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ドン・キホーテ「情熱価格」成功の影に“リニューアル以前の模索” 脱・凡庸の奮闘劇

 「驚安の殿堂」で知られる総合ディスカウントショップ『ドン・キホーテ』のPB商品「情熱価格」が多くのメディアで取り上げられ、注目を浴びている。ディスカウントショップがPBを起ち上げるのは何ともユニークだが、2021年にブランドリニューアル。新たなロゴに刷新され、グッドデザイン賞を受賞。昨年末はオフィシャルキャラクター「ド情ちゃん」が誕生し、他のメーカーにはないPB商品の盛り上がりを見せる。それにはリニューアル以前の?独自性のなさ“が大きなポイントになったようだ。

「驚安の殿堂」ゆえに、安さのみを追求 結果、ドンキならではのアミューズメント性を喪失

 「情熱価格」が誕生したのは2009年の10月。「お客さまの声をカタチに」をブランドメッセージとして、690円の驚安(きょうやす)ジーンズなど、ドン・キホーテらしい商品展開を行ってきた。実はブランド化される前にもオリジナル商品はあった。お菓子や生活雑貨、日用品など。当時からユーザーの声を形にしてきたのだが、改めて「情熱価格」とブランドを背負わせた形だ。

 だが、いつしか「お客さまの声をカタチに」というブランドメッセージが形骸化へと傾いてしまう。「驚安の殿堂」ゆえに、安さばかりを求めた商品開発になってしまい、気づけばドン・キホーテらしさ=ワクワク・ドキドキの見られない、どこにでもある商品を多く販売するようになってしまったのだ。

「『ドン・キホーテ』は業態自体が、お買い物にアミューズメント性を提供しますという形で、コンビニエンス(便利さ)、ディスカウント(価格の安さ)に加え、アミューズメント性を付加するということを重視して参りました。特にアミューズメントの面で支持していただいているお客様もいる中で、オリジナルブランドである『情熱価格』が特徴のない、凡庸なものになってしまっている、と。そこで2021年2月、リニューアルに踏み切ったのです」(担当者/以下同)
 店舗形態からも安いのは当然。リニューアルの際には凡庸化の反省を活かし、“驚きのニュースがない商品は作りません!”と堂々と宣言した。商品に関しても、商品名を「複数の塩を配合した秘伝の塩シンプルな味つけだからこそ「職人のこだわり」が詰まった塩味 食べるほどに奥深い塩の旨味が広がる きね餅 塩」などの過剰に長いものや、「にんにく6倍ドン引きペペロンチーノ」などクスっと笑えるものに。長い商品名になってしまうのは「企画担当者が気合を入れて作っているもので、その素晴らしさを伝えようとし文章化したら長くなってしまった、かいつまみたかったけど、無理だった、ということもあります(笑)」とのことだが、まるでライトノベルのような過剰に長い商品タイトルとユニークさに「思わず手に取ってしまう」というポジティブな声が寄せられているという。

「大盛りという言葉が入っていると恥ずかしくて買いにくい」お客の“ダメ出し”をポジティブに商品改善へ

「基本的に他社さんがやらないようなPB商品を率先してチャレンジしているようなところはあります。お客様が求めているのにまだ世にない商品を企画するとか。もちろん“こんなものもあるのか!”と楽しんでいただきたい面もあるんですけど、ふざけて見えても、弊社としては非常に真面目にやっております。アミューズメント的なものも、お客様が求めているなら、喜んで真面目にチャレンジしていきたいと思っているのです」

 だが、どんなに優秀な芸人でもスベることがあるように、こうしたチャレンジも、客から不満を持たれてしまうこともある。つまり、ネガティブな声も届く。これを「情熱価格」はポジティブに受け止めるようにした。リニューアル時に公式HP内に設置された「ダメ出しの殿堂」である。
「かつて屋内向けのネットワークカメラで、SMAMOTCHER+(スマモッチャープラス)という商品を販売しました。これは“スマートモバイルウォッチャー”を縮めた造語なんですが、“名前がわかりにくい!”などネガティブな声が。さらには倒れやすいなど、『ダメ出しの殿堂』でダメ出しされました。そこで、倒れにくく、さらに分かりやすい名前を公募し『留守番名人』という商品に改善したということもございました」

 さらにはロゴも一新。もともとオレンジ色の四角内に「情熱価格」と書かれただけのものだったのを、ドン・キホーテの「ド」をドカンと強調し、そこから「情熱価格」の過去のロゴが旗のように垂れ下がっているデザインに。これで「目立つようになった」「見つけやすくなった」などの声が寄せられた。

「現在も『ダメ出しの殿堂』には、月に2000ほどのダメ出しが届きます。『大盛りパスタ』という商品だと、あんまりデカデカと“大盛りという言葉が入っていると恥ずかしくて買いにくい”などの声が届くなどしており、そこから出来るものは改善していっています。とにかく、『お客さまの声をカタチに』がもともとのメッセージですので、そういった声を大事に。ゆえに、我々のPB商品は、“プライベートブランド”ではなく“ピープルブランド”と呼称しております」

 プライベートブランドでは、プライベートビーチという言葉があるように会社所有のブランドというイメージになることを怖れた。それは、「PBは自社だけで作るもの」という考えを改めるための意味も込めている。あくまでもお客様皆で一緒に作るブランドという意味で“ピープルブランド”としたわけだ。つまり今のドン・キホーテにとって「ダメ出しの殿堂」は、この戦略の“核”となる。

「お客様のダメ出しにもっと答え、ゴールのない改善をひたすら続けたい」

 客からのダメ出しを募集し、商品改善を図る。だが現状はまだ新商品の販売の方が圧倒的に数が多く、「『お客様のダメ出しを商品改善に生かしていきたい!』については、言葉通りではありますが、真のピープルブランドとして体現していくために、もっとお客さまのダメ出しから改善に至った商品を発表していきたいと考えています」と語る。

 その他の課題としては「商品カテゴリの拡充」。家電、キッチン用品などの家庭雑貨、アウトドアなどのスポーツ用品、コスメ、ペット用品、衣料、かばんなど7カテゴリを考えており、場合によっては情熱価格ではない他の当社PB/OEMという形での発売になるかもしれないが特に拡充に力を入れていくカテゴリに設定している。
 顧客最優先主義ゆえに、ゴールがない改善を続けていくドン・キホーテ。迷路のように入り組み、アドベンチャー気分を味わえる同店らしい「改善への道」だ。もし客が全員「情熱価格にして」と言われればそうなるかもしれないし、ディスカウントの領域はしっかりしていてほしいと言われれば、そうなっていくかもしれない。

 PB商品には「ごまにんにく」といった大ヒット商品も出ている。ラーメン、炒めもの、サラダ、何にかけても美味しくなるもので、「ダメ出しの殿堂」にも「詰替えを置いてくれ」との声が多く寄せられる。

 “安さ”だけではない。それを追求して凡庸になってはいけない。ウケを狙いすぎて、スベってもいけない。客から出され続ける「ダメ出し」を受け、商品開発や改善に取り組んでいく。まるで店内の“ダンジョン”さながらに、ドン・キホーテの奮闘は続く。

(取材・文/衣輪晋一)

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