2017年映画シーンから学ぶヒット創出のヒント “想定外”の成功と失敗をひも解く
『美女と野獣』王道中の王道ヒット
事前事後とも高い期待・話題度
事前の期待度の高さ、公開後の満足度の高さを示すロングランヒットである。公開時の認知度(CATS調査※1)は70%を超え、高い期待のなかで公開され、その後、話題度が高まっていった。公開から1ヶ月後に実施した鑑賞者向けの調査結果(作品別ポストサーベイレポート※2)では、同時期公開の主要作品のなかでもっとも高い満足度であるだけでなく、「宣伝予告からの期待より良かった」と答える人の割合が55%と他作品(同時期公開の40作品平均は35%)と比べても非常に高く、「うれしい想定外」だった様子がうかがえる。
ディズニーブランド力の下支え
『美女と野獣』は、ディズニーによるアニメ版も不朽の名作として位置づけられ、ミュージカルとしてもヒット。“ディズニーブランド”の代表作と言える。ディズニー映画のブランド力は近年上昇傾向にあるが、変曲点とも言うべき大きな上昇が起こったのは、『アナと雪の女王』(興収250億円)が公開された2014年3月。これ以降、ディズニーによるヒット作が生まれるたびに、ディズニー映画というジャンルに対する鑑賞意向は上昇傾向を見せている。近年のディズニーは、ディズニーピクチャーズ、ディズニーアニメーションに加えて、ルーカスフィルム、マーベル、そしてピクサーという5つの強いコンテンツブランドを支柱として成功を収めている。本作はその下支えのなかでヒットとなり、またさらにディズニー映画のブランド力を高めたと言ってよい。
『IT/イット』ヒットの裏に市場構造の変化
もう1つ、本作のヒットの裏には、ともすれば「人を選ぶ」ややマイナージャンルと位置付けられるホラー映画市場が、この数年一貫して大きくなっていることも関係している。「よく観る映画ジャンル」として挙がる「ホラー」の割合は、ここ数年上昇傾向にある。ほかに明確な上昇傾向にあるのが「恋愛もの」だ。
(文/GEM Standard編集部)
※1「CATS (Cinema Analytical Tracking Survey)」とは、GEM Partnersが実施する毎週の市場調査をもとに、劇場公開映画の公開日までの浸透度や興行収入シミュレーションの動きを週次レポートするトラッキング型のサービス。「映画・映像業界標準指標」として2018年1月末時点で業界の約30社が導入している
※2「作品別ポストサーベイレポート」とは、劇場公開された作品の鑑賞者の属性、満足度、続編意向、鑑賞行動、動機とともに、「観たいと思っていたが観なかった人」の属性やその理由もわかる調査結果レポート