日本シティ・ポップが世界でヒット ブーム火付け役の韓国人DJナイトテンポが語る昭和歌謡への愛
フューチャー・ファンクはもう古い “昭和グルーヴ” で音楽を追求
Night Tempoみんな音楽が好きだというのが伝わってきました。韓国にも音楽好きはいっぱいいますけど、ファッション的にクラブに来る人も増えていて、そういうパーティだとDJ で盛り上げるのがけっこう難しいんです。インフルエンサーとかトレンドセッター的な人が注目するとジャンルも盛り上がるので、いい側面もあるんですけど(苦笑)。
─ちなみにフジロックではほかのアーティストは観ましたか?
Night Tempoバタバタでほとんど観られませんでした。特に前々日に出た杉山清貴さんはめちゃくちゃ観たかったんですけど…。
─ Night Tempoさんは、日本の昭和歌謡を現代のサウンドに“翻訳”した「フューチャー・ファンク」というジャンルで、欧米を中心に世界中に和モノ・シティ・ポップブームを巻き起こしています。
Night Tempoそこなんですけど、自分的に最近はもうフューチャー・ファンクとしては活動していないつもりで、そこから分離した“昭和グルーヴ”という括りで自分の音楽を追求していきたいと考えています。初期からフューチャー・ファンクを聴いたり演奏したりしていた人のなかでは、このジャンルは「もう終わった」と言われているんですね。
Night Tempoネットの世界の流行り廃りはめちゃくちゃ早いです。フューチャー・ファンクにしても、その源流となったヴェイパー・ウェイヴにしても。どっちもネットのコミュニティから誕生した音楽ジャンルですが、ネット系のミュージシャンってオフラインの活動をほとんどしないんですね。で、その音に飽きたらまた別のことを始めたりする。だから消費されるのも早かったんだと思うんです。中心人物的な人がブレずに、かつリアルの世界に向けて発信し続けていたら、ジャンルとして確立していたと思うんですけど。
─まさにNight Tempoさんが今、試みているのはリアルの世界への発信なんですね。今年は2月にサンフランシスコ、6月にロサンゼルス、7月にニューヨークで昭和歌謡オンリーのDJをプレイしました。
Night Tempoはい。欧米のシティ・ポップブームという下地もあって、どこも超満員でした。特にシティ・ポップの2大アンセムである竹内まりやさんの「プラスティック・ラブ」(’84年)と杏里さんの「Remember Summer Days」(’83年)を演ったときはすごい盛り上がりました。
Night Tempo純粋にいい曲ということもあるけれど、たぶん欧米人の好みにフィットしたんだと思います。グルーヴィで踊れて、あと歌に余白が多い曲が好きみたいですね。歌詞が詰め込まれすぎてないというか。
─欧米の方は歌詞が何を歌っているのかわからない、あるいは気にしないかもしれない?
Night Tempoはい。歌もサウンドの一要素として聴いているんだと思います。でも歌詞がわからなくても好きだと言う人が多いということは、楽曲の本質的な素晴らしさが評価されているんでしょう。僕は一応日本語がわかりますが、リミックスする際にはあまり歌詞に引っ張られないようにしています。日本人の和モノDJの方のなかには歌詞を意識したリミックスをする方もいますが、僕としてはやはり外国人の視点というか、あくまで耳と体で感じた心地よさを追求するのが自分のスタイルだと思っています。
─欧米と日本とではDJのプレイリストも変わりますか?
Night Tempoオール昭和歌謡という点では同じですが、フロア受けは多少意識します。ただ欧米ではニューミュージック系をかければ間違いないんですが、僕はあえてアイドル歌謡もかけるようにしているんです。昭和のアイドル歌謡には隠れた名曲が多くて、クレジットを見るとシティ・ポップのそうそうたるミュージシャンが作っていたりするんですよね。ただ、それをそのまま当時の音で流しても理解してもらえないので、今の若い人の好みに合うようにリエディットして。で、けっこう反応が良かったんです。欧米でも耳の早い人はシティ・ポップだけじゃなくてアイドル歌謡にも注目し始めているみたいで、僕としてはすごくうれしいです。当時は売れなかった、名前も忘れられてしまっているような歌手でもいい曲っていっぱいあるんですよ。