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佐藤二朗インタビュー『芝居もツイッターも“表現の欲求”を満たすもの』

せつなくも笑える“つぶやき”がテレビやインターネットなどで反響を集め、フォロワー数は18万人を突破した俳優・佐藤二朗のツイッター。その投稿を書籍化した『佐藤二朗なう』では、総計48万リツイート&100万「いいね!」を獲得した名言(迷言?)のなかから117のツイートを厳選。芝居論や家族についてなど、佐藤二朗ならではのユニークな視点から綴られた言葉の数々は、笑いとともに読む人それぞれの人生にとっての“気づき”を与えている。そんな佐藤二朗ワールドを掘り下げてみたい。

アナログ人間だけどツイッターは気をつけながら続けている

――ツイッターの発言をまとめた書籍です。佐藤さんにとってはこれが初の書籍となるんですよね。
佐藤二朗そうですね。でもこれを書籍と言っていいのか分からなくて。バチが当たりそうな気がします(笑)。知り合いの舞台演出家に本を出すことを話したら、「納得がいかない。2歳の娘に本は丁寧に扱いなさいと言いきかせてきたけど、この本は尻に敷いてもよしと言った」と言われて。僕も「そうだね」と返しました(笑)。

――そもそもツイッターをなぜ始めようと思ったのでしょうか?
佐藤二朗もともとは『幼獣マメシバ』シリーズをやっていたときに、宣伝のためにツイッターをやらないかと言われたのがきっかけです。僕自身はアナログ人間なんですが、食わず嫌いはいけないなと思って。ただ、本来、役者というものはプライベートなことは一切明かさずに、お芝居にストイックに集中した方が圧倒的にカッコいいとは今でも思っているんです。でも、それを上回るほどに書くということに対する欲求が勝っちゃって。舞台や映像の脚本もちょろっと書いていますが、“書く”という表現にどうにも興味があるんです。だから今でもツイッターを続けています。

――その“書く”ということのなかでも、ツイッターで書く怖さのようなものはありませんでしたか? とくに芸能人のツイッターは発信力や影響力がある一方、ちょっとしたことで炎上したりといろいろ難しさもあると思うのですが。書く際に心がけていることはあるのでしょうか。
佐藤二朗夢を壊してしまうかもしれませんが、何を書いているのか分からないくらいにベロベロに泥酔しているときはさすがに書きません。あと、とにかく「ネガティブ」なことは書かないようにしています。人に対してはもちろん、社会的出来事に対しても。僕にとってツイッターはそういうこと以外の表現で勝負したい場所なんです。なにも考えずにツイートしていると思っていたでしょ? 一応こう見えて、いろいろ考えてるんですよ(笑)。
――そんなツイッターのフォロワーも18万人を超えました。
佐藤二朗先日、バイきんぐの小峠さんと飲んでいるときに、「お笑いはスポーツほどハッキリとした数字には表れないけど、観客の笑い声とか歓声で評価が分かる。芝居の場合はそういうのがあるんですか?」と聞かれて返答に困っちゃったんですよ。役者って、キャリアが長くても、子どもや動物に食われることもある。だからおもしろいとも言えるんですけど。でもツイッターって、有名無名に関わらず、いい文を書けばフォロワーが付いてきたり、リアクションがあったりします。その公正さはとてもとてもいいなと思います。

――ツイッターのフォロワーが広がったなと実感した瞬間はありますか?
佐藤二朗現場で言われることはけっこうあります。初対面のスタッフさんから読んでいますと言われるとうれしいですね。ただ、うれしいのと同時に照れくささもあって、スタッフには「だめだ、俺のツイッターを見ることは禁止する」と言っているんですが、内心はよろこんでいます(笑)。

福田雄一監督との特別な関係…恩なんて感じてる場合じゃない

――本の最後には盟友の(?)福田雄一監督がコメントを寄せています。
佐藤二朗福田には僕から頼んだんです。こんな本を買ってもしょうがないと言いながらも、ちょっとだけ褒めてくれるはずだと。絶対にそういうテイストで書いてくると思っていたら、案の定まったくその通りで(笑)。それを読んですぐにお礼の連絡をしたら、「大丈夫でしたか? 二朗さん的には?」というすごく不安そうなメールが返って来て。もちろんそれも予想していました。全部、仏の手のひらで転がしてやったという感じです(笑)。

――佐藤さんにとって、福田さんとはどういうクリエイターですか?
佐藤二朗やはり僕のことを、俳優としてすごくよく分かってくれている存在ですよね。それは言葉にできないくらいにありがたいことです。街を歩いていても、(『勇者ヨシヒコ』シリーズで演じた)仏と呼ばれることが多いですから。ただ、こういう取材で恩人はだれかと聞かれることも多いんですけど、福田の名前は意地でも出さないんです。福田にも口が裂けても言いませんし。この仕事を辞めるときにはお礼を言うと思いますけど、今この道でお互いに仕事をしている間は、恩なんて感じている場合じゃないので。そういう間柄です。
――今でこそテレビや映画で佐藤二朗という名前を見ないことはないほどの出演数ですが、役者としての転機は?
佐藤二朗何回かあります。今はなき新宿のシアタートップスという劇場に、劇団『自転車キンクリート』の舞台を堤幸彦監督が見に来てくれて。そこで僕のことが気になったそうで、本木雅弘さんが主演したドラマ『ブラック・ジャック』(TBS系)にワンシーンだけ医者Aという端役で呼んでくれたんです。堤さんは無名の人でも“いい芝居”をすればそれを撮ってくれるのでおもしろいシーンになり、それを見た本木さんの事務所の社長からスカウトされ、今の事務所に入りました。

