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子ども描いて40年、『ズッコケ三人組』76歳の著者の次作は「独居老人三人組」

  • シリーズの第1巻目『それいけズッコケ三人組』(ポプラ社)

    シリーズの第1巻目『それいけズッコケ三人組』(ポプラ社)

 今年で40周年を迎えた、児童文学シリーズ『ズッコケ三人組』。1978年に第1巻が発表されて以来、“中年篇”と合わせて、現在までに実に61冊を刊行。老いも若きも、学校の教室や図書館で本シリーズを目にした人は多いのではないだろうか。“お金儲け”など、児童文学としては異例の題材を取り上げ、「それを読んでベンチャー企業を立ち上げた読者もいた」という巻もある本作。著者の那須正幹氏に、本作が与えてきた影響、そして現在の子どもたちに思うことを聞いた。

ライバルは江戸川乱歩? 「最長不倒を目指したい」

  • 『ズッコケ三人組』シリーズ著者の那須正幹氏

    『ズッコケ三人組』シリーズ著者の那須正幹氏

 2018年、区切りの誕生40周年を迎えた大ベストセラー『ズッコケ三人組』シリーズ。ほぼ年2冊という刊行スケジュール、さらに他の作品も抱えた執筆活動は多忙を極めていたと思われるが、作者の那須正幹氏は「スランプに陥ったことは一度もなかった」と平然と語る。

 1978年に刊行された『それいけズッコケ三人組』から40年。『ズッコケ三人組』シリーズは50巻、三人が40代になった姿を描いた『ズッコケ中年三人組』は10巻、さらに50歳になる最終巻『ズッコケ熟年三人組』を合わせると、実に61巻という壮大なシリーズだ。

 「足掛け37年『ズッコケ三人組』を書いていますが、僕にとって三人(ハチベエ、ハカセ、モーちゃん)は実在の人物と同じぐらい心の中に生きている。ある意味で人生の半分以上、三人と付き合ってきているわけで、本当に長い関係性になりました」。

 多くの子どもたちに愛された作品だが、スタート当初はここまで長く続くとは思っていなかったという。

 「当時、日本の児童文学の中で、同一キャラクターのシリーズものはなかった。だから『ズッコケ三人組』はシリーズにしたいという希望はありました。ただ、良くても10巻ぐらいだろうという思いはあったんです。でも続けていくうちに、江戸川乱歩さんの『少年探偵団シリーズ』を抜かしたいと思うようになってきて、30巻ぐらいから、最長不倒を目指したいなと意気込みました(笑)。いずれにしても、読んでくれる読者がいたから、ここまで続けてこられたんですけれどね」。

 『ズッコケ三人組』シリーズは、ほぼ年2冊というペースを守り、50巻まで刊行された。しかも那須氏は、本シリーズ以外にも数多くの作品を執筆しており、多い年には1年で17冊も作品を刊行したという。

 「確かに分量的に大変でしたが、不思議とスランプに陥ったことはなかった。自分でも天才じゃないかと思いました(笑)。というのも、『ズッコケ』に関しては、5巻目ぐらいから三人のキャラクターが定着していたので、彼らを追いかけていけばストーリーは出来上がる。苦しむことはなかったですね。それと、編集者のアイディアだったのですが、あとがきに次の作品のタイトル予告を入れていたんです。次に書くものを強制的に決めてしまうわけですが、これはある意味でやりやすかったですね」。

『うわさのズッコケ株式会社』を読んで、「ベンチャー企業を立ち上げた読者もいた」

  • “総選挙”1位になった『うわさのズッコケ株式会社』(ポプラ社)

    “総選挙”1位になった『うわさのズッコケ株式会社』(ポプラ社)

 また、『ズッコケ三人組』シリーズが、他の児童文学と一線を画していたのは、題材として取り上げるテーマだ。40周年を記念して発表された人気投票『ズッコケ50巻総選挙』で1位になった『うわさのズッコケ株式会社』(1986年)は、三人がお弁当会社を設立してお金儲けをする話だ。

