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タレントがTVに消費されない時代に “経年劣化”叫ばれるバラエティとの向き合い方
『アメトーーク!』フォーマットを自ら全否定するエポックさ
霜降り明星のせいやが提唱する「お笑い第七世代」というくくりはテレビでも昨今よく見られる括りであり、この中に入ることで、お笑いファンだけではなくお茶の間で認知度が上がった芸人がいる印象も。しかしなかには、自身のお笑いにプライドがあることから一括りに否定的な芸人もいるようだ。実際、同放送でも、宮下草薙の宮下は「こうやって一つの括りにされることで…」と不満爆発していた。
「これらは、昨今のバラエティの定番についてばかり。「『アメトーーク!』は定番の多くを創り出してきた番組ですが、その功績をも「全否定」するコメントを番組がカットしなかったのはさすが」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「潔さの現れであり、トークバラエティの経年劣化を番組自体が感じているからのディレクションかもしれない。これには『アメトーーク!』でブレイクしてきた芸人(千鳥やMCの蛍原、冠番組「霜降りバラエティ」のある霜降りも)らも放送内で困惑・苦笑い(笑)。それを見ても、今後お笑い界に新たな流れが登場するのでは…と予感させた、自己批判的・メタ色の強い回でした」(衣輪氏)。
新世代の芸人はどこを舞台に戦っていくか
実際、『EXIT Charannel』の登録者数は41万5,000人と決して少なくない。ほか「第七世代」では霜降りも『しもふりチューブ』を開設しており、登録者数は55万4,000人。「とくに若手は活躍の場をテレビやラジオ、ライブだけとは考えておらず、YouTubeにも面白みを感じているふしもある」と先述の衣輪氏。これには“先駆者たちの活躍”がある。
登録者数が170万人のカジサックをはじめとして、昨今話題になった『エガちゃんねる』はそこに肉薄する158万人。現在8本の動画しかないと考えると、これはとんでもないスピードだ。このほか賛否両論の宮迫博之の『宮迫ですッ!』もなんだかんだで59万2,000人。マニア人気のあるロバート秋山の『クリエイターズ・ファイル』は53万1,000。またテレビではほとんど姿を見ることがなくなった宇宙海賊ゴー☆ジャスは『ゴージャス動画』でコアな人気を誇っており、42万1,000人。広告収入も入ることも考えれば「決してテレビやラジオ、ライブだけじゃなくても良い」と考えるのは当然のことだろう(すべて2月18日現在)。
ほかにもSNS(Twitter、TikTokなど)も重要な戦場になっている様子。衣輪氏は「ネットなどに抵抗がなければ、テレビにいいように使われたくないと自身の価値を見極めることも可能。そして実際その流れは起き始めている」と分析する。どこか年功序列、縦社会があったお笑い界だったが、今までなかった流れ・意見が出てきているのだという。
「テレビに出られないからYouTubeというネガティブな認識は今も根強いですが、YouTubeにお笑い以外の可能性が広がっていることでポジティブにとらえている若手の芸人は実は驚くほど多い。そもそもYouTubeは“目標”は何でもいい。形にとらわれなくていいのです。オリラジ中田さんの『中田敦彦のYouTube大学』では中田さんの新たな可能性が見られましたし、YouTube以外ではキングコング西野さんはネットサロンやクラウドファンディングを利用してクリエイターとしての活躍もしています。テレビ出身者以外で話せば例えば、編集がうまいフィッシャーズのシルクさんなら映画への可能性も広がっている」
「また、昨今YouTubeでライブ配信をしているよゐこさんにお話を聞いたところ、よゐこさんはYouTubeで人気になって、そこからテレビに呼ばれる流れを目標にしているそう。イメージ的には音楽番組での、ライブ会場からの中継ですね。こうしたさまざまな流れが生まれてくる今後、YouTubeやTikTokで人気になり、そこからテレビという“オールスター戦”に呼ばれる人も次々と現れるでしょう」(同氏)
TVに消費されるからこそ生まれる「一発屋」の連鎖
テレビに消費されるお笑いの一つが「一発屋」だ。同じネタを何度もやると、認知度は上がるが、飽きられ消費され、芸人としては消えてしまう。そんな姿を何組も見てきた第七世代が、危機感を感じていてもおかしくない。「悪しき負の連鎖(一発屋)を繰り返さないようにする模索は若手に限らず。その模索にYouTubeをはじめとするインターネットは相性が良い」(衣輪氏)。
ただ、単に流れに乗るだけでは潰されてしまう。芸人自身がテレビに消費されず、自己プロデュースをし、生き残る術を見つけていかなければならない。テレビだけにとらわれないフィールド=YouTube、ラジオなど自分たちが消費されない場を自分で見つける時代に入っている。今回の放送はそういった意味でも視聴者、業界などバラエティ番組に対する起爆剤にもなった。繰り返しになるが、それを17年目に入った『アメトーーク!』が放送したことに大きな意味がある。
(文/中野ナガ)