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綾野剛、規制は表現のブレーキにはならない「あきらめずにやるだけ」

風俗スカウトマンからなんでも屋、産婦人科医、警務部秘書課広報室の係長など、作品ごとに多彩な顔を見せ、どんな役でもそのキャラクターに自然になりきる俳優・綾野剛の最新主演作は、過激な描写もあって「R-15+」指定(15歳未満の入場、鑑賞禁止)の『日本で一番悪い奴ら』。“表現することを諦めない”をモットーにする綾野が、同作への熱き思いと、表現規制について考えることを語ってくれた。

表現方法を見つけていって成立させることができた

――『日本で一番悪い奴ら』は日本映画の未来を変える新たな一歩となるような作品だと思います。ひとりの人間の26年間を演じていますが、気をつけたことは?
綾野剛どんなに優秀なマル暴(組織犯罪対策課刑事)でも、生涯5〜6丁ぐらいしか拳銃を押収できないらしいのですが、拳銃200丁に関わり、130キロの覚せい剤や大麻2トンを動かした諸星という人間を演じるのは、とてつもない熱量がなければ無理だと思っていました。その熱量を保ちつつ、こうやったらおもしろくなるかな? ということは一切考えずに全部本気でやる。監督の導きの通りに演じていたと言っても過言ではないのですが、そこに衣装部やヘアメイク部のお力も借りて、歩き方や声質を役の年代に合わせて変化させていくという努力をしていました。

――どのような努力だったのでしょうか?
綾野剛マル暴のときは微妙に声質を変えていったのですが、本当にこの誇張の仕方で大丈夫なのか? 成立しているのか? 嘘っぽくないか? と不安に思うこともありました。でも、白石(和彌)監督が「大丈夫」とおっしゃってくださったので、そのままやってみようと。諸星が銃器対策課へ異動してからはその変化が当たり前になっていったのですが、マル暴の頃がいろいろな意味で一番演じるのが難しかったです。パンチ気味の髪型やチンピラのような服装は、僕が衣装に着られてしまうのではないかとか。ですが、声の出し方など違う表現の方法を見つけていって、成立させることができました。とにかく熱量さえ失わなければ最後まで戦えると思い、全力で演じていました。
――熱量をずっと保ち続けるのは大変だったのでは?
綾野剛そうですね。とくに熱量が保てるか心配だったのは、ラストで諸星が一本背負いで投げられるシーンです。撮影は昨年の5〜6月だったのですが、そのシーンに限っては冬の設定だったので12月中旬ぐらいに撮ったんです。ちょうど『コウノドリ』(TBS系)の後だったので、諸星に戻れるかな? と少し不安もありました。とにかく食べまくって、顔をパンパンにさせていけばなんとかなるのかなと(笑)。ところが、現場で一面真っ白な雪景色を見て「なんだか覚せい剤に見えますね」なんて白石監督と会話していたらいつの間にか諸星に戻っていました。一本背負いされたときは「覚せい剤が周りにたくさんあって最高」なんて思ってしまったくらいです。

過去の出演作はすべて敵。次の作品で負けないように

――正義のために戦う警察官が“日本で一番悪い奴ら”になってしまうところに今作のおもしろさを感じますが、役者にとっての正義や悪ってあると思いますか?
綾野剛正義なんて限りなく不義じゃないですか? 正義というものは、日々や年間、瞬間などそのつど変わっていくものでいいと思っています。“変わらない、変われないこと”が僕にとっての悪なので。これからも変化を恐れずに生き続けたいですし、もし自分に対して“固まってしまった”と感じたら役者を続けられる自信がありません。