 「子どもがお金儲けする話なんて、児童文学では絶対描かないですよね。普通は“そんなことを考えてはいけません”じゃないですか。そういう意味で『ズッコケ』は、当時の常識をひっくり返すことばかりやっていました。危ない遊びもいっぱいしました。殺人事件に遭遇し解決する話もあったけれど、普通の児童文学なら、せいぜい泥棒を捕まえるぐらいですよね。とは言っても、“常識を覆してやろう”みたいな気概があったわけでもない。ただ面白そうだなと思ったことを書いていただけなんです。でも、『株式会社』を読んでベンチャー企業を立ち上げた読者もいたから、少しは役に立っていたのかもしません(笑)」。

『中年三人組』には賛否両論、中高年の健康や裁判員裁判もテーマに

 数々の伝説を残してきた『ズッコケ三人組』シリーズは、2004年『ズッコケ三人組の卒業式』をもって終了したが、翌2005年には『ズッコケ中年三人組』として続編を執筆することになる。

 「終了したとき、残念だという声をたくさんいただきました。そんなとき東京で講演をすることがあり、みなさんへのお礼のつもりで『来年1冊、大人になった三人組を書きます』と言ったんです。しかも、実際に書いた中年篇1巻のあとがきには『10年後に、熟年三人組を出します』と書いてしまった。そうしたら担当編集者から、『10年後、那須さんは生きているかわからないから、この際、シリーズで書いてみては?』と言われて、結局毎年1冊ずつ、合計10冊も出すことになってしまいました(笑)」。

 とは言いつつ、書き始めると「結構面白いな」と思い筆は進んだ。ただ、児童文学ではない『中年三人組』シリーズは、中高年の健康や子どものいじめ、裁判員裁判など時事問題も入れつつ、リアリティある作品になった。長年愛されたキャラクターだけに、大人になった三人組には賛否両論あったというが、那須氏はブレずに三人を描いていった。

「“小さな大人”を作りすぎている」、現代の子どもたちの環境に疑問

 こうして40年。那須氏が三人組の子ども時代を書くことはなくなったが、だからこそ「当時と今では、子どもを取り巻く環境がまったく違う」と、見えることもあるという。中でももっとも違うと感じるのが、子どもたちの人間関係だ。

 「今の子どもは、ものすごく早くから人間関係に悩んでいますよね。幼稚園から親友を作る。僕らのころは親友なんて高校生ぐらいになってからできるものでした。小学生のときは、遊び友だちはいたけれど、親友なんていう関係性ではなかった。でも今の子は二人の狭い世界で密な関係を築くんです。そして嫌われないように気を遣う。本来、小学生なんてエゴの塊。エゴとエゴがぶつかる中で、いろいろなことを学習していくのだけれど、最初から『相手のことをしっかり考えましょう』なんて教える。“小さな大人”を作りすぎているような気がしますね」。

 そんな現在の子どもたちが『ズッコケ三人組』を読んだらどう思うのだろうか。

 「子どもたちから送られてくる手紙には、『三人組みたいな友だちが欲しい』というのが多いんです。お互いが言いたいことをぶつけて、ケンカして、でもすぐ仲直りできる…。こういう感想が来るということは、今の子どもは人間関係でストレスが溜まっているということではないかな。もちろん、当時のような社会に戻ることは難しいことだけれど、『ズッコケ三人組』を読めば、“大切なものは何か”ということが、感覚としてわかるんじゃないかと思います」。

 執筆当時は、ほかにもたくさん書いている中で『ズッコケ』だけ取り上げられることに抵抗があったというが、今では「胸を張って代表作と言える」と語った那須氏。インタビューを行った時点では、222冊の本を書いてきたそうだが、12月には“独居老人三人組”が主人公の新刊『ばけばけ(仮)』の発売も決まっており、まだまだ著作は増えていきそうだ。現在76歳ながら、「250冊までは書きたい」という。柔和ながらも力強く目標を掲げる姿は、「書くことがとにかく楽しい」という活力に満ち溢れていた。

(文:磯部正和)

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