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児童虐待を"リアル"に描き反響、作者の思い「一番怖いのは無関心」

 昨今、児童虐待のニュースがたびたび話題に上っている。8月1日に厚生労働省から公表された「平成30年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)」では件数は15万9850件。前年度より2万6072件(19.5%)増え、過去最多を更新している。そんななか、ホラー漫画界のレジェンドである犬木加奈子さんが児童虐待をテーマにした新作『サバイバー〜破壊される子供たち〜』を上梓。電子コミックのプラットホームである「まんが王国」で連載をスタートした。犬木さんはなぜ虐待漫画を描こうと思ったのか。その心情やスマホ漫画ならではのこだわり、また昨今のコンプライアンスについてまで聞いた。

保護された子供の実態話を読み衝撃、「実情を知ってほしい」

 犬木さんは1980年代後半から90年代にかけてホラー漫画ブームを牽引。心優しいイジメられっ子・多々里が、イジメっ子に祟りを使ってお仕置きする『不思議のたたりちゃん』(講談社)やストーカー気質の怪人・不気田くんの悲恋を描く『不気田くん』がその代表作で、どちらも映像化されている。

――ホラー漫画家としても数々の人気作品を出してきた犬木先生ですが新作『サバイバー〜破壊される子供たち〜』は虐待がテーマ。なぜこのテーマを選ばれたのでしょうか?

犬木加奈子さん昨年、被虐待児を預かっている施設の知らない実態話を読み衝撃を受け、関連する本を読みまくり、虐待児専門の施設が殆んどなく心のケアもされぬままで要ることなどを知り、恐れ多くもその実情を知っていただきたいと思いました。

――本作の作品紹介に『実在した衝撃の虐待事件を元に…』とありましたが、実際に一つの事件をモチーフにされているでしょうか? 

犬木加奈子さん紹介文の「実在した衝撃の虐待事件を元に」という文面は、特定の事件という意味でなく、世の中の虐待にまつわる実情について本などから情報を得て創作しているという意味です。物語はすべて私の創作です。漫画家ですから。事件にはならず、保護された子供たちの実態を参考にしたのですが、そこでは虐待児は「サバイバー」と呼ばれるのだそうです。久しぶりの連載で描きためてから配信しようと作業をしているうちに、酷似した虐待事件が報道されたので誤解の無いようあちこちで言っておいたのですけどね。

――描くにあたり参考にされたものはありますか?

犬木加奈子さん沢山の本を読み、総合したものです。専門の施設を最初に立ち上げた方の話や心理学精神科医の方の話なども参考にしました。

――考えさせられる部分も多く、怖いだけでなくひきこまれる内容ですが、どのようなことを意識して描いていますか?

犬木加奈子さんありがとうございます。創作とは言え、実態を知って欲しいので、大げさな虐待ではなく実際に子供たちがされていたものを描きましたが、これが想像以上なので逆に作りものっぽくなってしまいましたね。

漫画創作中にも実際の虐待事件が…

――現実社会でも、虐待事件がいくつも起こっておりますが…。
犬木加奈子さん私 怖い漫画家描いてきましたが、それは普通をしらなければ描けないんです。だから、おそらく普通とは思えない感覚が 物凄く恐い。現実社会が怪物、人間は化け物ですね。

――漫画とニュースがリンクしてくるような感覚もありましたか?

犬木加奈子さん思いました。例えば「家の中で凍傷になる」など、「私が読んだ本を参考にそういうニュース作ってるんじゃ」なんて思いましたよ。

――連載がはじまって反響はいかがでしょうか? 

犬木加奈子さんまだ 特にありませんがインタビューも幾つかきて有難いですね。かなり重いテーマなので嫌がる方も多いかも知れないという事は編集側とも企画当時から覚悟してました。私のワガママを通してもらって感謝してます。

――読者のコメントで「絵の表現力が豊かで、話に引き込まれます」との声がありますが、この作品を描く上で気をつけている部分やこだわっている部分は?

犬木加奈子さんありがとうございます。表情にはとても気をつけてます。大根役者にならないように演技指導してます。演出にも気を配りますが美術さんが下手で困ってます(笑)。

――「虐待の理解を広め、虐待を減らすことに貢献するような作品になるのでは」という読者の声もありましたが、そのあたりも意識されているのでしょうか?

犬木加奈子さんおこがましいのですが、そう思ってます! だから わざと後書きに「今 虐待児に必要なのは好奇心と同情」なんて過激な発言しました。誰かが「なんて不謹慎な!」っていうように「興味とか関心」って言葉もあるけど、「なぜそんなことが?」と思ったら、それはもう好奇心でしょう? 一番恐いのは「無関心」。これは昔、多々里ちゃん(『不思議のたたりちゃん』)を描いてる時つくづく思ったこと。同情も愛がなければ同情とはいえないのではないでしょうか?

コンプライアンスや表現の自主規制、漫画家の思いとは…

――今作は、電子WEBでの連載となりますが、スマートフォンで読まれることで、コマ割りなど変化させた部分は?

【犬木加奈子さん】本で見るように見開きで構図をとる癖が抜けなかったり、開いた時の驚かせができないなど慣れない点もあります。単行本より小さなスマートフォンの画面でもインパクトが伝わるように、電子では1ページあたりのコマ数を6コマ以下に減らしています。

――昨今、コンプライアンス問題などで、表現に対するある種の自主規制も増えてきたように思いますが、犬木先生はいかが思われますか?

【犬木加奈子さん】20年位前エロ漫画規制でかなり大騒ぎになりその余波を漫画全体が浴びました。私も知り合いの出版社社長の面会に刑務所までいきましたが、編集はどこもビビりまくっていますね。でも今は、あの頃から比べると落ち着いてると思います。

――ホラー漫画の女王として、『不思議のたたりちゃん』や『不気田くん』など数多くの人気作を生み出されてきましたが、もともと先生のホラーは、人間の怖さみたいなものも内包されていたと思います。今作に通ずる部分はありますか?

【犬木加奈子さん】あります! 読者が充分大人になったからこそ挑戦できた題材で、『たたりちゃん』の延長線上にある作品だと思っています。『たたりちゃん』の読者が大人になったからこそ描けた作品といえると思います。

――では、今作でいちばん伝えたいメッセージは?

【犬木加奈子さん】「見て見ぬふりされた者の絶望と恐怖」。電子書店の「まんが王国」だからこそ実現できた企画だと思いますので是非『サバイバー〜破壊される子供たち〜』を見て頂ければと思います。

――今後、描きたいものは?

【犬木加奈子さん】犬木ホラーですね。「ちょっと不思議で恐いはなし」でも今の時代だと規制がかりそう。描かせていただけるところがあれば良いのですが。

(文・衣輪晋一)
『サバイバー〜破壊される子供たち〜』
まんが王国にて配信中
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