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北野武監督インタビュー『人生に期待しない…オレは運がいいから』
<<動画インタビュー>> 若手お笑い芸人、映画界への想い!
今回はいたずらしてないなあと(笑)
北野「たけしは、あればっか撮ってる」と言われるのがイヤで、1回休もうと。で、ちょっと冒険しようかって(笑)。前に撮った『みんな〜やってるか!』(1994年)って映画は、自分では最高傑作だと思っているんだけど、一般的には無茶苦茶なひどい映画って言われてて。お笑いをやろうとして失敗した形のおもしろさを、自虐的なネタで構成した、お笑い自体をバカにした映画なんだけど、ストレートにとられちゃった。だから、こんどお笑いに手を出すときには、その轍を踏まないようにって。
――ナンセンス・ギャグが疾走する、シュールな『みんな〜』と違って、本作は、老若男女誰が観ても楽しめる、素朴な笑いが織りなすエンタテインメントです。
北野『みんな〜』とは違う形の、わかりやすいお笑いをやろうとすると、完全なアナログというか、お笑いの世界でいうベタになる。ただそこにコメディアンを使うと、ベタでも現場だけの笑いになっちゃう。カメラマンを笑わそうとしたり、音声さんとかスタッフが笑って満足しちゃって、スクリーンの向こう側で観ている人にまで気配りがいかない。真面目な役者がやれば、もっとおもしろくなるだろう、と。だから今回は、役者さんに神経を使ったね。いかにも主役をやれる人がお笑いでも主役で、脇にいる人もみんな演技のできる人で固めて。それでアドリブは一切なしで、セリフの“てにをは”までちゃんとやってもらって。漫才風に見せたいところは(撮影後の)編集でいろいろとできるから、基本的な演技はお笑いじゃないと思ってやってくれって。だからエンタテインメント映画としては、かなり王道をいってるというか、(今回は)いたずらしてないなあと(笑)。
北野お笑いっていうのは、乾いたドライな笑いと、じめじめしたウラのある笑いがある。「おじいちゃん、どこに行ってるの?」なんて、孫が龍三に訊く場面をわざと入れてるんだけど、実はお笑いにとっては、子どもが心配する描写ってあまりよくないと言われたりもする。でも、ああいうシーンを入れることで、底辺に哀しみが流れている方が、オレは好きで。後はもう笑うしかないから、笑っちゃうってところだね。どうしても自分の作品って、暴力とか全部外しちゃうと哀しいなって思う。“人間は哀しいんだ”ってところにいっちゃうんだよね。やっぱり、ちゃんとした芝居をできる人を使うと、笑うしかない状況に追い込まれちゃうんだな。(本作も)映画だから笑って観てられるけど、実際に当事者になったら、あり得るなっていうか、オレオレ詐欺だってひっかかってる人がいるわけだからさ。けっこう(映画のなかで)やってることはシリアスなんだよね。設定が設定だから、笑っちゃうだけで(笑)。
あと10年はかかるんじゃない
北野まあ、子どもも老人も、みんな媚びを売り過ぎてるよね。オレはそういう環境で育ってないからさ。いまの教育なんか、子どもに夢と希望を与えようとか言ってるじゃん。オレらが子どもの頃は「おまえはバカだから、勉強なんかしなくていい」って(笑)。それと「うちは貧乏なんだから」とか。努力すれば、何でもできるって妙な教え方をすると、できなかったヤツはどうするんだよ? って思う(笑)。おじいちゃんもそうで、おじいちゃんはおじいちゃんらしくって、倅たちに媚びるじいさんより「あのジジイ、しょうがねぇなあ、早く死なないかな」って思われてる方が絶対いいなって。老人福祉とか、そういうのがきらいなジジイがいたっていい。孫をかわいがってるジジイばっかじゃねぇぞ! って(笑)。(数は)そんなにいなくても、映画にすると痛快なんだよね。「現代の高齢化問題を描いたんですか?」なんてよく訊かれるけど、偶然ネタが(時代に)合っただけで、台本は『アウトレイジ』の前につくってた。いまの時代を反映してるって言われると、それはそうかなあとも思うけど、まるっきり真剣に取り組まないっていう(笑)。ジジイはジジイで好き勝手なことをやって「どうせ死ぬんだから」っていうのが、いちばん笑えるなって。
北野最近は自分で審査員をやって、好きなタレントを呼んだりすることもあるけど、若い人のネタを見ても、おもしろいことはおもしろいんだけど、新しいとは思わないね。“これ、やったもん”って感じ。だからお笑いの感覚に関しては、若い人に対してあまりコンプレックスを持ってない。まだオレたちの幻影というのか、影響を引きずってる。だからまず、芸のケンカを吹っかけてこないよね。オレらが若いころには、上に萩本欽一さんやザ・ドリフターズがいて、どうやって引きずり下ろそうかってすごい執念があったんだけど、いまはなんか、オイラが年取ってくたばるのを待ってるみたいでさ(笑)。相変わらず、タモリも、さんまも、オレも体力があって、やってるわけだから。センスのある人が出てくるまで、あと10年はかかるんじゃないかって。
いい時代に生まれた「いつ死ぬのかが楽しみ」
北野潰さなくても、いまは映画自体が自滅してるよね。ハリウッド映画も、日本の映画も、あまりにも興行収入がメインになり過ぎてて。予算がないから、撮らせてもらえない映画監督も多いし。オリジナルの台本でやらせてもらって、オレなんか運がいいなって思う。スタッフが耐えてくれるんでね(笑)。黒澤明さん、小津安二郎さん、大島渚さん、日本にもいい時代にいい監督はいたけど、日本の映画産業から考えると、いい監督が出てくる要素はあまりないんじゃないかって思う。情報を単純にデジタル化して、グラデーションなんかどうでもいい時代になってくると、映画自体が昔の時代のものになるんじゃないか。フィルムで撮ってた、古きよき時代の映画とは違う形式になってきてるよね。それで映画がダメになってるってわけでもないと思うけど、『ニュー・シネマ・パラダイス』(1989年)なんて映画は、もう撮れないってことだ。
北野うん。人生に期待した覚えはないね。だけど年取ってくると、期待っていうか、いつ死ぬのかが楽しみというのはあるよね。マイナス思考じゃなくて、プラスで考えると、これだけいろいろな仕事をやってきたご褒美として、死が待っているとしたらありがたいっていうのか。死ぬことが褒美だと思った方がいいなあって。やりたいことは無限にあるわけだから、もちろん悔いは残るけど、やりたいことをやっていきながら、くたばるんならいいなって。だから現役のうちに死にたいよね。飲み屋で「うまいな、この酒」って言って、コテッと死ねたら最高だな。あとはまあ、人生に期待しないのは、オレは運がいいからなあ。なんでこんなに運がいいんだろう! って思うよ。芸人としても、いい時代に生まれたなあって。でも警察につかまって、交通事故で顔もぐちゃぐちゃになって、それで運がいいって、ねぇ? まあ、五分五分だね(笑)。
(文:石村加奈/撮り下ろし写真:逢坂 聡)
龍三と七人の子分たち
監督・脚本:北野武
出演:藤竜也 近藤正臣
中尾彬 品川徹 樋浦勉 伊藤幸純 吉澤健 小野寺昭?安田顕
公開中
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(C)2015「龍三と七人の子分たち」製作委員会