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『MEG ザ・モンスター』に見る「サメ映画」の変わらぬ汎用性とブランド力

  • 映画『MEG ザ・モンスター』(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., GRAVITY PICTURES FILM PRODUCTION COMPANY, AND APELLES ENTERTAINMENT, INC.

    映画『MEG ザ・モンスター』(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., GRAVITY PICTURES FILM PRODUCTION COMPANY, AND APELLES ENTERTAINMENT, INC.

 この夏、大きな話題をさらった、英俳優ジェイソン・ステイサム主演のサメ映画『MEG ザ・モンスター』。実写サメ映画史上最高額を記録したほか、日本でも初登場1位に。この背景には昨今の「サメ映画」の再ブームも起因しているようだが、“金字塔”である『ジョーズ』のようなシリアスなパニック作品としてはもちろん、“トンデモ路線”のB級C級まで、そのアプローチは多岐にわたる。時代を経ても衰えない「サメ映画」魅力とはどこにあるのだろうか?

多くのフォロワーを生んだ「サメ映画」の金字塔『ジョーズ』

 『MEG ザ・モンスター』は“地上最強の男”ジェイソン・ステイサムVS巨大ザメの構図の映画で、200万年以上前に絶滅したと思われている古代に実在した巨大ザメ「メガロドン(MEG)」が人を襲うパニックムービー。中国のグラヴィティ・ピクチャーズの資金を得て製作されており、劇中でもリー・ビンビン演じるヒロインが大活躍。先述したように世界的に大ヒットしたほか、中国でも1万2,650スクリーンで公開、公開初日に5,030万ドルの興行収入を記録した。

 そんな「サメ映画」の金字塔といわれるのは、1975年に公開されたスティーブン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』である。ジョン・ウィリアムズによるあの有名な『ジョーズ』のテーマ曲と共に、サメ目線(主観ショット)で逃げ場のなさを煽る演出が大ウケし、その後多くのフォロワーが生まれた。

 なぜ『ジョーズ』がこれほど影響力を持ったのか。それは一重にサメの恐怖が“生々しいから”だ。そもそも『ジョーズ』の原作は、1916年に起こった「ニュージャージー州サメ襲撃事件」がモデルといわれている。遊泳中にサメに襲われ死亡する事故が相次いだのである。こうしたサメの襲撃による事故は今も世界各地で起き続けていて、恐怖感としても身近である。

 また、『ジョーズ』は空想のモンスターではなく実在するサメを“最恐のモンスター”として登場させ、より身近な恐怖を丁寧なドラマとして描いたことで、説得力のある「モンスターパニック映画」を成立させたといっていいだろう。

『ジョーズ』以降「モンスターパニック映画」が大量生産

 同作がシリーズ化されたほか、「サメ映画」としては、“B級映画の帝王”として名高いロジャー・コーマン製作による『ジュラシックジョーズ』(79年)や、『ジョーズアタック2』(84年)、『ジョーズアタック』(87年)などが公開。また、同時期に『グリズリー』(76年)、『オルカ』(77年)、『ピラニア』(78年)、あのジェームズ・キャメロンが監督を務めた『殺人魚フライングキラー』(81年)など、サメ以外の「モンスターパニック映画」が誕生した。

 そして90年代、ある画期的な事件が。『ジョーズ』のスピルバーグ監督による『ジュラシック・パーク』(93年)の登場だ。『ジョーズ』で用いたサスペンス手法を同映画にも使用し大ヒットを記録。このヒットにより『ミミック』(97年)、『アナコンダ』(同年)など、90年代は多くの「モンスターパニック映画」が製作されていく。

 そんな中、1999年に『ディープ・ブルー』が公開、『エルム街の悪夢4』(88年)や『ダイ・ハード2』(90年)のレニー・ハーリン監督による緊張感マックスの演出も良かったのだろう、再び「サメ映画」に火がついた。

