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【ガンダムの生みの親】富野由悠季監督インタビュー特集

【インタビュー後編】御大・富野由悠季が“脱ガンダム”にこだわる理由「作り手は安心したら最後」

富野由悠季監督と「実物大ガンダム立像」

富野由悠季監督と「実物大ガンダム立像」

 『機動戦士ガンダム』は、誕生から40年経っても新作が作り続けられる“国民的”人気タイトル。一方で、『ガンダム』の生みの親・富野由悠季氏は“脱ガンダム”を掲げて作品作りに取り組んでいる。76歳となってなおアニメを作り続けるモチベーションとは何か? そして、現在進行中の映画『Gのレコンギスタ』の制作進捗や新作アニメの構想について聞いた。

アニメの市場は短期ではない、40年も続くのは実写にはない強み

――富野監督は現在、全5本からなる『G-レコ』の制作をされていると聞いています。現段階で、進捗について言及できる部分はありますか?

富野由悠季物理的な部分でいえば、映画3作目の作画には入ってます。ただ、今は制作、スタッフ編成ができていませんので、スケジュールがまったく見えなくなっています。
――それはどういった理由なのでしょうか。

富野由悠季東京全体のアニメスタジオを考えた時に、よほどのことでない限り、一カ所、二カ所にスタッフを集めて仕事をするということがなくなっちゃっているわけです。全部の作業を別々のスタジオにバラ撒いていく体制です。そんな環境のなかで作らなくちゃいけないんだから、時間がかかるのです。つまりスケジュールを立てようとすると強権力が必要なのですが、ぼくにはその力がないので……。

――5作ですから、作業量も多そうです。

富野由悠季今までテレビ版から映画版になった時って、だいたいダイジェスト版でしょ?『G-レコ』の5部作はダイジェストではないのです。むしろ、テレビ版でしょうがなくてやった戦闘シーンなどを外したら、その分、本来本編でやらなくてはならないエピソードを投入することができます。それをやっているわけですから、特に4部、5部には困ることがあって……新作部分がかなり多いんですよ(苦笑)。

――つまり、もう少し待っていてほしい……! ということですね。

富野由悠季そうです。アニメや漫画のマーケットというのは短期形ではなくなっています。一度タイトルが浮上すると、十何年も平気で出続けます。これはアニメや漫画の持っている媒体としての性能で、一見子どもじみていても、ハッと気づいた時、もう20、30年動いているタイトルがいっぱいあるわけです。実写にはこれがないよね?

――確かに数十年続いている実写はアニメと比べて少ないです。

富野由悠季そして、もう一つ重要なことがあります。アニメというのは、実写と違う独特な環境があるわけです。実写は一度作ったらそれっきり、という一発勝負。だから、『G-レコ』の劇場版のようなものを作るのも、アニメという媒体ならではなのです。深夜にオンエアされたものは、これはもう完パケじゃなくて、ただのゼロ号だと覚悟しました。だからゼロ号をベースに、映画として完成品を作り直していくと考えました。そう納得したときに、制作時期なんて関係なくなって制作をつづけるわけです。

――新作のボリュームや現体制を考えると時間がかかってしまう?

富野由悠季そうは言っても、一度作ったものですからまるまる新作じゃないんです。コンテはもうあるから、もし決まったら「一気にやるぞ!」とできる体制はあります。その時は、やっぱり映画版新作1本か2本を作るくらいの規模になるんだろうけど、サンライズが本気になって『G-レコ』を最後まで作るぞ、と本気で声をあげてくれたら……1年の時間で出来るかもしれません。

手描きアニメにこだわり「巨大ロボットアニメは“オペラ”なんです」

――現在『G-レコ』劇場版を鋭意制作中というお話をしていただきましたが、そんな中、監督には次回作の構想なども既にあるのでしょうか?

富野由悠季『G-レコ』はもうコンテが1年前に終わりましたから、あとは基本的に現場をフォローするだけです。まだ構想段階ですが、実をいうとこの1年は新作の脚本を書いていて、今は二回目の書き直しに入っています。
――それはアニメですか?

