1959年、ハンドラー夫妻が経営するアメリカの玩具メーカー・マテルから登場した『バービー』。バービーという名前は、夫妻の愛娘であるバーバラの愛称から名付けられている。バーバラの母親で、バービーの“生みの親”であるルース・ハンドラーが、「私のバービーのフィロソフィーは、ドール遊びを通じて小さな女の子は自分のなりたいものに何にだってなれるということ。そして、女性は“選択”ができるという事実を表現していること」と語っているように、創業時からのブランドメッセージは、一貫して「You Can Be Anything(何にだってなれる)」。バービーは女性を取り巻く環境の変化を映しながら、性別や人種を超えて常に“なりたい自分”で在り続けてきた。 例えば、アメリカでは1972年に教育などでの男女差別が禁止され、女性に平等な権利が与えられたが、バービーはそういった社会問題が表面化する前から、職業やファッションなど時代を超越したドールを数多く展開していた。1965年に登場したのは、宇宙飛行士のバービー。アポロ11号が史上初の有人月面着陸を果たしたのは1969年のことだが、バービーはそれ以前に宇宙に旅立ち、また女性でも宇宙飛行ができるというメッセージをいち早く発信していた。なお、女性の社会進出を象徴するように、アメリカ大統領選にも立候補。1992年〜2016年まで、計6体の大統領候補バービーがお目見えしている。
子どもたちが生活する“社会”は、実に狭い。家庭と幼稚園・保育園、小学校などを往復する生活のなかで触れ合う人といえば、家族や限られた友だち程度。そういった生活のなかで玩具、特に人形で遊ぶことは、社会を学んでいくうえでも、非常に大切な行為といえる。講談社の幼児誌『おともだち』の編集長で、『Barbie 60周年アニバーサリー 公式ブック』(10月10日発売)も手がけた中谷直子氏はこう語る。「子どもたちは、遊びながら世の中の仕組みを学びます。その意味では小さい頃にどんな玩具に触れるかということはとても重要です。子どもたちはドール遊びを通して想像力を育み、人間関係や個々の役割を学習し、社会の仕組みを理解していきます。その点、世界150以上の国と地域で発売されているバービーはスケールが違います。宇宙飛行士から動物学者まで、これまでに200以上の職業になることで、子どもたちに無限の可能性を提示してきましたし、『肌の色・目の色・髪の色が違っても、人種や体型が違っても、ぜんぶバービー!』『あなたは何にだってなれる!(You can be anything!)』とバービーは強いメッセージを常に発信し続けてきました。私はこの潔さに惹かれ、今回の60周年クロニクルを企画しました。ドール遊びの中で、ダイバーシティ=多様性をごく自然なこととして子どもたちに伝え、人生には無限の可能性が広がっていると教えてくれる、教育的に優れたドールだと思っています」(中谷氏) 人形を愛でるという行為については、前出のマテル・インターナショナル小林氏も、「お子さまの考えや創造・想像のきっかけづくりと、その力を広げ、未来の無限の可能性を信じ・進む力を養うサポートができるものと考えております」と、その重要性について分析。また、ドールを通して見られるようになった世界は、「お子さまだけでなく大人の夢や希望も広げると考えています」と小林氏は語る。
小林氏のコメントのように、バービーは現在、小さな子どもだけでなく“ごっこ遊び”を卒業した大人からも支持を得ている。コスメや雑貨などのアイテムをはじめ、オシャレなコレクションとして買い求める「バービー シグネチャー」のシリーズや、映画、ファッションブランドとのコラボレーションドールも人気を集めている。年齢を重ねてもなお支持されることについて、「大人になって三者三様の楽しみ方をしていただいておりますが、どのような皆様も根底にある“You Can Be Anything(何にだってなれる)”が表現されたドールに無意識・意識的に共感いただけているのではないかと思っております」と小林氏。強い意志を持ち、その時々に世間に向け“問い”を投げかけているからこそ、バービーはいつの時代も憧れの存在で在り続ける。