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『ゴジラ-1.0』山崎貴監督が『沈黙の艦隊』吉野耕平監督を推す理由
山崎きょう(取材日:9月23日)が初対面です。吉野監督にやっと会える!と思って、楽しみにしていました。
吉野すごく緊張しています。
山崎じつは『ハケンアニメ!』は周囲の評判を聞いて観に行った口なのですが、「刺され、誰かの胸に――」というコピーどおり、「刺さりました!」と感服しました。もしかしたら、映画などを作る仕事をしているからより刺さったのかもしれない。吉岡里帆さんが演じた主人公と同じような苦労をしてきたし、同じような喜びも感じてきたから。CGの使い方も斬新ですごくよかったです。
吉野ありがとうございます。山崎監督がSNSで『ハケンアニメ!』をたくさんほめてくださって、本当にびっくりしましたし、なんてお礼を言ったらいいのか、お礼を伝えに伺ってもいいものなのかもわからなくて、どうしようと思っていたら、まさかの対談で。
山崎僕は、吉野監督の『水曜日が消えた』(2020年)も映画館で観ていたのですが、CGアーティストとしての実績もあって、CGをどう使えば一番いいのか、ということをわかっていて、なおかつ人間ドラマの演出にも長けている吉野監督は貴重な存在だと思っています。そうしたら、次は『沈黙の艦隊』をやるという話が聞こえてきて、すごくうれしかったんですよね。
――山崎監督がうれしかったのですか?
山崎そう(笑)。日本の映画界は王道のエンタメ作品を監督できる若い人材をもっと育てていかないとダメだと思っているんです。このタイミングで吉野監督が大規模な作品をやれる機会に恵まれたというのは本当に喜ばしいことです。ハリウッドでは小規模な作品を2〜3本作っていた新鋭の監督がいきなりビッグバジェットのプロジェクトに抜てきされることがよくあるんですけど、まさにハリウッド的な登用のされ方がかっこいいな、と思いました。日本の映画界でもこういうケースが増えていけばいいと思う。僕もうかうかしていられないけど、今は人材不足のほうが深刻なので。
吉野規模としても題材としても撮ったことがない作品で、原作漫画のファンも多く、核の脅威というデリケートな内容。責任は重いな、と思いましたが、山崎監督がおっしゃってくださったとおり、ここまで大規模な作品をやれる機会もそうそうないと思ったので、引き受けさせていただきました。規模の大きな作品に携わったことが、この先のキャリアにどんな影響を及ぼすのか、非常に険しい道のりが続くのではないかと、びくびくしております。
――山崎監督は『沈黙の艦隊』をご覧になっていかがでしたか?
山崎きっちりできてるな、というのが第一印象でした。現代の潜水艦の中はきっとこういう感じで、乗組員の動きもきっとこうなんだろうな、という説得力がありましたし、もし、潜航中の潜水艦同士が魚雷を撃ち合って戦ったら、本当に怖いなと思いました。
軍用潜水艦はライトを点けると敵に見つかるので、海中では目視が効かないから、ソナーによる音だけで判断しなければならず、潜水艦はその性質上何かあった場合には、助かる確率が非常に少ない死と隣り合わせの乗り物なので、生半可では務まりません。乗組員たちが冷静に行動すればするほどヒリヒリするものがあって、自分も一緒に潜水艦に乗っているような気がして、昔の映画『Uボート』のアナログな怖さとはまた違った、デジタルで制御された中のリアルな恐怖を感じましたし、そこがすごく面白かったです。
それと、過去の潜水艦映画では見たことがない映像がすごくたくさんあって、自衛隊の協力を100%もらってる映画ならではだなと思いました。最初の予告編が解禁され、潜水艦が海に沈んでいく映像が出た時に、VFX業界がざわついたんですよ。あれは一体何なんだって。ちょっと今までとレベルの違うことやっているぞって。その後、実写だということがわかって、神様の作ったシミュレーションには勝てないのかぁ、といった声が飛び交っていました。
吉野はい。協力してもらったからこそ、撮影できるものはできる限り撮ろうと思いました。すべてをCGに頼るには限界があるので、駄目と言われない限り艦体のあらゆる場所にカメラを設置しましたし、カメラマンの小宮山さんをはじめ撮影班が潜航中の潜水艦も撮り切ってくださいました。
山崎監督がおっしゃったシーンは艦体にGoProをつけて海に沈んでいくところを撮ったのですが、カメラを回収して映っているものを確認したら、鼻先から泡が噴出してくる、あんまり見たことがない映像が撮れていたんです。うゎー、すごい映像が撮れちゃったと、スタッフみんな大興奮でしたね。