富野由悠季もちろんです。この歳になって今さら実写なんてできねえよ! という言い方もありますけど、もう一つ重要なことは、もう僕は手描きのアニメでいいと思っているわけです。だから、オールCGに切り替えるなんてことはしません。というのは、手描きのアニメの媒体というのは、無くならないような気がしてきているからです。

――手書きアニメの新作は、一体どんな内容になるのでしょうか。

富野由悠季この前、WOWOWで放送されたメトロポリタン・オペラを観て気づいたんです。「あ、巨大ロボットアニメという枠って、オペラなんだよね」と。どうしてオペラという言い方をしてるかというと、オペラは大舞台で、音楽も役者も使っています。そして、巨大ロボットものという大枠のなかで、ロボットが出てくると“戦闘シーン”があります。最近、映画『逆襲のシャア』(松竹系・1988年公開)を振り返る機会があったんですが、あの作品は戦闘シーンが多すぎるんです。だけど、戦闘シーンはなくちゃいけない。じゃあ、ロボットものの戦闘シーンはなんなんだろうと考えた時、いわゆるオペラでいう“歌うセリフ”のブロックなのだ、ということに気づきました。

――なるほど、分かりやすいです。

富野由悠季だから、オペラ歌手と同じように、堂々と戦闘シーンをやっていいんだ、と。問題はその中のお話です。つまり、オペラってでかい話をやっているか? と考えると、結局、オペラは男と女が寝るか寝ないかだけで、ほかのことは何もやっていないでしょ(笑)? そこでニュータイプだとか、社会の革新だとかを言ってたら、そりゃ誰も観に来ないと気づいたんですよ。

――今のお話を伺って、新作のシナリオはとてもシンプルなものなのかな? とイメージしました。

富野由悠季ところが、シンプルにはならない。だって、歌を歌うシーンが多いんだよ(笑)。その寝たか寝ないかの話はどこでやる? まさにそのロボットものの枠の中でやるしかないんですが、そんなロボットものがあるんですか? あるわけない。だって今まで誰もやっていないんだから。今まさにその寝たか寝ないかっていう、つまり体感的なフィーリングを物語の中に入れている最中で、これはこれでとんでもなく難しい。

前へと進むのは死ぬまで元気でいたいから「なんとかスピルバーグに勝ちたい」

――ガンダム40周年ということで、ファンとしては過去を振り返りがちですが、富野監督は常に前へ進んでいる印象があります。

富野由悠季作り手は、やっぱり安心したら最後。安心したくない理由はどういうものかというと、死ぬまで元気でいたいからです。

――富野監督の元気の秘訣は、好きなアニメを作り続けるということですね。

富野由悠季ただ、好きというのも“好き勝手”ではないんです。だから、新作はオペラのようにと、一番分かりやすいところに落としているわけです。

――男女の恋愛をテーマにする理由とは?

富野由悠季だって、そうでもないとヒットしないもん(笑)。ヒットさせるということは、つまり支持されることです。そして百万人の観客が見てくれれば、その中から“次の作り手”が出てきて、その若者たちが次の時代を生み出すと信じています。

――富野監督が作る“オペラ”は非常に興味があります。

富野由悠季そういうことから、なんとかスピルバーグに勝ちたいなぁと思っています(笑)。
【インタビュー前編】庵野秀明も絶賛!富野由悠季のヒロイン“演出術”→
◇富野由悠季 プロフィール
1941年、神奈川県生まれ。日本のアニメ監督、演出家、脚本家、作詞家、小説家。2019年に40周年を迎える『機動戦士ガンダム』の原作・総監督を務めたほか、『伝説巨神イデオン』『聖戦士ダンバイン』など数々の作品を手掛ける。現在は劇場版アニメ『ガンダム Gのレコンギスタ』を鋭意制作中。
(編集協力:林子傑)
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