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『あな家』好演の木村多江 狂気の裏にあった綾子、そして家族への想い

『第12回 コンフィデンスアワード・ドラマ賞』助演女優賞には、TBS系金曜ドラマ 『あなたには帰る家がある』で“落ちてはいけない禁断の恋”へと奔っていく女性・綾子を見事に演じきった木村多江が受賞した。狂気さえも感じさせた演技には「本当に怖い」「観ていて嫌な気持ちになるくらい辛い」といった声も多数寄せられるなど、視聴者の心を揺さぶった。木村本人も「今まで一番難しかった」と語った役作りから、撮影の様子などを振り返ってもらった。

男性には好かれる女性だけど、同性には嫌われる、そんな綾子像に

――助演女優賞受賞、おめでとうございます。まずは率直な感想からお聞かせください。
木村多江 本当に嬉しいです。このドラマは役作りがとにかく大変で、撮影中は考えすぎて眠れない夜もたくさんありました。演じる上でも、楽しさと苦しさが表裏一体で生み出す苦しみが一杯あった役でしたので、このようなご褒美をいただくことができ、今はじんわり嬉しさが込み上げてきています。
――どのあたりが最も苦しかったですか。
木村 キャラクターを作っていくのが難しくて…。準備稿の段階から綺麗さは一切なくしたいと考えいました。実際に中谷美紀さん演じる(佐藤)真弓さんと対峙していくのには綺麗さでは勝負できませんし、それでも(佐藤)秀明さんが妻の真弓さんを置いて綾子に惹かれることを、視聴者の皆さんに納得していただけるような設定しなくていけない。そこで、男性には好きな女性だけど、同性には嫌われる、そんな女性像にしました。

――ドラマ賞の審査員や視聴者のコメントにも“お花畑系オンナ”だとか、“乙女おばさん”など、散々な言われようでした(笑)。

木村 私自身はドライというか、意外とカラッとした性格なので、綾子さんのような湿度の高い性格を演じるのはとてもハードルになりました。それ以外にも、女性らしい感じだとか、キャラクターづくりにはたくさんハードルを作り、それをクリアしながら役に近づけていきました。

異常な行動にも“理由”がある

――女性に嫌われるキャラクターではありましたが、こうして助演女優賞を受賞されたように、観ている人は結局、綾子がとても気になっていたわけです。
木村 綾子さんの行動は嫌われる要素が満載ですが、視聴者の方が不快に思って、観なくなってしまってもいけない。嫌いだし、不快だけど、この人のこの先を観てみたいと思っていただけるように、多面性を持たせながら演じるようにしたいとは考えていました。でも、もともと人って狂気じみた部分を持ち合わせてしますし、綾子さんみたいな人は隣にいるかも、とも思うんです。日常性と狂気の狭間にいるような人。その微妙なところを演じるようにしました。
――確かに行動自体はめちゃくちゃでしたが、その後が気になる存在でした。
木村 メンチカツを奥さんの仕事場に持って行ってしまうとか(笑)。でも、私の中ではそれにもちゃんと理由があるようにしたいと考えていました。理由のない行動だと、本当にただの狂気でしかなく、怖い人というアイコンになってしまう。でも人間ってアイコンではなく、そうしてしまうのにも理由があるんです。(佐藤)秀明さんに会いたくて、夢中で肉を切っている。その無邪気な行動が結果として怖く見えてしまう。それを表現したいと考えていました。

――後半は狂気が振り切っていきました。
木村 そこから先はストーカー行為になるので、怖いけどちょっと可笑しいというように、逆にコメディに振っていってバランスを取るようにしました。

演じながら心の中では“怖い! みんな逃げてー”って思ってた(笑)

――木村さんとしてはまったく綾子さんにまったく共感できなかった?
木村 綾子さんのような要素はまったくないですね(笑)。本当に不思議な人でした。演じながら心の中では“怖い! みんな逃げてー”だとか“綾子、止めてー!”って思っていたくらいです(笑)。彼女の思い込みの激しさに私自身が引いているというか。でも、そこには分裂したもう一人の私もいて、嬉しそうに行動しているんです。こうして分裂した状態で演技をするためにも先ほども言ったように、彼女の行動にキチンと理由を作っていく必要があったんです。

