アニメ&ゲーム カテゴリ
  • ホーム
  • 映画
  • エイベックスが映画参入、映像配信戦国時代に脱・製作委員会の作り方を提案

エイベックスが映画参入、映像配信戦国時代に脱・製作委員会の作り方を提案

 町田康原作『パンク侍、斬られて候』の実写化映画が6月30日から公開中。「映像化不可能」といわれた原作を石井岳龍監督が手掛け、全員主役級の役者が出演するということでこの夏注目されている作品だ。しかし、別の視点で注目したいのが、本作品はdTVを運営するエイベックス通信放送が1社で制作しているという点だ。現在の映画界は出資を募る“製作委員会方式”が主流の中、なぜエイベックスが映画製作に踏み出したのか。オリジナルコンテンツ制作への想いや、その背景、回収の見込みなどを本作のプロデューサーであるエイベックス通信放送・伊藤和宏氏に話を聞いた。そこには、“映像配信戦国時代”の現代ならではの新たな製作手法があった。

オリジナルドラマ企画を「映画」として方向転換

――シンプルに、なぜエイベックス(dTV)が映画を作ることになったのでしょうか。背景からお聞かせください。
伊藤Pもともとこの企画は、映画としてスタートしたわけではなく、私と石井監督の間で企画したdTVの1つの2時間のドラマだったんです。3年ほど前、AmazonさんNetFlixさんらの黒船が日本に上陸した際、dTVにも戦えるオリジナルコンテンツを作るためにスタートしました。以前に、石井監督から聞いていた『パンク侍〜』の話を思い出して再び読んでみると、とても今の時代に合った物語のような気がして、町田さんの原作と石井監督なら、この閉塞した状況に風穴を開けられると思ったんです」

伊藤P“石井監督なら”ということで脚本は宮藤官九郎さん、綾野剛さんをはじめとする全員主役級の豪華キャストの方たちも出演OKをいただきました。自分で企画書を作りながら、「町田康原作」「石井岳龍監督」「宮藤官九郎脚本」「豪華キャスト」ということで、自分が出資者ならこれは出資できると思った時、映画として成立するのではと気づきました。会社としてもメリットを考えたら十分にある。じゃあ映画でやってみよう、というのが今回の『パンク侍〜』なんです。

 そうしてどんどん映画化の話が進み、『ちはやふる』を超える全国325館という大規模上映、主題歌はセックス・ピストルズという“異例”が追加され、6月30日から公開されることになった。

1社制作の背景、メリットだらけのからくり

――dTVのコンテンツとして自社予算で制作を進めていったとのことですが、なぜ1社製作になったのでしょうか。出資者を集める製作委員会方式は考えに無かったのでしょうか?
伊藤P考えなかったわけではありません。劇場の大きなスクリーンに耐えうる映画クオリティーにするには、配信よりも費用がかかるという事実が出てきました。例えば劇場用に作るとプラスで5千万かかるとします。このプラス5千万を委員会方式で他社に出してもらうことも考えましたが、その5千万分はコントロールできないだろうし、権利も切り売りしなくてはいけない。そもそも、100%コントロールするためにオリジナルコンテンツを作ってきたわけですから、やっぱり自社IP(知的財産)としてコントロールできるものにしようという判断になりました。

―― 一先程の話に出てきた「映画化することのメリット」は、どういう点でしょうか?
伊藤P1つはビジネスとして考えると、映画にすることで“外貨”を獲得できます。配信事業者は、会員様からいただいたお金で運営しています。映画化となれば、そこにプラスで興行収入が生まれるわけです。映画ビジネスの中では、最初に興業収入があって、その後にパッケージ商品があって、最後に配信があります。僕ら配信事業者は通常だと1番最後に、映画を2次コンテンツとして買って配信しています。最初から自分達で作ってヒットさせられたら大きなメリットになります。まだ映画を公開していない現在は絵に描いた餅ですが(笑)。

――映画化することで、新たな経路での利益ができるわけですね。
伊藤Pそうです。もうひとつのメリットは“話題”を作れること。僕ら(dTV)はクローズメディアなので、世の中に知ってもらうためには極端な話、スポットCMを打つしかない。ただ、映画となればメディアが取り上げてくれますし、賞を獲るっていうこともあるかもしれません。副次的メリットがすごくあるんです。

興行収入が“1円”も入らなかったとしても、赤字にはならない

――邦画の製作費のベースは2.5億円と言われていますが、『パンク侍〜』の製作費は?
伊藤P公表はできないのですが、2億以上はかかっています。平均の倍以上はかけている形ですが、10億という超大作とまではいかない額でしょうか。

