ORICON NEWS
ドン・キホーテ「情熱価格」成功の影に“リニューアル以前の模索” 脱・凡庸の奮闘劇
「驚安の殿堂」ゆえに、安さのみを追求 結果、ドンキならではのアミューズメント性を喪失
だが、いつしか「お客さまの声をカタチに」というブランドメッセージが形骸化へと傾いてしまう。「驚安の殿堂」ゆえに、安さばかりを求めた商品開発になってしまい、気づけばドン・キホーテらしさ=ワクワク・ドキドキの見られない、どこにでもある商品を多く販売するようになってしまったのだ。
「『ドン・キホーテ』は業態自体が、お買い物にアミューズメント性を提供しますという形で、コンビニエンス(便利さ)、ディスカウント(価格の安さ)に加え、アミューズメント性を付加するということを重視して参りました。特にアミューズメントの面で支持していただいているお客様もいる中で、オリジナルブランドである『情熱価格』が特徴のない、凡庸なものになってしまっている、と。そこで2021年2月、リニューアルに踏み切ったのです」(担当者/以下同)
「大盛りという言葉が入っていると恥ずかしくて買いにくい」お客の“ダメ出し”をポジティブに商品改善へ
だが、どんなに優秀な芸人でもスベることがあるように、こうしたチャレンジも、客から不満を持たれてしまうこともある。つまり、ネガティブな声も届く。これを「情熱価格」はポジティブに受け止めるようにした。リニューアル時に公式HP内に設置された「ダメ出しの殿堂」である。
さらにはロゴも一新。もともとオレンジ色の四角内に「情熱価格」と書かれただけのものだったのを、ドン・キホーテの「ド」をドカンと強調し、そこから「情熱価格」の過去のロゴが旗のように垂れ下がっているデザインに。これで「目立つようになった」「見つけやすくなった」などの声が寄せられた。
「現在も『ダメ出しの殿堂』には、月に2000ほどのダメ出しが届きます。『大盛りパスタ』という商品だと、あんまりデカデカと“大盛りという言葉が入っていると恥ずかしくて買いにくい”などの声が届くなどしており、そこから出来るものは改善していっています。とにかく、『お客さまの声をカタチに』がもともとのメッセージですので、そういった声を大事に。ゆえに、我々のPB商品は、“プライベートブランド”ではなく“ピープルブランド”と呼称しております」
プライベートブランドでは、プライベートビーチという言葉があるように会社所有のブランドというイメージになることを怖れた。それは、「PBは自社だけで作るもの」という考えを改めるための意味も込めている。あくまでもお客様皆で一緒に作るブランドという意味で“ピープルブランド”としたわけだ。つまり今のドン・キホーテにとって「ダメ出しの殿堂」は、この戦略の“核”となる。
「お客様のダメ出しにもっと答え、ゴールのない改善をひたすら続けたい」
その他の課題としては「商品カテゴリの拡充」。家電、キッチン用品などの家庭雑貨、アウトドアなどのスポーツ用品、コスメ、ペット用品、衣料、かばんなど7カテゴリを考えており、場合によっては情熱価格ではない他の当社PB/OEMという形での発売になるかもしれないが特に拡充に力を入れていくカテゴリに設定している。
PB商品には「ごまにんにく」といった大ヒット商品も出ている。ラーメン、炒めもの、サラダ、何にかけても美味しくなるもので、「ダメ出しの殿堂」にも「詰替えを置いてくれ」との声が多く寄せられる。
“安さ”だけではない。それを追求して凡庸になってはいけない。ウケを狙いすぎて、スベってもいけない。客から出され続ける「ダメ出し」を受け、商品開発や改善に取り組んでいく。まるで店内の“ダンジョン”さながらに、ドン・キホーテの奮闘は続く。
(取材・文/衣輪晋一)