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『ゴジラ-1.0』山崎貴監督×『沈黙の艦隊』吉野耕平監督、エンタメ映画の戦い方
山崎「ゴジラ」どうですか?というお話しは以前にもいただいたことがあったのですが、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(2007年)の冒頭に1954年に公開された『ゴジラ』のゴジラをフルCGで登場させたら、ほんのちょっとのシークエンスだったにもかかわらず、かなりの時間と予算を費やしてしまったんです。その時、僕が作りたいゴジラ映画はまだまだ無理だと思いました。
でも、いつかやりたいです、という意思表示はして、そうこうしているうちに『シン・ゴジラ』(16年)が現れてしまった。シリーズ最高傑作の一つであることは間違いない作品です。この後、ゴジラ映画を撮る人は大変だろうな、と他人ごとのように思っていたら、オファーをいただきました(笑)。それに、映像技術の進化は凄まじく、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』の頃には無理だと思っていたことも、そろそろできるかもしれない、と思っていたところだったので、プレッシャーはありましたが、やるなら今がタイミングだと思いました。
吉野ゴジラの新作を山崎監督が作っている、しかも『沈黙の艦隊』の少し後に公開されるというのを知った時に、かなり衝撃を受けました。『沈黙の艦隊』の制作真っただ中のことでしたが、それ、先に言ってよ、とぼやきたくなるほどでした。完成した映画を拝見して、ますます思いましたね、先に見せてよ、って(笑)。こちらとしては、参考になる映像演出の宝庫でした。特に水、海、海中の表現ですね。より自然で現実感のある映像に仕上げるための経験値の深さに感嘆しました。
例えば、海上で衝突を避けるために船の針路を変える場面で、実写の映像をそのまま使ったらいま一つスピード感や緊迫感が出ないようなところを、フィクションとしていい感じに演出されていたんです。すごくかっこよく見えるアングルとか、すごく映える光の当て方とか、僕たちが模索していたことへの答えだらけで、これ、先に見たかった、という場面がたくさんありました。
それに、作り手として「ゴジラの映画、作っていいよ」と言われたら、みんなすごく喜ぶけれど、すぐに途方に暮れると思うんです。いろいろやり尽くされていて、新たにできることは少ないと思っていたところもあったのですが、いやいやどうして、その手があったのか、と思いました。
山崎まず、ゴジラのファンである僕自身が、後々がっかりするような作品は絶対に作りたくなかった。『シン・ゴジラ』とか、ハリウッド版ゴジラとか、すでにあるゴジラ映画の存在があまりにも大きすぎて、そのどれを目指しても勝ち目はない。こういう時は、自分が有利に戦える土俵に引き込んで、得意な方法で戦うというのが大事になってくるんですね。戦後という時代は、これまでにもやったことがある時代だったので、ここだったら戦えると思うんですけど、と提案したら、東宝の人たちは前例がないので一瞬ざわつきましたけど、面白そうですね、と受け入れてくれました。
吉野過去にさかのぼってもいいんだ、ってちょっと驚いたんですよね(笑)。戦後、焼け野原になった東京が少しずつ復興してきたところにゴジラが現れるという光景も、当時の兵器でゴジラと戦うというのも、すごく新鮮でした。まだまだ「ゴジラ」でいろんなことを描けるんだ、とわくわくしました。山崎監督にしかできない戦い方でゴジラを描き切っていて、圧倒されっぱなしでした。
山崎1作目のように人間たちの物語とゴジラがちゃんと絡んだものにしようとすごく意識しました。ゴジラってとにかく巨大なので、人間はただの傍観者になりがちなんですよね。いかにして生身の人間とゴジラを戦わせるか。その動機づけも観客の共感を呼ぶものでなくてはならない。なので、主人公は要所要所でひどい目に遭います。
主人公をはじめ、スーパーパワーを持っていない人たちが何とか知恵を使ってゴジラと対峙する話にしたいと思いましたので、戦後を舞台にゴジラをやらせてもらえてありがたかったです。初代のゴジラって、戦争や核兵器のメタファーだと思うんです。その当時の人たちが抱えてた不安とか、過去の傷とかが集まったものがゴジラだと思っていたので、その視点も外せないと思いました。
吉野ひ弱な人間たちが知恵を絞って一矢報いる。人間ならではの知恵、作戦のアイデアがとてもわくわくするものでした。改めて「ゴジラ」の楽しさってこういうことだったんだな、と思いました。動くゴジラを存分に見れたのもすごく心地よかったです。
吉野『沈黙の艦隊』に取り掛かるにあたって、最初に描いたイメージビジュアルが、かわぐちかいじ先生の原作漫画と同じアングルの重々しい潜水艦に、塵のようなマリンスノーが降り積もる絵だったんです。VFXでマリンスノーを加えた理由としては、光の届かない深海で潜航する潜水艦の物量感とスピード感を表現するためだったのですが、同時に、生物の死骸であるマリンスノーで“死の灰”のような意図を込めました。核兵器の恐怖を訴えるメッセージはこの作品に欠かせないものです。
ただ、この企画が動き始めた時はまさか、ロシアのウクライナ侵攻などが起きるなんて思ってもみなかったです。『沈黙の艦隊』を作りながら怖いな、と感じていたのは、ズルズルズルッとなし崩し的に戦争に向かっていく感じなんです。みんながみんな、それぞれの立場でそれぞれ信念を持って仕事をしているだけなんだけど、気づいたらとんでもないことになっていた、みたいなことが起こりうる。それは、遠いところで起きるのではなくて、わりと自分たちの近く、壁2、3枚隔てた向こうくらいであり得る話なんだ、と。今の自分たちに関係ないとは決して言えないこととして、考えるきっかけになればと思います。
「ゴジラ」シリーズもそうですが、「戦争って嫌だよね」ということをボディーブローのように感じてもらうというのは、エンタメがやるべきことの一つだと僕は思ってるんです。たくさんの人に見てもらうことを目的に作っている映画ですから、たくさんの人たちに純粋に面白いと思ってもらうのが一番大事なことですけれど、その中で当たり前にある日常のありがたさとか、その日常がむしばまれていくのが戦争なんだということをうっすらでも感じてもらうということは、エンタメ映画の中でやらなきゃいけないことだと思っています。『ゴジラ-1.0』は戦後を舞台にしていますので、なおさら意識したところでもあります。
――貴重なお話し、ありがとうございました。
『ゴジラ』2023年11月3日公開
山田裕貴 青木崇高
吉岡秀隆 安藤サクラ 佐々木蔵之介
監督・脚本・VFX:山崎貴
(C)2023 TOHO CO., LTD.
公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp/
『沈黙の艦隊』2023年9月29日公開
玉木宏 上戸彩
ユースケ・サンタマリア 中村倫也
中村蒼 松岡広大 前原滉
水川あさみ
岡本多緒 手塚とおる 酒向芳 笹野高史
アレクス・ポーノヴィッチ リック・アムスバリー
橋爪功 夏川結衣
江口洋介
原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)
監督:吉野耕平
脚本:高井光(※「高」表記は はしごだか になります)
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック) /楽曲提供:B’z
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