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多様化する“スピンオフ漫画” 手堅く売れる理由とは?


 昨今、“スピンオフ”漫画の勢いが盛んだ。いま話題となっている作品と言えば、福本伸行による『カイジ』シリーズ(1996年〜/講談社)から派生した『中間管理録 トネガワ』(2015年〜/同)、『1日外出録ハンチョウ』(2017年〜/同)が代表例。ほか、『ドラゴンボール』(1984年〜/集英社)からは『ドラゴンボール外伝 転生したらヤムチャだった件』(2016年〜同)も登場。普通の高校生が同作品の人気キャラ・ヤムチャとして『ドラゴンボール』世界に転生するというユニークな展開に、「まさか公式がこれをやるなんて!」など、SNSは大盛り上がり。こうしたスピンオフ漫画が大量生産される背景を探る。

SD化やギャグ路線で拡大したスピンオフ作品

  • キン肉マン(ゆでたまご/集英社) 闘将!! 拉麺男(ゆでたまご/集英社)

    キン肉マン(ゆでたまご/集英社) 闘将!! 拉麺男(ゆでたまご/集英社)

  • 修羅の門(川原正敏/講談社) 修羅の刻(川原正敏/講談社)

    修羅の門(川原正敏/講談社) 修羅の刻(川原正敏/講談社)

  • ちびまる子ちゃん(さくらももこ/集英社) 永沢君(さくらももこ/小学館)

    ちびまる子ちゃん(さくらももこ/集英社) 永沢君(さくらももこ/小学館)

 “スピンオフ”とは、漫画・アニメ・映画など娯楽作品の「派生作品」「外伝」の意味。歴史は古く、戦前にスタートした東京朝日新聞の漫画『江戸っ子健ちゃん』(1936〜1944年)の脇役、フクちゃんを主人公とし、日本の世相を映した名作と名高い『フクちゃん』(1936〜1971年)が日本の漫画では最古ではないかと言われている。

 そして1980年代、当時の小学生のハート鷲掴みにしたゆでたまご『キン肉マン』(1979〜1987年/集英社)から、人気キャラ・ラーメンマンが主人公の『闘将!! 拉麺男』(1982〜1989年/同)が登場。本編のパラレルワールドを舞台とした作品で、アニメ化やゲーム化されるほど人気となった。ほか、架空の武術・陸奥圓明流を継承する陸奥九十九の活躍を描いた『修羅の門』(1987〜1996年/講談社)からは、外伝の『修羅の刻』(1989年〜/同)が登場。本編ではなくスピンオフ作品の方がアニメ化される珍現象も起こった。また、『ちびまる子ちゃん』(1990年〜/集英社)の『永沢君』(1993〜1995年/小学館)など、出版社の垣根を飛び越えた作品も登場した。

「現在はスピンオフ漫画が大量に生産されていると同時に、ここ10年ほどはその概念自体も拡大。様々なタイプの“派生作品”が生まれています」と話すのは、メディア研究家の衣輪晋一氏。例えばSD(ディフォルメ)化やギャグ路線がそれだ。SD化では『涼宮ハルヒちゃんの憂鬱』(『涼宮ハルヒの憂鬱』より/2007年〜/角川書店)や『進撃!巨人中学校』(『進撃の巨人』より/2012〜2016年/講談社)。ギャグ路線では『北斗の拳 イチゴ味』(2013年〜/ノース・スターズ・ピクチャーズ)などが原作ファンも取り込み人気に。

SD化、ギャグ路線の流れについては「原作者以外の手が入る場合は、“原作破壊”の危険を払拭するため、“別モノ”としてアプローチする傾向がある」と衣輪氏。先述の『中間管理録 トネガワ』の場合、原作者のアシスタントを務めていた橋本智広らが作画を担当。本編では憎たらしかった悪役も、“裏では人間味あふれる生活をしている”という一面や、書籍になるほど人気だった“カイジ名言”をセルフパロディ―した展開がファンに大受け。“別モノ”として本編の人気と肩を並べるほど急成長した。

