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加速するeスポーツ、キーマンに聞くeスポーツの現在地と発展課題

 Jリーグや吉本興業の事業参入など、ビッグニュースが続き、最近一段と注目を集めるeスポーツ。2月に発足した日本eスポーツ連合(以下、JeSU)会長に就任した岡村秀樹氏は、長きにわたり日本のゲーム業界をけん引してきたキーマンとしても知られる。JeSU設立にあたり、その意義や狙い、さらに日本のeスポーツ及びゲーム業界にもたらす波及効果などについて広く語ってもらった。

北米、中国、韓国に加え中近東でも世界中で注目されるeスポーツ

――今回、日本eスポーツ協会、esports促進機構、日本eスポーツ連盟というeスポーツ関連3団体が合併しつつ、コンピュータエンターテインメント協会(CESA)と日本オンラインゲーム協会(JOGA)が強力にバックアップする形でJeSUが設立しました。まずはその目的から、改めてお聞かせください。
岡村 簡単に言えば、いわゆるIPホルダーと競技者団体が一緒になって、eスポーツの本格的なムーブメントを日本で立ち上げていくための仕組みがJeSUです。コンピュータエンターテインメント協会と日本オンラインゲーム協会で日本のIPホルダー側の組織はほぼ網羅できているわけで、選手も含めたeスポーツに関わるステークホルダーが一緒になることで、ゲーム産業全体の発展や社会的なステイタスを高めることに寄与すると同時に、eスポーツ産業とカテゴライズできるだけのビジネス環境に漸次整えていこうということ。

 世界的には、IPホルダーとeスポーツの競技者・興行団体はそれぞれ別々に運営されているのが通例です。それによって各者の自由度が担保されるなどメリットもありますが、さまざまな運営上のトラブルもあるといいます。そうした先行事例を勉強しつつ、後進ならではというのも変ですが、関係する団体間が意思疎通しながら齟齬を最小化できる仕組みなど、改善点をまとめた結果が現時点での体制ということになります。

22年のアジア競技大会では、eスポーツが正式のメダル種目に

  • 一般社団法人 日本eスポーツ連合の岡村秀樹会長 (撮影:逢坂聡)

    一般社団法人 日本eスポーツ連合の岡村秀樹会長 (撮影:逢坂聡)

――今夏ジャカルタで開催されるアジア競技大会では、参考種目としてeスポーツがデモンストレーションされる予定となっており、さらに22年大会では正式メダル種目になると聞いています。
岡村 世界中でeスポーツは注目されており、明らかに大きなムーブメントになってきています。ビジネスとしては北米、中国、韓国が先行して市場を形成していますが、中近東などその他のエリアでも動きが目立ってきた。日本はそうした世界的な潮流からいえば、草の根でやってはいたものの、残念ながらeスポーツの存在感はさほど大きくはありませんでした。

 これには、いくつかの理由が複合していると考えます。日本のゲーム市場は大きく、しかも良質なまま数十年が経過してきたので、eスポーツをあえて前面に出して取り組む必要性がなかったのかもしれません。また、法律的な規制もありますし、「ゲーム脳」といった言説に象徴されるような、スケープゴートにされやすい社会的な立ち位置という問題もあります。

 ですが、ゲーム業界としては、eスポーツというカテゴリーを1つのビジネスチャンスとして常に気にかけていたことも事実。透明性の高い、完全に合法の枠内で展開できる方法論を模索してもきました。統一団体の発足というのは、そこへの1つの解でもあります。どうせなら、すべてのステークホルダーが意見を出し合って最大公約数的な意見を集約できるような組織体がふさわしい。既存の団体ではカバーできない領域も、統合することで知恵を集めて補填していけるはずだと考えています。

プロライセンス制度導入の狙い

――JeSUが認定するプロライセンス制度については、発表当初は賛否が分かれました。景品表示法など規制をクリアするために参加選手をプロ認定し、報酬としての高額賞金を設定できるようにした、という理解でよろしいのでしょうか。
岡村 決してそれがすべてではありません。先ほどの関連で言えば、例えばアジア大会に日本代表eスポーツ選手団を送りたいと思ったら、日本オリンピック委員会に加盟できる統一団体である必要性と同時に、極めて公平性の高い選考会がきちんと行えるかどうか、またその手前には強化選手の精査と登録なども必要になってきます。誰でもいいというわけではありません。