 2004年には、実話を基にした、サメのいる海に置き去りにされたカップルのダイバーを襲う恐怖をドキュメンタリータッチで描き、「サメ映画史上最も怖い」と話題となった『オープン・ウォーター』が公開。2011年には46種類もの人喰ザメが湖で人を襲う『シャーク・ナイト』も発表。その圧倒的なサメの種類と数、ダイナミックな演出で傑作の一つに数えられる。最近では『ロスト・バケーション』(16年)、『海底47m』(17年)など、シリアス路線の「サメ映画」が話題となった。

汎用性の高さを立証! サメに“何か”をトッピングした“トンデモ路線”も盛況

 さて、「サメ映画」はスリラー路線とは別に、“明後日の方向”ともいえる“トンデモ路線”へと進化もしている。“B級映画の帝王”ロジャー・コーマン製作、サメとタコが合体した『シャークトパス』(10年〜)がシリーズ化されているほか、巨大サメが巨大タコなどと対決する『メガ・シャークVS〜』(09年〜)も人気シリーズ。ほか、シリーズごとに頭が増える『ファイブヘッド・ジョーズ』(18年)、悪魔が憑依『デビルシャーク』(15年)、サメがゾンビ化『ゾンビシャーク 感染鮫』(16年)など、サメに“何か”をトッピングして魅せる「サメ映画」は枚挙にいとまがない。また、砂浜でサメに襲われる『ビーチ・シャーク』(11年)、家にいてもサメに襲われる『ハウス・シャーク』(18年)のような「そもそもサメってなんだっけ?」と思考回路が溶けそうになる「サメ映画」も多数。

 そんな昨今の“トンデモ路線”ブーム最大の“戦犯”といえるのが『シャークネード』シリーズ(13年〜)。タイトル通り、竜巻に巻き上げられたサメが人を襲うぶっ飛んだ設定で、多くのフォロワー映画を生んだ。レディ・ガガをはじめ、きゃりーぱみゅぱみゅや高橋充希など多くの有名人をも虜に。情報過多のこの時代、多少の思考回路が麻痺しそうな作品の方が落ち着くといった背景もあるかもしれない。

 ディスカバリー・チャンネルでは1988年より「シャーク・ウィーク」というサメ映画ばかりを放送する特集がスタートしている。ほか計10作品のサメ映画を24時間連続放送するスカパー!の企画「サメフェス2018」や「春の東京国際サメ映画祭2018」という「サメ映画」好きのためのイベントもあり、今は完全に一ジャンルとして確立。「サメ映画」の元祖『ジョーズ』が観客に植え付けた“サメ”=“怖い存在”という普遍的なイメージの助けもあって、このような“トンデモ路線”の「サメ映画」が量産され、その汎用性の高さが、「サメ映画」というジャンルを作り上げたのではないだろうか。『ジョーズ』のフォロワーたちが今も「サメ映画」を楽しみ、そんな彼らのために、今は製作者となったフォロワーが作り続けているという蜜月が今も続いている。

“サメ映画”と“巨大モンスター映画”ブームという2つの側面がヒットの要因

 最近は中国の資金力や市場の大きさから中国を意識した作品が増えているが、『MEG ザ・モンスター』のヒットは中国で成功したからというだけでなく、昨今の『キングコング:髑髏島の巨神』『ランペイジ』『パシフィック・リム』『ジュラシック・ワールド/炎の王国』など、「巨大モンスター映画」ブームに、「サメ映画」という非常にブランド力の高いジャンルが合わさった結果と思われる。

 もう一つ重要なのは、4DXという新しい技術。『ジュラシック・ワールド/炎の王国』では4DX映画の日本歴代最高記録を更新する快挙を達成。全世界累計興収でも4DX版のみで約2700万ドル。歴代4DX作品No.1になっており、『MEG ザ・モンスター』のような「モンスターパニック映画」が、アトラクションのように楽しまれている現状もある。

 『ジョーズ』のフォロワー、4DXによる「モンスターパニック映画」の流行、そして“トンデモ路線”を含めたバリエーション多めの「サメ映画」ブーム。すべての要素が『MEG ザ・モンスター』のヒットに関わっている。この「サメ映画」ブームはゾンビブームのように長らく続いていくのか、今後どのような進化を遂げるか楽しみだ。
(文/衣輪晋一)

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