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ORICON NEWS
ウナギ生殖の謎追う学者たち描く漫画に反響、完全養殖の実用化めざす近大に聞く意義
迷走しまくる歴代学者たち、アリストテレスも「ウナギは大地のはらわたから自然発生」
松本ひで吉さん動物エッセイ「子どもには聞かせられない動物のひみつ(青土社)」のウナギの章に感銘をうけて描きました。著者の探求心ととんちが冴えわたる素晴らしい1冊です。ウナギの繁殖が難解すぎて、歴代の学者がみんな迷走しまくっているのが楽しかったのです。
――日本人にとって、ウナギはどのような存在だと思われますか。
松本ひで吉さんうまいもの。前述の著者は、絶滅危惧種のウナギを食べるのはパンダの寿司を食べるのと同じくらい、おとがめものの行為だと書いておりました。
――ニホンウナギ人工ふ化成功のニュースを聞いて、どのように思われましたか。
松本ひで吉さんこれでウナギの絶滅が免れられたらいいな、と思いました。地球から生き物が減るのはさみしいです。
――数多くの生物の中でも、ウナギの生殖が長年謎に包まれていたのはなぜでしょうか。
近畿大学 田中秀樹教授人目に触れる川や湖のウナギは、お腹を開いても他の魚のような卵巣や精巣が見つからなかったため、どこでどのようにして子孫を残すのか見当がつかなかったのです。古代ギリシャのアリストテレスは「ウナギは大地のはらわたから自然発生する」と述べていますし、日本では「山芋変じてウナギと化す」といった説もありました。後に明らかにされるように、ウナギは成熟が始まると海に下り、外洋の産卵場までの長い回遊の途中で成熟が進むため、川や湖のウナギは極めて未熟で生殖腺の確認が困難なためです。
世界中のウナギが旅に出ないと大人になれない?養殖ではヒトやサケのホルモンで成熟
田中秀樹教授実は、人工ふ化そのものは世界で初めて北海道大学において1973年に成功しています。しかし、当時は産卵場も全く不明だった時代で、ふ化直後の適切な餌がわからずその後育てることができませんでした。それから研究が進み、人工ふ化・初期飼育の成功はこれまでも各機関で達成されていますが、量の確保、低コストでの生産はまだまだ課題です。現状では第一歩を踏み出しただけなのです。
――ようやく生殖の謎が解けても、完全養殖の実用化への道はそう易くはなさそうですね。
田中秀樹教授ウナギは何もせず飼育していると、何年経っても、どれだけ大きくなっても、卵を産むことはありません。本来は、北西太平洋にあるマリアナ海域の産卵場まで回遊することで初めて、途上の環境変化の刺激によってホルモンが分泌されて成熟が進むものと考えられています。しかし、飼育条件下でその再現をすることには成功していないのです。
――マリアナ海域まで泳いで行かないとウナギは大人になれないということですか…!
田中秀樹教授人工的にホルモンを投与して成熟を促す「人為催熟」が必要になります。ウナギ自身のホルモンは手に入らないため、オスウナギにはヒトの生殖腺刺激ホルモン、メスウナギにはサケの生殖腺刺激ホルモンを含む抽出液を注射して成熟を促していますが、いずれも本来のホルモンではないためなかなか良質の卵が採れません。ほかにもえさの改良やコスト削減など完全養殖の実現は課題が山積みです。
田中秀樹教授我々が取り組む「完全養殖を目指す種苗生産技術開発研究」については、天然資源に依存しない持続的な養鰻技術を実現することに意義があります。天然の稚魚を採って育てたものではなく、人工ふ化させた完全養殖のウナギであれば、「絶滅危惧種だから食べない」と言われる方にも心置きなく食べていただけるからです。
――心置きなくウナギが食べられる日を待ち望んでいる方は全国にいると思います。
田中秀樹教授ウナギという単一の魚種だけをメインの食材とする専門料理店が全国に存在する、このような魚種、食材は他に例がありません。日本人にとって、他の魚種では代替できない特別な魚だと思います。
――歴史が深く、謎深く、並々ならぬご苦労あるかと思いますが、完全養殖の実用化、期待しております!
田中秀樹教授数々の魚種の完全養殖を成し遂げてきた近畿大学水産研究所の総力を結集してウナギの完全養殖を成し遂げ、最初は期間限定、数量限定で、値段的にも安くはならないと思いますが、少しでも早く一般の方に「持続可能な養殖鰻」を賞味していただけるように頑張ります!