 恣意性が極めて低いルールで開催される認定大会で実績を上げている人たちに対して、ライセンスを付与して登録してもらい、国際大会には選考会を開いてタイトルごとに代表を送り出す。むしろそのスクリーニングのための制度という思いが強い。決してグレーではない、透明性と合法性にこだわった仕組みです。

eスポーツの普及・発展には、親世代の理解を得ることも重要

――会長は00年代のはじめ頃、SEGA OF AMERICAやSEGA EUROPEの取締役なども務めておられたと聞きました。当時から、eスポーツの萌芽のような動きは感じておられたのでしょうか。
岡村 いえ、まったく(苦笑)。ただ海外では、当時からPCベースのゲームの存在感は大きかったと思います。そういう意味で言うなら、スマホゲームで特に顕著なのですが、各国のお国柄や歴史、文化などによって、遊ばれる人気タイトルも、遊び方そのものも大きく異なる。当然日本で人気のタイトルと、国際大会が開かれる人気eスポーツタイトルにも違いがあります。

 そもそも、これまで日本のゲームタイトルが積極的なeスポーツ化を意識して作られてきたかといえば、正直そんなことはあまりなかったはずです。このまま日本でもeスポーツが注目される環境が整っていけば、そこに向けて新規のユニークなeスポーツタイトルが一気に揃ってくる可能性も感じています。平たく言えば、ビジネスになるなら開発リソースが集中していくのは自然ということでもあります。

 元々、日本のソフト開発能力はポテンシャルが非常に高いわけですから、日本ならではのスポーツとして受け入れやすい新たなゲームもどんどん生まれるはず。例えば、ワールドワイドで数千万台規模のシェアを持つコンソールなどに、それらのタイトルが乗っていけば、産業として考えた時にも大きな波及効果が期待できると確信しています。ただ、JeSUとしては、まずは環境整備に注力していこうと考えています。
――環境ということでいえば、先ほども話題に出たように、ゲーム自体がどうしてもネガティブな印象を持たれがち、という課題についてはどのように取り組まれるのでしょうか。
岡村 ゲームに夢中になって、子どもが勉強しなくなるとか、それは親御さんならば心配して当然のことだと思います。ですから、学業や健康的な生活とバランス良く楽しむことが大切ですよ、という啓蒙と普及を両立させるためのキャンペーンは引き続き行っていきます。

 義務教育が終わっていないお子様にはライセンスは発行しません。基本的に高額賞金などの対象外となるジュニア向けライセンスは用意しましたが、これも現段階では将棋などとeスポーツとの社会通念上の閾値の違いによるもの。熱中してもいいけれど、義務教育の間は、あくまで部活レベルが望ましいと考えています。

 認知と社会的な正統性を時間をかけて高めていくことで、やがて野球でいうリトルリーグのようなものが自然発生的に生まれてくれれば、と願っています。いずれにしても、あるムーブメントが立ち上がる際には、光ばかりでなく影の部分も出てくる。影をいかに最小化しながらコントロールしていくかが大事なのだと思います。

eスポーツは、ライブエンタテインメントとの親和性が非常に高い

――吉本興業など芸能事務所がさまざまなアプローチで参入してきたり、Jリーグもeスポーツ大会を開催するなど、ゲーム界の外へと動きが広がっています。
【岡村】 ぜひ、私たちの想像を超える新しいものが生まれてきてほしいと思います。eスポーツにまつわるビジネスは、環境さえ整えば工夫次第でたくさん生まれてくるはず。JeSUはeスポーツを独占することも、営利も最初から目的としていない組織です。選手も含めた業界全体の認知拡大と発展があくまで主目的。ですから、何か協力することで互いのメリットに広がりが出ることがあれば、ご一緒したいと思いますし、お声がけいただければ相談に乗れることもあるかと思います。

 特に、ライブエンタテインメントとの親和性は非常に高いと思っています。大会をその場でイベントとして観る、配信されたものを楽しむ、さらにメディア化して広告収入を得るという方向性もあります。また、人気の実況者といった、新しい職業も副次的に生まれてきている。JeSU自体としては、利権化しないよう距離を保ったままの2次的なサポートとなるかもしれませんが、eスポーツの健全な発展のためであれば、可能な限り協力していきたいと考えています。

文:及川望 / 写真:逢坂聡

(『コンフィデンス』 18年4月9日号掲載)
■Profile/おかむら ひでき
1978年に法政大学を卒業後、商社などのキャリアを経て、87年にセガ・エンタープライゼス(現 セガゲームス)に入社。97年に取締役就任。08年には、グループ会社のトムス・エンタテインメントに転籍し、代表取締役社長に。その後、セガ(現 セガゲームス)の代表取締役社長COOを経て、15年4月にセガホールディングス代表取締役社長COO に就任した。2月1日に発足した日本eスポーツ連合会長以外にも、コンピュータエンターテインメント協会会長(5月16日付で特別顧問に就任予定)などの要職を兼任している。

提供元: コンフィデンス

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