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“完売画家”中島健太が美術業界に物申す「“絵描きは食えない”を変えたい」

  • 情報番組『グッとラック!』(TBS系)の木曜コメンテーターとして出演する中島健太氏/撮影:田中聖太郎

    情報番組『グッとラック!』(TBS系)の木曜コメンテーターとして出演する中島健太氏/撮影:田中聖太郎

 美術界においては34歳という若手ながら、これまでに開催した個展ですべての作品が完売。ベッキーの肖像画でも話題になり、いまもっとも作品を購入できない“完売画家”中島健太氏。高校時代の進路選択までは「画家の道」を意識していなかった氏が、なぜデビュー間もなくして人気画家の仲間入りを果たせたのか。そして、“若い”からこそ感じられた美術業界の“ムラ社会化”の問題点とは。

日本の美術業界では「作家の権利」が軽んじられている

――画家を目指すキッカケというのは?

【中島健太】高校時代の進路選択の時期に、中学時代の美術の先生を思い出したんです。その先生がいつもマイペースにのほほんと生きているように見えて、自由な生き方もあるんだなぁと、当時感じていました。それを思い出して、進路指導の時に「美大」という選択肢が頭に浮かんだんです。3年の秋まで運動部で、それから準備を始め美大を受けました。もちろん現役では受からず浪人生になりました(苦笑)。父親が大病を患っていたので「ちょっと経済的にどうなるか分からないぞ」という状況だったのもあり、1年で絶対に受かるため、必死になって予備校に通いました。画材代などはバイト代で工面しながら、なんとか武蔵野美術大学に受かった。それが最初の出発点です。

――中島さんと言えば“完売画家”としてメディアでも取り上げられています。初めて作品が売れたのはいつですか?

【中島健太】大学3年生の春、初めて応募したコンクールに入選した際にギャラリーさんから声をかけて頂き、グループ展に出展することになりました。そこで絵が売れたのが僕のキャリアのスタートになります。

――デビューしてから、そのまま“完売画家”まで駆け上がった感じですか?

【中島健太】幸いにして、デビューから作品はよく売れました。“よく売れる”っていうのは現在の美術業界ではそれなりにレアなことだと思います。なので、売れる事自体で結構話題にしてもらえたのですが、そうやって目立つといろんな人が寄ってくるわけです。その中で凄く良い条件で取引したいって言ってくれたギャラリーがありました。

――良い条件というのは絵が売れた際のギャラの割合のことでしょうか。

【中島健太】そうです。実際、日本の美術界って作家の権利が軽んじられているところがあって、画家の取り分が非常に少ないんです。そんな中、駆け出しの僕に対して思い切った割合で提案してくれたギャラリーがあって、僕は安易に飛びついたわけです(笑)。2008年に大学を卒業して、その年の秋くらいに大型の個展がそのギャラリー経由で決まりました。08年の秋って「リーマンショック」があって、あらゆる業界で物が売れなくなっていた時期です。そんな中でも、幸いに僕の作品は完売しました。

――初の個展で完売!すごく順調ですね。

【中島健太】いえ実は、その初個展で売り上げを全部持ち逃げされたんですよ(苦笑)。数百万だったと思います。会期中、なかなか画商さんが現れなくて、そのまま連絡がつかなくなりました。信用していた人に裏切られ作品自体も否定された気分になって、しばらくは筆を握れなかった時期がありました。

――そんな紆余曲折があって今や人気画家の仲間入りを果たしたわけですが、“若い”からこそ感じる美術業界の課題とは?

【中島健太】日本の百貨店には美術画廊があって、そこで絵画を販売することが美術販売の大きな割合を占めています。でも、そもそも一般の方からしたら「美術画廊ってなに?」という感覚だと思います。

――確かに、画廊の中に入っていいのか、入場料がかかるのかどうかも分かりません。

【中島健太】一般感覚で言うともはや美術画廊が百貨店にあること自体を知らないんじゃないでしょうか。10年くらい前だったら「美術画廊は敷居が高いから行きづらい」だったのが、今や「美術画廊があることを知らない」っていうところまで来ていると思います。だから、まずは美術画廊があるんですよ、来ていいんですよ、入場料とかかからないですよっていう、我々からすると当たり前のことをまずは知ってもらうことが大切です。美大生や若い画家って「老若男女、美術業界の人だけじゃなくていろんな人に自分の作品を見てもらいたい」って言うんですけど、実は“それを一番体現しているのは百貨店の美術画廊”だったりするんです。

