ORICON NEWS
「昭和のおっさん」主人公のドラマが話題、あの頃への懐古&羨望と同時に起こる若年層からの“異物感”と“可愛さ”
“若年層とのズレ”をコミカルに描くと同時に、現代のおっさんたちにコンプラを啓蒙
一方で『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!(以下、おっパン)』(原作:練馬ジム/LINEマンガ)は、原田泰造が演じる主人公が令和の日本において自身の価値観をアップデートさせていくというストーリー。主人公がある出会いをきっかけに、若者を理解できず、昭和の凝り固まった考え方を持つ自身を変えていこうと奮闘していくドラマだ。
「それぞれ独立した描き方、主題のあるドラマですが、どちらにも“高齢層への啓蒙・啓発”というテーマが潜んでいる」と語るのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「誤解を恐れずに言えば、エンタメの多様化により、テレビドラマを観る層は高齢層がメインになっているのが現状です。これは“あの頃”への懐古と羨望を促すのはもちろん、“世間(若年層)とのズレ”をコミカルに描くと同時に、おっさんにコンプラを啓蒙することにもなっているように感じます」(衣輪氏)
衣輪氏によれば、この流れは「第二次おっさんアップデートブーム」だという。第一次はバブル〜バブル崩壊時代。「トレンディドラマ」が生まれた時代で、昔の価値観はださい、古いとされ、バブル世代、団塊Jr.世代による若者至上主義が台頭。例えば、アダルトチームとヤングチームに分かれた芸能人がそれぞれ知らないだろう時代性のある問題を交互に回答し、常識の違いを楽しむ『クイズ!年の差なんて』が放送され、最高視聴率28.4%(ビデオリサーチ社調べ)を記録する大人気番組に。ほか、とんねるずやダウンタウンがスターとなり、縦社会が当然と思われた芸能界において、先輩や大御所など地位のある芸能人を恐れず斬りまくり、これが拍手喝采を浴びた。
そして現代。この「第一次おっさんアップデートブーム」を楽しんだバブル世代、団塊Jr.世代にあたる先述の2本のドラマの主人公が、逆に令和との世代間ギャップを浮かび上がらせるコマとして揶揄されている。なんとも皮肉な話だ。
嫌われる「昭和のおっさん」、逆に“可愛い”と若年層からも愛される「昭和のおっさん」その違いは?
「これはいい意味でも悪い意味でも“おっさん”はいまだ差別の対象ということです。女性の権利が守られ始めた一方で、“おっさん”はまだやはり、キモい、ウザいと嫌悪されている。2018年頃には『さよなら、おっさん』というフレーズがSNSを中心にプチ炎上しました。ですがいい意味でと言ったのは、若い女性を中心に、“おっさん”を“可愛い”とする声もあるからです。これには“おっさん”には2タイプの意味があることを示唆します」(衣輪氏)
まず先述のドラマ『ふてほど』『おっパン』に目を向けてみよう。そこで描かれているおっさん像は、保守的で変化を拒否・または恐れる男性だ。若い世代や女性から違和感を向けられるのはこのタイプの“おっさん”。決して“おっさん”年齢にあるすべての男性を指しているわけではない。
飲み屋で武勇伝や成功哲学を語り、今の若者をバカにし、時代遅れのギャグを発し、体は確実におっさん化しているにもかかわらず、今でも若いつもり。会社では臨機応変な対応ができず、事なかれ主義であり、リスクを極限に避け、挑戦しようとする若者や、新たなテクノロジーに関して否定的、最悪の場合はその足を引っ張ろうとするタイプ…軽く挙げるとこんなところだろうか。『ふてほど』『おっパン』の主人公にもほんの一部当てはまる。
『おっパン』の原作者である練馬ジム氏は、過去のORICON NEWSのインタビューで「社会全体を優先させる時代から、個人を尊重し守るべきといった時代になってきているのに、主人公の世代がそれに気づくのは、何かきっかけがないと難しいと感じます。今まで『それでいい』と思っていた常識が、いつの間にか『非常識』なことになっていたなんて、自分ではなかなか気づけないものだと思います」と、おっさんたちが価値観をアップデートできなかった理由について語っている。
逆に若い女子から“可愛い”とされるのはどんなタイプか。「先述の2ドラマの主人公であれば、まず“信念がある”上において“一生懸命”であり“頑張っている”こと。そして笑顔で明るい点が挙げられるでしょう。ほかZ世代と話をしていてよく聞くのは“流行についていこうとしている姿が可愛い”ということ。つまり高圧的ではなく、若い女子から見て“小動物”的な愛玩面を感じた時に“可愛い”と表現するようです」(同氏)
「昭和のおっさん」は社会の枠組みから外れた異物!? 近い存在でないからこそ若い女性にとっては“可愛い”のか?
