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年々増加傾向にある「避難訓練コンサート」とは? リアル設定が生む緊張感の大切さを主催者に聞く
無料で楽しめる避難訓練コンサート 毎年変わるリアルな設定に緊張感
「もともとは当館の消防計画に基づいて年2回、ホールで働く職員だけで避難訓練を行っていました。ホールのレセプショニストが避難誘導の訓練を行うときに、お客様を誘導しているつもりでやっていたのですが、実際にどのくらい時間がかかるのか、どの程度声を出せばいいのか要領がつかめないという意見が。じゃあ実際にお客様にいらしていただこうとなり、2007年に同イベントがスタートしました」(末廣さん)
消防音楽隊の開演中に災害が起こるという設定で、客は何曲目、どのタイミングで災害が起こるか伝えられてない緊張感のある状態。コアなファンがいる横浜消防音楽隊が演奏し、吹奏楽のメジャーな曲からクラシックの名曲、映画音楽や歌謡曲など幅広いジャンルの選曲が演奏される。ホールのキャパは2020席。平日の昼間ということで、毎年平均250名ほどの客が参加してくれるのだと言う。
「例えば火災を想定した際、火元となる場所の設定は毎年変えています。昨年は、楽屋が火元として火災が発生、初期消火に失敗したとの設定。ここまでは職員の訓練ですが、ここからはお客様に参加していただき、コンサートは中断。レセプショニストが火元から遠い場所を選びながらお客様を誘導し、避難場所へと避難していただくというおおまかな流れ。毎年設定が変わるので、避難経路や避難方法は変わってきます。もちろん避難訓練が終わった後は、コンサートの続きをお楽しみいただけます」(末廣さん)
予約なしでふらりと参加でき、さらには料金が無料であることも魅力だ。
訓練で見つかった“課題”を元に、年々避難訓練計画をアップデート
「職員はもちろん、参加いただいたお客様からもアンケートを取らせていただいており、これによって我々だけでは分からない全方位の課題が集まってきます。また、訓練をする度に意識を新たにできます。災害は突然起こるもの。そのときに、訓練をしていたかどうかは大きいので日頃の備えという意識をしっかりと持っています。必要な情報をお客様に正しく伝えることが命の安全につながる。訓練で得た情報は翌年にアップデートしながら、そこは工夫して考えながら毎年行っています。毎年行っているので、それはスタッフの自信にもつながっていますし、有事の際にお客様の命を最優先できるよう落ち着いて避難を完遂できるよう鍛錬しています」(末廣さん)
注意点は「安全第一」。訓練とはいえ、実際にお客様を誘導していくので、そこであまり慌てさせてしまうと転倒の恐れもある。さらには大地震が発生した場合は、慌てて飛び出すと危ないので、その点も訓練時から留意。同建物が「耐震構造」になっていることをしっかりと伝え、余震の発生も考慮しながら訓練計画を立てていく。
近年、「災害」と聞いて我々がまっさきに思い浮かぶものは2011年に起こった「東日本大震災」だろう。やはり、その大災害をきっかけに同イベントにも変化が起こったという。「それまで地震と津波の訓練は想定してなかったんです。3.11当日は満席の人気コンサートが入っていまして、その楽団のリハ中に3.11が発生しました。耐震構造なので建物自体に被害はありませんでしたが、もしこれが本番中だったら…との懸念が生まれました。そこで、その年の秋の避難訓練コンサートで大地震と津波を想定した計画をたてて実施。平均を上回る約400名のお客様に来ていただき、注目されました」(末廣さん)
東日本大震災の経験を元に想定外も考慮 障がい者への対応も
「そもそも災害自体が想定外ですが、東日本大震災はさらに想定外の連続でした。ガイドラインはありますが、それを超えるものが来るかも知れません。今回の避難訓練コンサートでも、横浜市の災害避難のガイドラインでは最大津波の高さが4メートル、満潮時で4.9メートルですが、海抜12.6メートルの3階まで避難していただくことにしています。想定外も考慮に入れています」(末廣さん)
また今後の課題としては“バリアフリー”問題がある。「地震が起こったら当然、エレベーターは止まってしまいます。今回も車椅子の方がご参加される場合は、ご協力いただけるのでしたら、階段は担架の利用、もしくは車椅子を抱えて運ぶなどの対応を考えております。実際に本当の災害が起こった場合は、お客様の手も借りなければならなくなることもあると思っています」(末廣さん)
参加者からは概ね好評で、「コンサートで災害が起こっても安心だと思えるようになった」「自然と避難経路や非常口を確認するようになった」など、意識の変化が起こったとの感想が多い。「今後も毎年続けていきたい」と末廣さん。9月1日は1923年に起こった関東大震災にちなんで「防災の日」となっている。全国的に「避難訓練コンサート」はその前後で開催されることが多い。お近くの施設の開催予定を調べてみてはどうだろうか。
(取材・文/衣輪晋一)