山崎通常、自衛隊が撮影に協力しましたといっても、自衛隊の演習をちょっと離れたところから撮影する感じが多かったんですよね。今回、艦体にカメラつけて撮るなんて、本当に初めてなんじゃないかな。
――潜水艦は国家機密の塊と言われてるのに、すごいですね。
吉野もちろん潜水艦内部は機密事項で写真も撮ってはいけなかったのですが、見学させてもらった際に目で記憶して、そのリアルな空気やイメージをもとに美術の小澤さんにセットをデザインしていただきました。セットだけでなく、発射管室や機械室は広島・呉の「てつのくじら館」(正式名称は「海上自衛隊呉史料館」)に展示されている除籍になった潜水艦あきしおで撮影したりもしています。
山崎いろいろなところに『ローレライ』(2005年、樋口真嗣監督・特撮監督&佛田洋特撮監督)と『シン・ゴジラ』(16年、庵野秀明総監督、樋口真嗣監督・特技監督)、『SPACE BATTLESHIP ヤマト』(10年、山崎貴監督)の影響を感じて、特撮の子なんだな、と思ってうれしくなりました。『ヤマト』に関しては、アメリカの空母のブリッジからワンカットでトラックバック(カメラが被写体から遠ざかり、しだいに対象を小さく写していく移動撮影法)して空母を空から見下ろすシーンで勝手に親近感を覚えただけですが(笑)。
吉野それはもう、影響を受けているとしかいいようがないといいますか、ごはんを食べるように、映画を観て大きくなりましたという感じです。
小学生の時の宮崎駿さんとスティーヴン・スピルバーグ監督が原体験で、中学生の時に『ジュラシック・パーク』(1993年、スピルバーグ監督)が話題になって、自分もこんな映画作りたいな、でも日本では無理かな、なんて思っていた世代です。大人になって、実写とミニチュア特撮とCGをいろいろ混ぜ合わせて映画を作ることを学び、山崎監督の大ヒット作『ALWAYS 三丁目の夕日』(05年)を拝見し、『ALWAYS 続・三丁目の夕日』(07年)のオープニングのゴジラがCGだと知って、勇気をもらいました。作りたいシーンを考える時に、脳内で勝手にこれまで見てきた映画を参照しちゃっていると思うんです。そういう意味でやっぱり育ちが出てしまうんでしょうね(笑)。
――ほかに『沈黙の艦隊』で印象に残ったことはありますか?
山崎潜水艦の中に女性自衛官が乗艦していることが特別じゃない世界観がすごくよかったです。実際の自衛隊も、今はこういう感じなんだろうな、って思いました。そういうところもかなり取材されてますよね?
吉野そうですね。現場にもずっと自衛官の方に居ていただいて、意見をうかがいながら撮影していました。
山崎水川あさみさん(逃亡した<シーバット>を追う<たつなみ>の副長・速水貴子役)が良いですね。潜水艦の中に違和感なくいられるのはなかなかのことだと思います。今回、ユースケ・サンタマリアさん(<たつなみ>のソナーマン・南波栄一役)が、飄々としながらちょいちょい良いこと言うかなりおいしいキャラクターでしたけど、ユースケさんと水川さんの自衛官らしいやりとりの中で、時々、人間味が出るバランスがすごいよかった。
あと、ユースケさんの隣に座っていた女性のソナーマン(関谷奈津美)もよかったですね。ユースケさんがしゃべっている隣でいい芝居をしていました。ユースケさんの背後でちょいちょい映り込む彼女がリアリティを担保していたように思います。ツッコミどころがないほど自衛官らしく仕事しているので、逆に気づかなかったかもしれませんが。
――もう一回、劇場でチェックしたいと思います。
『沈黙の艦隊』2023年9月29日公開
玉木宏 上戸彩
ユースケ・サンタマリア 中村倫也
中村蒼 松岡広大 前原滉
水川あさみ
岡本多緒 手塚とおる 酒向芳 笹野高史
アレクス・ポーノヴィッチ リック・アムスバリー
橋爪功 夏川結衣
江口洋介
原作:かわぐちかいじ「沈黙の艦隊」(講談社「モーニング」)
監督:吉野耕平
脚本:高井光(※「高」表記は はしごだか になります)
音楽:池頼広
主題歌:Ado「DIGNITY」(ユニバーサル ミュージック) /楽曲提供:B’z
(C)かわぐちかいじ/講談社
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公式サイト:https://silent-service.jp/
『ゴジラ-1.0』2023年11月3日公開
山田裕貴 青木崇高
吉岡秀隆 安藤サクラ 佐々木蔵之介
監督・脚本・VFX:山崎貴
(C)2023 TOHO CO., LTD.
公式サイト:https://godzilla-movie2023.toho.co.jp/