する平成ノブシコブシ・徳井が初参加。徳井のバラエティ番組への造詣は想像以上で、「『アメトーーク!』では台本がないところを言う時に手が震えそうになる。本当は黙っていたい。それでも出なきゃと思った瞬間が『アメトーーク!』のヤバいところ。これはモニターじゃ出来ない」など同番組の本質を分析。ほか出川哲朗や品川祐らがそれぞれのバラエティ番組への愛、分析を行い、その“深さ”にSNSで「神回」と推す声も見られた。
7月2日放送の「小物MC芸人」は視聴者のみならず、さまぁ〜ず三村やNMB48渋谷凪咲らもツイッターで反応。7月9日放送「東野プレゼンツ3部作」では千鳥の過去映像が紹介。東京進出直後で振るわなかった千鳥を面白おかしく取り上げた東野幸治のVTRが紹介され、「東野のプレゼン力は完璧」「千鳥が売れた今だからこそ貴重な回」とSNSは熱狂していた。
観客なし、リモート収録、限られた人数でのスタジオなど、場の雰囲気が重要な芸人にとってはレスのない空気感はやりづらい。だが『アメトーーク!』では、それを逆手に取って新たな笑いを生み出し続けている。無観客だからこそ、芸人が攻めの笑いを見せられる面もあるかもしれない。もちろん加地氏の手腕と超一流の編集力もその背景にある。
フォロー役の宮迫が不在、スタジオ収録ができないコロナ…この1年の間に大きな打撃が番組を襲ったが、『アメトーーク!』はこれまでのコンテンツの蓄積、出演芸人の新陳代謝などでマイナーチェンジをしながら今も話題に登り続けている。業界も注目するこのパイオニアは、面白くなる余地をまだまだ残していそうだ。
(文/中野ナガ)