夢よもう一度!? オヤジ化したジャンプ世代に向けたスピンオフが多数登場

  • 魁!!男塾(宮下あきら/サード・ライン) 極!!男塾(宮下あきら/日本文芸社)

    魁!!男塾(宮下あきら/サード・ライン) 極!!男塾(宮下あきら/日本文芸社)

 ほかのパターンとしては、続編展開のスピンオフ作品も隆盛だ。これは『週刊少年ジャンプ』(集英社)黄金期に漫画を読んでいた世代が40〜50代を迎えた今、彼らに向けた作品たちのことを指す。『キン肉マン』や『聖闘士星矢』(1986〜1990年/同)などからは続編や派生作品が。『北斗の拳』(1983〜1988年/同)からは前日譚『蒼天の拳』(2001〜2010年/新潮社)が。さらに、絵が原作者でないパターンでは『ドラゴンボール超』(2016年〜/同)と、『BORUTO-ボルト- -NARUTO NEXT GENERATIONS-』(2015年〜/集英社)も連載中。「『ドラゴンボール超』と『BORUTO』については、原作人気が世界的に高い点、そして原作者が続編執筆への意識が低いという状況の中、“別作家”でもいいから公式の続きが読みたいファンの要望と、人気作を続けたい出版社側の狙いが見事にハマった例」と衣輪氏。

 一方、『魁!!男塾』(1985〜1991年/集英社)のスピンオフ『極!!男塾』(2014〜2016年/日本文芸社)は、原作の宮下あきら氏が過去に描いた作品の登場人物が出演するクロスオーバー作品だ。厳密にはクロスオーバーとスピンオフは違うが、「クロスオーバー的展開のスピンオフも、今の潮流を語るうえで欠かせない概念」と同氏は話す。

 「クロスオーバーと言えば『ドカベン』(1972〜1981年/秋田書店)の水島新司作品に登場したキャラクターが総出で試合をする『大甲子園』(1983〜1987年/同)などもありました。ですが、一般ユーザーに浸透したという意味では、『アベンジャーズ』や『ジャスティスリーグ』などハリウッド超大作のヒットの影響が非常に大きいでしょう。さらに、全体像で見れば、ニコニコ動画やSNSなどの発展によって、オタク文化・同人誌の二次創作の感覚が市民権を獲得したことも大きい。講談社のある編集者は、『宣伝方法として従来の広告の概念が変わり、“ネットでネタにさせ、バズらせればヒットする”ことを出版社が実施し始めた』とも指摘。最初から共通認識がある人気作のスピンオフは話題になりやすく、今の時代と相性が良いということです」(衣輪氏)

一方では漫画界の“ネタ切れ”的側面も

  • ドラゴンボール(鳥山明/集英社)ドラゴンボール超(漫画:とよたろう 原作:鳥山明 )

    ドラゴンボール(鳥山明/集英社)ドラゴンボール超(漫画:とよたろう 原作:鳥山明 )

 ただし、「エンタメ界がネタ切れ状態である“怪我の功名”的な側面もある」と同氏。前述したように、続編を描きたくない(描けない?)原作者に代わって、人気作を連載させたい出版社の打開策であることも透けて見える。事実、漫画『ドラゴンボール超』の巻末で原作者・鳥山明は「続きを描いてくれる作家が現れた!」と絶賛したほど。これは、名もない漫画家や素人でも、過去に見られないレベルで作画技術が向上している点も大きい。オリジナルで新連載を獲得するのは困難な時代でもあるため、手堅いスピンオフで当てたい漫画編集者と、優れた作画技術の描き手側の思惑が一致したこともありそうだ。

 ポジティブな理由ばかりではないとは言え、出版不況が叫ばれる昨今、ヒット作が多く生まれているのは喜ばしいこと。ファンの楽しみが多様化した現在、様々な作品が生み出されることで、日本が世界に誇る“漫画文化”がより豊穣に実っていくことに期待したい。

(文/中野ナガ)

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