――大きな額だと思うんですが、リスク回避の方法や回収の見込みなど独自の仕掛けがあるのでしょうか?
伊藤P新しい仕掛けは、実はありません。金銭面でいうとリスクはあまりないんです。dTVは会員収入で運営しています。その中のやりくりで『パンク侍』ができています。楽しみにしてくださっている会員様の500円が積み重なってできた映画と言えると思います。ただ、年がら年中これをやっているわけにもいかないし、この勝負を毎回かけられるものでもありません。極論ですが興行収入が1円も入らなくても会社が傾くようなリスクはない状態ですね。ただ、今年のdTVのイチオシであることは間違いないですし、今後のサービスの方向性の一翼を担っている挑戦ですから、結果が振るわなかったとしたら会社としてはすごくテンションが落ちますし、私も責任は問われると思いますが(笑)

――つまり、会員収入が10あったとして、これまでは10個のオリジナル作品を作っていたところ、「今回は4を映画に充てましょう」というような考えでしょうか?
伊藤Pそうですね。ただ、ちょっと違うのは、我々は、2次コンテンツとして他社様の映画を買い付けて配信もしているわけです。ヒット作品は他社より早く独占配信したいということで、お金を積んで、配信事業者同士でヒット映画の取り合いになるわけですね。その点、自社制作ですから『パンク侍』は当然dTVで配信します。映画がヒットしたら、本来後で二次コンテンツを買う分の費用を先使いできるというのもありますし、興行収入で2億円戻ってくるとなったら、結果として2億円分の製作費が圧縮できる。最悪なパターンを想定しても何とかなる仕組みになっています。

 もっと言うと、dTVのオリジナルコンテンツはパッケージ(DVDなど映像作品)も販売します。そこでも収益があって、海外での販売や、レンタルショップでの展開、テレビ局やCS放送で番組販売もあります。劇場公開をしていることで、さらなる広がりが期待できつつ、すごくリスクヘッジの仕掛けができています。これらは1社単独製作だからこそできることですよね。製作委員会方式ですと、どんどん権利が分散していくから難しいと思います。

チャレンジングな企画は、製作委員会方式には不向き

――実際大手の映画会社が継続している製作委員会方式とは異なる制作手法になりました。1社製作と製作委員会方式の利点についての見解はいかがですか?
伊藤P良い面と悪い面、表裏一体だと思います。1社製作ということは、コントロールする人が1人。製作委員会方式ですと、社をまたいで分業ができます。これが実は心的負担でいうとすごく楽なんですよ。例えば、キャスティング担当、収支面を見る担当、製作面を見るプロデューサーがいたり…とね。今回は1社なので“大変”でした。

――これまで続いてきた製作委員会方式では、制作〜宣伝〜公開〜パッケージ化と、“流れ”ができているメリットはありますよね。
伊藤Pそうですね、流れに乗る分には委員会の方が断然やりやすいですよね。誤解を恐れずに言えば、ヒットが予測できるものに関しては、委員会方式の方が良いことは間違いないです。ただそれを今視聴者が求めているかというのは、また別の話だとは思います。視聴者は無難に面白いものを求めているわけではないと思うんです。原作が何万部売れているからと言って映画が面白いかどうかははっきり言って関係ない。それは出資者側の問題です。利益もリスクも分配する制作委員会のシステムの中では“冒険”ははなかなかできないんじゃないでしょうか。我々は、お金のリスクがないのであれば冒険(チャレンジ)しようという判断で今回は委員会を組まなかったという結果ですね。

――製作委員会方式だとチャレンジングな作品は出資を集めづらいという側面もあるかもしれないですね。最後に、1社制作の意義を改めてお聞かせください。
伊藤Pこれまで、スキームが一番後ろだった配信業者が一番最初の興行を抑えることができること。しかもそこで1社制作で作ったIP(知的財産)を元に、2次コンテンツ、パッケージ、番組販売などで価値を生むものになれば、もっと企画の自由度・幅が広がって、映像の作り方が変わるはずです。

 配信事業者でもこんなチャレンジなことができるなら、「配信で僕らもやってみよう」とクリエイターたちが集まってくれるかもしれない。そういったミッション、現代の社会的意義もある作品だと思っています。手前みそですが、これはすごくチャレンジングな取り組みで、よくこんなバカなことをやっているなと自分でも思いますね(笑)。「dTVの作るものって面白いよね」という声が上がったりすればそれだけでも嬉しいです。結果どうなるのか、皆さんぜひ映画を見ていただいて判断してもらいたいですね。

『パンク侍、斬られて候』

6月30日全国公開 
始まりは1つのハッタリ。発令される隠密ミッション。“10人の男たち”による腹の探り合いと、“1人の女”をめぐる恋の行方。そして“1人の猿”が語り出す驚きの秘密。最後に斬られるのは誰だ!?この世のものとは思えない物語のはじまりはじまり――。

監督:石井岳龍
脚本:宮藤官九郎
出演:綾野剛、北川景子、浅野忠信、永瀬正敏、東出昌大、染谷将太、國村隼、豊川悦司
公式サイト:http://www.punksamurai.jp/
(C)エイベックス通信放送

オリコンニュース公式SNS

Facebook、Twitterからもオリコンニュースの最新情報を受け取ることができます!