――確かに、百貨店のような“誰でも行ける場所”に美術品があるという文化は日本独自だと聞きました。

【中島健太】百貨店にギャラリーがあるのは世界的に見ても珍しいですね。なので、百貨店のギャラリーの存在をもっと知ってもらう努力が必要です。なおかつ、“絵描きって食えない”って言われて久しいので、僕がメディアに出ることで「自分も絵描きになってみたい」「絵を売りたい」と、若い人が夢を持てるようにしたいと思っています。

――立川志らくさん、国山ハセンアナウンサーがMCを務める新情報番組『グッとラック!』(TBS系)の木曜コメンテーターとして中島さんは出演されますが、この仕事を受けたのは、美術業界の“広報的な役割”を担いたいという思いからでしょうか。

【中島健太】コメンテーターを引き受けた理由として、「美術業界のことをもっと知ってもらいたい」という意識は当然ありました。ポスターの制作だったり、メディア出演のお話を頂けるのは本当にありがたいですね。今は一般の方に絵画の世界を身近に感じてもらうため、少しずつ“美術業界”の「古い体質」を変えていきたいと思っています。

画家が「先生」と呼ばれる風潮が“勘違い”の始まり

――「古い体質を変えたい」とのことですが、具体的には?

【中島健太】先ほど話した通り、作家の権利があまりにも少ないっていうのと、あとは単純に新しいファンや新しいコレクターさんが入ってきてないっていう現状は課題です。

――いわゆる“ムラ社会化”が進んでいるということでしょうか。

【中島健太】まさにその通りで、作家側も“ムラ社会化”しているし、半面コレクターさんも“ムラ社会化”している。狭い世界に閉じこもるのではなく、もう少し開かれたものにならないと有名なコレクターさんがあれもこれも持っているみたいな状態になってしまう。結果、そのコレクターさんの権利が強くなっていって、今度は作家自身も「そのコレクターに所有して欲しい」みたいな感じに偏ってします。それでは新しい価値観が生まれず美術業界全体が沈下する恐れがあります。

――そうした課題を解決するため、美術業界で取り組んでいる施策などはあるのでしょうか。

【中島健太】美術業界のほとんどの方が問題意識を持っていますが、ただあまりにも“狭い村”が故に、お互いの顔を見合っている。「そんなことやっちゃっていいの?」みたいな遠慮や忖度が働く空気感はあると思います。ただ僕個人的には、若手の育成の為にインターン生の募集や絵画指導、一般の方向けの「美術画廊巡り」などの取り組みを積極的に行っています。

――作家の権利という面でいうと、素人感覚ですと「自分のホームページで作品を売ればいいのに」と考えてしまいます。

【中島健太】大手百貨店の美術画廊でやれるということが、日本の美術マーケット・美術業界の中での評価の基準になっている現状があります。と同時に、取引に際しての信用が担保されている面も重要です。

――画家の権利が低いからといって「俺、もう名前が売れちゃったから百貨店の画廊とは手を切ります」みたいにはいかないし、画家も美術画廊もお互いに支えあう必要があるわけですね。

【中島健太】認知を積み上げていけば、自前で流通を確保してしまうっていうことは可能かもしれません。しかし、それができる人が美術業界にお金を落としてくれない環境になってしまうと、美術業界の発展が止まってしまいます。それでは元も子もありません。

――“ムラ化”している美術業界を変えていくためには?

【中島健太】美術業界は「バブル時代」を基準にしてできたものが変わっていません。かつて巨匠と呼ばれる人たちは、何も書いていないキャンバスでも作品が売れたそうです。でも、今はそういう時代ではありません。そもそも、画家が“先生”と呼ばれる風潮も問題があると思います。その「先生」って呼ぶような空気感が“勘違い”の始まりで、「それは違いますよね」っていうことを僕は声に出して言っていきたいです。

――その“勘違い”が世間との距離を作ってしまっていると。

【中島健太】離れてしまった美術業界と世間との距離を、ちょっとでも近づけていくのが僕に課せられた役割だと思っています。

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