――お聞きしていると役作りの奥深さも感じます。
木村 今回は特に私自身との距離感が遠かったので、難しかったですね。それこそ『ブラックリベンジ』(ytv/日テレ系)で演じた今宮沙織みたいに狂気に完全に振り切ってしまえば、なんの迷いもなく走っていくことができますが、今回はそうではないので、今後の展開も考えながら、ここまでやってしまうと戻れなくなってしまうとか、ほかの3人はどう感じるかな? などと常に予測しながら、嫌われる方向、面白い方向、それぞれバランスを取るようにしましたね。

それぞれの関係性がありながら、すべて溶け合っていった

――中谷さんとの掛け合いも見どころでした。
木村 美紀ちゃんとは何回も友達役を演じていますし、お互い化学反応し合える関係だと思っています。今回も真弓さんをイラっとさせるようなことを私が仕掛けると、それに美紀ちゃんが反応していくといったように、お互いがマウントを取り合っているような、あの掛け合いは演じていてもとても楽しかったです。

――確かに阿吽の呼吸のようなものも感じました。
木村 綾子のコンプレックスの1つでもあるお姉さんに真弓さんは似ているところがあって、嫉妬の対象なんだけど気になる人になっていく。最終的には秀明さんより真弓さんへ自分の気持ちがシフトしていってしまう。先ほどは綾子さんと私自身は分裂していると言いましたが、最終的には私と中谷さん、綾子と真弓さん、それぞれの関係性がありながら、すべて溶け合っていって、掛け合いを楽しんでいたようにも思います。

撮影前日は、考えすぎてほとんど一睡もできなかった

――印象に残っているシーンはありますか。
木村 お家に乗り込んでいくシーンと、ユースケさん演じる(茄子田)太郎さんに別れを告げるシーンですね。乗り込んでいくシーンは、ここに至るまでに行動の異常さと同時に、日常性も調節しながら出してこられていたので、思い切って狂気に振り切ることができました。でも、桜田ひよりさんが演じた(佐藤)麗奈ちゃんに、「私をお母さんと呼んで」と言うセリフには、彼女の傷ついている表情を見ながら、私も心のなかで「ごめんね…」って思っていました(笑)。

――ユースケさん演じる太郎とのシーンはいかがでしたか。
木村 ユースケさんとはそれこそ何回も夫婦役をやっているので、ユースケさんが演じている太郎がどう感じているのか、その感情が肌で理解でき、感情がぶわーっと私に押し寄せてくるんです。それは私が感じているのか、綾子が感じているのかも、もうわからなくなってしまって。彼を傷つけているという事に対するもの凄いショックが渦巻いていました。でも、それがあったからこそ最後は太郎さんのもとに戻れたようにも思います。

――本当に印象的なシーンでした。
木村 この場面を撮影する前日は、考えすぎてほとんど一睡もできなくて、パニック状態になってしまい、実際、撮影も時間がかかってしまいました。太郎さんに別れを告げ、そこからまた人生が展開していく。今後、どこに行くべきか、家を出ちゃえば楽ですが、その出る直前は自分自身も苦しかったし、撮影も苦しかった。人間って常に揺れていますから、その揺れのどこを切り取るのか、本当に難しかった。でも、だからこそ良いシーンになったかなと思います。

コメディなど違う役もいろいろチャレンジしていきたい

――最後に今後、演じてみたい役などがあれば教えてください。
木村 綾子さんが強烈だったので…。実は似たような役でのオファーもいただくのですが、今はそのイメージを裏切っていかないといけないとも思っています。薄幸な女性ももう充分やりましたし(笑)、もっといろんな役を演じられないと役者としても成長していけないし、コメディなど違う役もいろいろチャレンジしていきたいですね。もう私の中には綾子さんはいません!(笑)

(撮影:鈴木かずなり)

提供元: コンフィデンス

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