――「自分を変えてくれる人と仕事をしないと意味がない」と以前おっしゃっていましたしね。
綾野剛そんなふうに思っている自分が大したことないのかなと思っていたり。さっきの善悪の話じゃないですが、悪を敵に置き換えると、過去に出演した僕の作品はすべて敵なんです。他の作品で使ったプロセスは一生使えないですから。例えば諸星でやったことは、続編『日本で一番悪い奴ら2』があるなら使えますが、他の作品では使えない。経験したことってどんどん溜まっていっているように思われがちなんですが、終わったら捨ててしまうので、溜まってはいないんです。賞をいただいた『そこのみにて光輝く』は、作品が圧倒的に羽ばたきすぎてしまった。そういった作品に負けてしまわないように、常に次の作品が勝負になっていきます。そんなふうに自分を追い込んで、鼓舞しています。
――最後に本音をサラッと付け足してしまうところが綾野さんのチャーミングなところだと思います(笑)。
綾野剛そうですか?(笑)。嘘がない人っておもしろいと思っていて。僕が好きな駅伝とかスポーツもそうですけど、そこには嘘がない。白石監督も嘘がないからご一緒しておもしろいと思えましたし、今作はフィクションではありますが“よーいスタート!”から“カット”までの間はノンフィクションが常に起こっていると思いながら演じていました。

“やれること”と“やらないこと”はある

――綾野さんが昔から大切にしている“表現を諦めない”という精神は、今作からもとても伝わってきました。
綾野剛表現を諦めたら作品に携わってはダメですよね。そんな人はこの業界にいないと思いますが。

――でも何かしら表現に関してのルールや規制が入ったりしますよね?
綾野剛そのルールのなかで作るのが逆におもしろいんです。例えば僕が犯罪者の役を演じるとしたら、車に乗るシーンではどうやってシートベルトしようかなというところまで考えることができます。表現のブレーキにはならないんです。今作でも無鉄砲にいろいろやっているように思われがちですが、白石監督がしっかりと手綱を握ってくださっていたおかげで安心して思いっきり走れました。もちろん縛りは作品によって異なりますし、なんらかの縛りはどの作品にもあるものです。そのなかで、自分ができるその作品における表現を諦めずにやればいいだけだと思います。

――今後もあまり線引きせずに作品に必要ならどんなシーンにも挑戦していきたいと?
綾野剛“やれること”と“やらないこと”は僕にもあって、取材の写真撮影で上半身裸になってくださいと言われても絶対に脱がないです。というのは、自分の体をあらわにするのは映像作品のなかだけと決めていて。そういう自分の決め事は作っています。
――30代後半に向けて何か目標はありますか? 以前お話を伺ったときには3年以内に海外の作品に出演したいとおっしゃっていましたが。
綾野剛海外で個人的に活躍することには正直まったく興味がないんです。日本の作品を世界に届けたいという思いしかないので。ただ、日本の作品を海外に持っていくための足がかりになれるのならば、海外の作品に出演したいと考えています。目標としては3年以内に。あまりこの言葉は好きではありませんが、“つながっていくこと”を意識していくのは非常に大事なことだと思っています。

――ニューヨーク・アジア映画祭でのライジング・スター賞受賞おめでとうございます。綾野さんは今作で世界から評価を受けましたね。そこから生まれるこの先の世界との“つながり”を期待してしまいます。
綾野剛ありがとうございます。ただ、個人賞をいただいたことよりも、白石監督の作品が世界に出ていくことのほうが嬉しいです。まだ公開もしていない段階で海外で賞をいただけたことも含めて、日本映画の世界での可能性は無限だなと感じています。世界に目を向けると、僕はパク・チャヌク監督やキム・ギドク監督の作品のような韓国映画もすごく好きです。いつか韓国との合作も作れたらいいですね。以前、蜷川幸雄さんから「日本だけでおさまる俳優になるんじゃねえぞ!」とおっしゃっていただいたことがあります。いつか叶えたいと本気で思っています。
(文:奥村百恵/撮り下ろし写真:逢坂 聡)

日本で一番悪い奴ら

 大学時代に馴らした柔道で、その腕を買われ北海道警察の刑事となった諸星要一(綾野剛)。しかし、捜査も事務も満足にできず、周囲から邪魔者扱いされる。ある日、敏腕刑事・村井定夫(ピエール瀧)から、「犯人を挙げて点数を稼ぐことが必要。そのためには協力者=S(スパイ)を作れ」と言われ、ヤバすぎる捜査を続けていくが……。

監督:白石和彌
出演:綾野剛 YOUNG DAIS 植野行雄 矢吹春奈 瀧内公美
2016年6月25日(土)全国ロードショー
(C)2016「日本で一番悪い奴ら」製作委員会
【公式サイト】(外部サイト)

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