日本シティ・ポップが世界でヒット ブーム火付け役の韓国人DJナイトテンポが語る昭和歌謡への愛
日本語を勉強したのは、小さなレコード店でも気持ちを伝えるため
Night Tempo124BPMをベースに踊れる感じに作っていますが、大事なのは原曲をあまりいじりすぎないこと。音を足すにしてもやりすぎにならないように注意しています。あと可能な限りアナログのメディアから音源を取り込みます。音源として最も理想的なのはカセットテープ。それがなかったらレコード。で、最終手段はデジタル音源ですが、昭和歌謡ってデジタル音源化されていないものが多いんですよね。だから結局はテープやレコードで音を取り込むしかないんですけど。
─カセットテープは劣化しませんか?
Night Tempoきちんとメンテされたプレイヤーであれば、テープを傷めることはないんです。テープをかけるときは回転速度とかを全部チェックして、まずいなと思ったときは自分で修理をします。新品では手に入らないものですから、大切に扱っています。
─来日のたびに全国のリサイクルショップや中古レコード店を回ると伺いました。
Night Tempo日本語もそのために勉強したんです。2年半前に初めて来たときは英語と下手な日本語で話していましたが、地方のおじいちゃんがやっているような小さなレコード店とかだと、丁寧な日本語じゃないと気持ちが伝わらないので。
Night Tempoリアルタイムで持っていた方も、けっこう捨てちゃったとかって言いますよね。だからこそ自分が発掘してキープしておかなければと思うんです。じゃないとこの世から消えてしまう文化ですから。すでに持っているミュージックテープでもけっこう買っちゃいますね、保存用として。
─音質もあるのでしょうが、なぜそこまでカセットテープにこだわるんですか?
Night Tempo僕は日本の80年代カルチャーが大好きで、ソニーのウォークマンとかカシオの腕時計とかも熱心に集めています。音楽はあくまでその一部であって、これからやろうとしているのは80年代カルチャーを自分のフィルターを通して発信することなんです。最近は昭和カルチャーを扱った展示が増えていて、リアルタイムの人には懐かしいし、若い人の間でも80年代カルチャーが流行っているからウケはいいけど、あまり編集がされていないものも多い気がするんですね。そういうものばかりになると、それこそ消費されてブームが終わってしまうんじゃないかと。僕はそれが心配なんです。
─80年代カルチャーに惹かれる理由として、Twitterに投稿されていた「シティ・ポップは裕福な時代の幸せがそのまま伝えて来る。世界的に余裕がない今は、技術があってもその時の感情を再現する事は不可能に近い。」という言葉が印象的でした。
Night Tempoこのツイに僕の思い入れのすべてが集約されています。僕は86年生まれで、ちょうど思春期の頃に少し遅れて日本の80年代カルチャーが韓国に入ってきたんですね。だから僕にとってこの時代はリアルタイムなんです。もちろん「自分なりのフィルターを通す」と言っても知識がないとダメだと思うので、音楽は10年以上前から追いかけてきたけれど、今後はさらに勉強と考察、解釈を深めていかなければと考えているところです。今はそこにすべてを懸けているし、目的がはっきりしているので音楽にしても仕事的なオファーは受けていないんです。もともと音楽も趣味で始めたことでしたし。仕事的になるくらいだったら(前職の)プログラマーに戻ったほうがいいとも思っています。
文/児玉澄子
Profile/80年代のジャパニーズ・シティ・ポップや昭和歌謡、和モノ・ディスコ・チューンを再構築し、「フューチャー・ファンク」というジャンルを生んだ韓国人プロデューサー兼DJ。米国と日本を中心に活動する。竹内まりやの「プラスティック・ラブ」をリエディットし、ネット中心に欧米で和モノ・シティ・ポップブームを巻き起こした。昭和カセットテープのコレクターでもある。11月には「昭和グルーヴ」第3弾のリリースと全国6都市を廻る来日ツアーが控えている。