ほか“可愛いおじさん”ブームの背景で考えられるものは「マツケンサンバII」の流行。そしてバイプレーヤーブーム、また『おっさんずラブ』の社会現象化した大ヒットも挙げられるだろう。また一昨年『M-1グランプリ』で優勝した錦鯉もこのブームに一役買っていそうだ。「2022年1月に放送された『めざましテレビ』において、嬉し泣きする錦鯉さんに若い女性から“可愛い”の声が。お笑い一筋、一生懸命生きてきて芽が出ず、そして自分が“おっさん”の自覚があり、売れなかった時期が長かったせいか腰が低い。その姿が“かわい”く見えたようです」(衣輪氏)
そして2024年1月。“おっさん”ドラマが2本も放送されるに至った。「この現象を社会学的に見ますと、“おじさん”差別がいい方向に作用した結果といえます。吉本隆明氏の『共同幻想論』によれば、世の中の常識、当たり前とされていることはすべて皆がそうだと思っている幻想で“共同幻想”とする考え方です。乱暴に説明すれば価値なんて地域、国、時代によって変わるものですから“常識”なんて“幻想”に過ぎないということですね。この共同幻想論ではもう一つ重要な点があり、それは“対幻想”という概念とセットだということです」
「“対幻想”は難しい概念なので大雑把に説明しますが、要は社会ニアイコール“共同幻想”の外にある“異物”のようなものです。過去には上野千鶴子さんがこの“対幻想”は女性だとして、女性はこれまでの社会においてないように扱われてきたとフェミニズム論を展開されていました。それが時代は移り変わり、強引に言えば、今やその“異物”、“対幻想”は“おっさん”になっているのかもしれません。令和コンプラの今の社会“共同幻想”において、“おっさん”はその外にいるように“見える”。そうした“異物”に“見える”からこそ、若い女性も自身の身近、周辺と切り離して“可愛い”と見えるのではないか、とも言えないでしょうか? おそらく距離が身近すぎるとネガティブな感情も抱くでしょうから」(衣輪氏)
“可愛い”概念があるからこそ、先述の2ドラマでも啓蒙、啓発を嫌味なく描ける。また対幻想である“異物”だからこそ、世代間ギャップを“かわい”く見せられる。「昭和のおじさん」はそうした表現をするための新たな“素材”となっているのかもしれない。令和コンプラの時代に新たに生まれた“素材”「昭和のおっさん」。これが差別されるだけでなく社会に受け入れられるには、「昭和のおっさん」たちがいかに嫌われることなく立ち振る舞えるかにありそうだ。
(文/西島亨)
『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!(外部サイト)』/練馬ジム
『LINEマンガ』にて配信中
沖田誠48歳。世間の常識・偏見で凝り固まった彼には“最近の若者”が理解できない。 上司にお茶を注がない女性、メンズブラ愛用の部下、そして引きこもりの息子…。 そんなある日、ゲイの青年・大地に出会う。 初めてのセクシュアリティに思わず拒絶してしまうが、次第に彼の魅力に気付き、友だちになることに。 そして知る、「その人の趣味や指向を他人が干渉するのはナンセンスだ」と。 そう正に、おっさんのパンツがなんだっていいように!“人として”の成長を誓うおっさんは、無事に“自分の中の常識”をアップデートできるのか!?
■漫画はコチラから『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(外部サイト)
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■漫画はコチラから『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(外部サイト)