ショッピングモールが“推し活層”の支援、なぜ? 開業5年目「有明ガーデン」の現在地
“推し”を身近に感じながら憩える新感覚フードコート 店舗にもこだわり
「ARIAKE FOOD STAGE」には、フードコート初出店の「ドミノ・ピザ」に、東京初出店舗の「ペコちゃんmilkyドーナツ」、すしドッグ・いなりの新業態「OEDO ARIAKE STYLE」など、他のフードコートではなかなかお目にかかれない7つのテナントが揃う。「ドミノ・ピザ」は、「ピザBENTO」と「ドミノシェイク」を専門販売する店舗で、デリバリーをしないイートインとテイクアウトのみの新業態だ。最先端のグルメを味わえるだけで胸が高鳴るが、隣接する最大約8000名収容の劇場型ホール「東京ガーデンシアター」でライブが行われる日には、このフードコートがさらに胸躍る空間へと昇華する。
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ドミノ・ピザの新業態。デリバリーをしないイートインとテイクアウトのみ。
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ピザとポテトフライが“ちょうどいい”コンパクトサイズのお弁当になった「ピザBENTO」、濃厚な味が人気の「ドミノシェイク」
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老舗海鮮丼専門店「大江戸」のシーフード・ファーストフード一号店「OEDO ARIAKE STYLE」
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お寿司をカジュアルに楽しめる「OEDO ARIAKE STYLE」の「すしドッグ」
今年1月15日にこのフードコートが誕生する以前にも、有明ガーデンでは「東京ガーデンシアター」と連携し、“推し活”をする人たちに向けた企画を実施してきた。ゴールデンボンバーやももいろクローバーZ・百田夏菜子とのコラボでは、館内BGMジャックに家電専門店内大型テレビでのライブ映像放映だけでなく、百田夏菜子のイメージカラーの赤にちなんだ商品を物販店で販売、5階フードコートでゴールデンボンバーライブ後のファン対象公式打ち上げ会を開催するなど、ショッピングモールならではの“推し活”支援コンテンツでファンを喜ばせてきた。
そこからさらに大きな一歩を踏みだし、大改装工事を施してまで“推し活”応援のための新たなフードコートを誕生させたのは、このエリアならではの問題に直面したことがきっかけだったという。
フードコートで“推し活層”が居座り 子連れファミリーが飲食できない事態に
5階フードコート
飲食にホテル、温浴施設、エンタメが楽しめるにニュースポットはすぐに話題となり、近隣のファミリー層を中心に賑わいを見せた。ところが、思いもよらぬ誤算があった。
有明エリアは、「東京ガーデンシアター」のほか、日本最大のコンベンションセンター「東京ビッグサイト」や「有明アリーナ」など、イベントホールが多数点在するにもかかわらず、飲食店が少ない。有明ガーデン5階に設けられた約900席のフードコートは、コロナ禍が明けて以降、興行目的でこの地を訪れた人たちによる混雑が常態化。大挙して詰めかける“推し活層”に、子ども連れのファミリーが座席を確保できない事態に陥ってしまったという。有明ガーデンを運営する住友不動産商業マネジメントの森香央梨さんは言う。
住友不動産商業マネジメント 有明モール運営部 運営グループ マネージャー 森香央梨さん
有明ガーデンにとって、子育て世代のファミリー層は重要なコア顧客だ。その一方で、「東京ガーデンシアター」を有する複合施設である有明ガーデンにおいて、シアター来場者もまた大切なターゲット顧客だ。両方に満足してもらうためにはどうしたらいいのか。考え抜いた末、同施設では2つの層の住み分けを図ることを決めた。5階のフードコートはこれまで通り、食事をしたい子連れのファミリー層向けに。ライブ客向けには、2階にフードコートを新たに設置するという勇断だった。
「地元住民と推し活の皆さんの共存が願い。街の賑わいを創出したい」
「推し活をされているお客様は、ライブの日は“晴れの日”という気持ちで会場に来られます。ですから、フードコートでも、いつもよりちょっと美味しいものや洒落たものを味わっていただけるよう、“気持ちを上げられるフードコート”にすることを大きなテーマにしました」
名称を「アリアケフードコート」ではなく、あえて「アリアケフードステージ」にしたのも、空間自体を楽しみ、心満たされる要素のひとつとしたいという思いの表れ。テナントも、森さん自らフードコートにはあまり出店していない店舗に声をかけ、メニューや価格等一緒に検討したという。
また、フードコート内だけでなく、モール内の物販店舗においてもコラボ商品販売はじめ、買い物したレシートと交換できるオリジナルのノベルティグッズプレゼントなどを展開。制作においては、こんなこだわりで取り組んでいる。
「全社員に推し活のアンケートを実施し、詳しい人を呼んでリサーチしています。例えばある2.5次元ミュージカルのノベルティグッズを作る際、複数の公演にご来場されるお客様が多い傾向を踏まえ、グッズの種類を増やしました。推し活をしている社員からも、『種類が多いと、公演を重ねて足を運ぶ楽しみが増える』という意見があり、実際、大変ご好評をいただきました。ジャンルやファン層によって、公演の楽しみ方も様々であることがわかりましたので、今はそれぞれの目線に立って企画を進めています」
ワンハンドで手軽に食べられるメニューが揃うのも、ライブの前後にさっと済ませたいという要望を叶えるため。さらに、一部店舗を除いて23時まで営業し、ライブ終了後も食事やドリンクが楽しめるよう考えられている。
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「バイロンベイ ミートパイ ー有明店ー」
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ワンハンドで食べられるミートパイ
「推し活をされている方々は、推しがライブする空間をネガティブにはしたくないと皆さん考えられている。そういう方々の心に支えられて、今の形が成立していると感じています」
さらに「今後は隣接するホテルや温浴施設も巻き込んだ企画も実現したいですし、ファン同士のコミュニケーションが取れるような取り組みもしてみたい」とも。
ちなみに、5階のフードコートもキッズ専門のスペースを拡張し、土日はファミリーサポートスタッフを配置するなど子連れファミリー層がさらに使いやすいよう取り組んでいるという。しかし、中には「2階のメニューを食べたい」というファミリー層もいるだろう。
「はい、そういうお声にもお応えできるよう、興行日や混雑予想等の情報配信は積極的に行っています。ライブに来た人には有明ガーデンに来て、楽しい気持ちになっていただきたいですし、住んでいる方々にも街にエンタメがあることをポジティブにとらえていただきたい。地元住民と推し活の皆さんの共存が願いです。そうなれるよう今後もいろいろな施策を追加しながら、街の賑わいを創出できたらと考えています」
大規模マンションの建設が進み、パワーカップルや30〜40代ファミリー層を中心に人口増加が著しい有明エリア。今後もさらなる人口増が予想されるが、2026年春に「東京ドリームパーク」の開業を控え、エンターテイメントに特化した街としての進化も続きそうだ。有明ガーデンの取り組みが、衣食住のすぐ隣にエンタメ・カルチャーがある、そんな生活を送ることができる新たな街づくりの先鞭をつけるかもしれない。
(取材・文/河上いつ子)