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「こんなのコーヒーじゃない」“商品化不可能”とされた世界初の缶コーヒー、UCCが明かす開発秘話と半世紀の進化
発売当初は全く売れず… 世間に受け入れられなかった「缶コーヒー」ヒットの契機は“万博”
今から50年以上前のこと、駅のホームで瓶入りコーヒーを飲んでいた上島氏。しかし途中で発車ベルが鳴り、コーヒーを飲み残したまま列車に乗ることに(当時、瓶はその店で回収しなければならなかった)。その時、「飲み残すのはもったいない。いつでもどこでも飲めるコーヒーを作れないだろうか」と思ったのが缶コーヒー開発のきっかけとなった。
「当時、ジュースや炭酸飲料は缶入りがありましたが、コーヒーは瓶入りが一般的でした。コーヒーは缶に入れて長期保存する難しさがあったんです。またミルクとコーヒーの分離や、缶とコーヒーの成分が化学反応を起こすなど、問題は山積みでした。約1年間、全社を挙げて商品開発に挑みました。社内には『缶コーヒーは商品化不可能』という空気感が漂う中、会長が『やるんや』と強く号令をかけて実現に至ったそうです。『いつでもどこでもコーヒーを飲めるようにしたい。うちはコーヒー屋として一番にやらなあかん』という強い思いがあったのでしょう」(飲料マーケティング部部長・油谷仁敬さん/以下同)
「大阪万博の各ブースに『ミルクコーヒーを置かせてください』と営業活動を行ったところ、たくさんの方々に飲んでいただいて『おいしい』『こんなのあるんだ』と。それをきっかけに全国的に売れるようになり、日夜生産が追いつかないほどのヒットを呼びました」
このミルクコーヒーはかなり「甘い」印象があるが、決して子ども向けに作られたものではなく、当時喫茶店で飲まれていたコーヒーのスタンダードをそのまま再現したものだった。この味が代々語り継がれ、今や三世代にまたがって愛されるほどのロングセラー商品に。
「実は時代に合わせて少しずつ味を変えていて、甘さも発売当初よりは抑えられています。ただし飲んだ時の全体の印象は大きく変えないように、ずっと守ってきました。久しぶりに飲まれた方にも『昔と同じ味だね』と思っていただけることは、長寿ブランドとしては大事だと思っています」
健康志向で「無糖」「微糖」が主力に、ブルーカラー払拭する「ボトル缶」で購買層増大
「健康志向でコーヒーの砂糖やミルクを控える動きがありましたが、それが追い風となって『無糖』タイプが広まりました。ただ、それまで加糖タイプを飲んでいた人にとって、いきなり『無糖』は飲みづらい。そこで90年代以降は、ある程度甘さを残したままカロリーを抑えられる『微糖』タイプが市場で広がりをみせていました。現在、各メーカーとも缶コーヒーの主力はほぼ『無糖』と『微糖』になっていますね」
ユーザーの8〜9割が男性だと言われる缶コーヒー市場。1992年にサントリー『BOSS』がヒットを飛ばすと、ブルーカラーのイメージがより強くなった。自販機の全国的な普及とともに競争が激化するも、コーヒーの味わいが顕著に引き立つ「無糖」缶コーヒーの開発には各社苦戦していた。
また、2000年代には「ボトル缶」が登場すると、消費行動に大きな変化が現れ、“ブルーカラー”以外の購買層を一気に広げた。
「この容器はコーヒー以外ではあまり見かけませんが、何よりも広口であることが良かったと思います。飲みながらコーヒーの香りが鼻に通り、よりリッチな味わいを楽しめます。また蓋がついているので、持ち運びも可能。従来の缶コーヒーは”飲みきり”が普通でしたが、ボトル缶なら長時間かけて少しずつ飲むこともできます。飲むシーンが広がったという点でも、缶コーヒー市場の大きな転機になりました」
市場規模は年々減少… それでも「缶コーヒー」を作り続ける理由とは
「開けた時の音、飲みきりの良さなど、缶には缶の良さがあります。やる気を出したい時や気分転換したい時、オフからオンに変わる時などに飲んでいただけるカテゴリーだと思います。また、カフェやコンビニコーヒーでは、その日の温度変化や氷の溶け出しなどで多少味がブレることもありますが、缶コーヒーはいつ飲んでも味が一定です。そうした缶コーヒーの良さを感じてくれるユーザーさんがいらっしゃる以上、世界初の缶コーヒーを生み出したメーカーとして、今後もその良さを伝えていきたいという思いはすごくあります」
「レギュラーコーヒーは、同一ブランドの中でもブレンドの違いによって、味わいにバリエーションがありますが、それを缶コーヒーの世界でもできないかと思ったのが開発のきっかけです。『ブラックか、微糖か』というだけではなく、ブラックの中でも『昨日は黒、今日は赤』というふうに、その日の気分によって買い分けていただけると、新しい缶コーヒーの楽しみ方ができるのではないかと思います」
半世紀以上に渡って、香り高いコーヒー本来の味わいにこだわり続け、缶コーヒー市場を切り拓いてきたUCC。コロナ禍を経て、昨今は自宅で本格的な抽出や焙煎を楽しみ風潮が強まる中、“赤い缶コーヒー”が、今度はどのユーザー層を開拓していくのか、楽しみに見守りたい。
(取材・文=水野幸則)