2017年映画シーンから学ぶヒット創出のヒント “想定外”の成功と失敗をひも解く
小マーケット路線を成功させたソニー・ピクチャーズ
冒頭、派手なカーチェイスをスバル車で切り抜けたシーンから、それで調子づいた主人公が、@Podで音楽を聴きながらダイナーに入っていくあたりまで、まったく申し分がない。しかも、彼が恋をする相手はダイナーに勤めるミニスカートのセクシーな女性ときた。この描写、シチュエーションだけで、男女問わず興奮しないわけにはいかないだろう。当然ながら、冒頭の疾走感がバネになり、以降映画は全編にわたってダイナミックな映像と音楽の洪水をまき散らしていったから、興奮せざるをえなかったのである。
本作の大きな魅力とは、カーチェイスをはじめとする描写それ自体の活きの良さ、迫力感だけではない。観る者の心の奥深く突き刺さってくる諸要素を存分に兼ね備えている点にこそ、本作の得難い魅力が溢れ返っている。その1つが若い男女を描く恋愛模様だ。そこには、2人の出会いから、サスペンスとのかかわり方、終局の展開まで、往年のアメリカンニューシネマのように、若者たちの憧れを喚起する清冽さと毒気があり、懐かしいといえば実に懐かしいテイストが満載なのだ。これが、若い人に届いたのだろう。
内容への言及が長くなってしまったが、予想を覆す興行の局面に至る道とは、作品そのものが切り開いていく場合も多いのだから致し方ない。それとともに、そのような魅力をもつ作品を、いわゆる全国型の大きな公開規模にしなかったのがミソだ。若い人に届くと言ったところで、大多数ということはない。あくまで、観客を選ぶ作品なのだ。車と音楽、そして強奪の犯罪劇が若い2人の行動とテンポ良く絡み合っていくカッコ良さは、響く人には響く。ただ、そのカッコ良さは、観る人の心を心地よく突き刺しつつも、それはどこかで密やかに感じるものとの認識がある。映画を流れるその重低音が、観客を選び、限定的ながら濃密な興行の形を見定めた気がする。
この手法は、映画が広く観られる機会が減るマイナスも出てくるが、全国展開を画策して失敗すれば、元も子もなくなる。続く洋画低迷の折、大作の大ヒットなら昨年は10本以上が生まれる健闘ぶりを見せたものの、邦画と違って5〜10億円クラスの作品はそれほど多くない。中級クラスの娯楽作の厳しい現状を見れば、限定マーケットは1つの手段と考えられる。この劇場戦略は、洋画の芽をつぶさないことも視野に入っている。失敗続きで洋画の選別が行われ、小マーケット展開どころか、公開さえおぼつかなくなることだって、これから起こり得るだろう。