――まさに転機ですね。
佐藤二朗それから、2004年の竹野内豊さん主演のドラマ『人間の証明』(フジテレビ系)に出演したのもそうです。僕は竹野内さんをいじめる刑事の役で、本当に大抜擢だったんですけど、無名だったのでみんな僕の顔を知らないわけです。でもそれって俳優としてはすごい利点で。だから「もしかして本物の刑事をキャスティングした?」と思われるまでとことんやってやろうと思ったんです。

――例えばどのような演技を?
佐藤二朗捜査会議のシーンって、刑事が捜査状況を説明するんですが、役者さんのなかにはそれが説明セリフだと言って嫌がる人もいるんですよ。でも僕はそれは違うと思っていて。むしろ“本物っぽさ”を表現できる。本物の捜査会議を見た人はそうそういない。でも本物の捜査会議ってもしかしたらこんなふう“かも”と思わせるチャンスがある。そう思って台詞に妙な節をつけました。捜査会議以外のシーンでもわざと“演技の素人”のような芝居をして、とにかく「本物の刑事?」と観る人に思わせようとしました。後から聞いたら、スタッフの間では「なんだあの目立ちたがりの俳優は」と不評だったそうです(笑)。でもディレクターの河毛俊作さんだけは「あいつには好きにやらせろ」と言ってくれたんですよ。

出演作数を気にしたことはない、売れたいという欲求もない

――世間的な評判はどうだったんですか?
佐藤二朗竹野内さんをいじめる悪役ということもあったんですが、ネットではけっこうたたかれましたね。でも、それは悪役の勲章みたいなものなので、僕はしめしめと思っていました。打ち上げのときに河毛さんから「このドラマで一番の収穫はお前だ」と言われたときは、本当にうれしかったですね。それからフジテレビの仕事が増えました。

――今では、お茶の間にも広く佐藤さんの顔が知られるようになっているわけですが、出演作が多いだけに、先ほどおっしゃっていた“利点”とは逆の難しさが増していませんか?
佐藤二朗そうですね。顔が知られるようになってきて、この人は「演技の素人?」という企みはもう通用しなくなりました。でも、そこで俳優の楽しみがなくなったかというと、もちろんそんなことはない。ハードルが上がっていくなかで、諦めずにその役柄が本物に見える努力をしていかなくてはいけないわけですけど、それが俳優という仕事ですから。
――作品のなかで本物になるのが俳優ですね。
佐藤二朗ただそれは作品によります。例えば、日常のなかで本物の仏が歩いていた、なんてことはないじゃないですか。福田組においては“本物”は無視していることが多いです。それから、芝居のなかで素で笑うということも俳優は絶対にあってはいけないんですけど、福田組ではそれも無視しています。なぜなら福田は1ミリでもおもしろいものを目指そうとしていて、そこに近づくことが一番だから。仏の場合は、素で笑ってしまってもいいんです。

――先ほど、俳優は成果や評価が数字として見えにくいというお話がありましたが、一方でそういったわかりやすい実績は仕事のモチベーションにもつながっていくものだと思います。佐藤さんはそういうものをお仕事に求められていますか?
佐藤二朗数字で求めてもしょうがないという気持ちはあります。出演作数を気にしたこともないですし、売れたいという欲求も実はあまりありません。家族を養えるくらい稼げればいいと思っているくらいです。ただ、才能あふれる俳優たちと一緒に芝居がしたい、優秀な監督やスタッフさんと組んで仕事をしたいという想いがあって、俳優として知ってもらえるようになるとそこにつながっていきます。それが僕の役者としてのモチベーションかもしれません。数字という形で欲求が満たされなくても、芝居をすることや、ツイッターを書くことで表現の欲求が満たされるなら、僕はそれで十分ですね。
(文:壬生智裕)

佐藤二朗なう

 佐藤二朗の何気ない日常の気づきや感想のほか、自ら“佐藤二朗という奴”について独白。芝居論について、家族のことなど、佐藤二朗ならではの“笑い”のエピソードはもちろん、時に熱くて、時に切なくて、爆笑必至なのに思わず「心が揺さぶられて」しまう。そして、読むうちになぜか元気になれる、まさに「二朗ワールド」全開のエッセイ。

◆佐藤二朗がサイン&手渡しする発売記念イベントが、7月18日(月・祝)に東京・渋谷のHMV&BOOKS TOKYOにて開催される。

著者:佐藤二朗
発行:アミューズメントメディア総合学院 AMG 出版
発売中
http://satojiro-now.info/(外部サイト)
(C)アミューズメントメディア総合学院AMG出版

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