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“ジェンダー平等”と常に対峙してきた『プリキュア』の20年「一貫して“子ども優先”のスタンス」

  • アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』(C)ABC-A・東映アニメーション

    アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』(C)ABC-A・東映アニメーション

 放送開始20周年を迎えた人気アニメ『プリキュア』(ABCテレビ・テレビ朝日系)シリーズ。第20弾『ひろがるスカイ!プリキュア』はテーマを“ヒーロー”と銘打ち、メインキャラクターに歴代初の男の子プリキュアが登場している。子ども向け番組におけるジェンダー区分に対して、『プリキュア』はどのように向き合い、子どもたちにメッセージを送り続けてきたのか。シリーズの生みの親である東映アニメーションのエグゼクティブプロデューサー・鷲尾天さんに話を聞いた。

“ヒーロー/ヒロイン”と名言していなかった…ジェンダー平等のいまだから、明確にヒーローと銘打てる

アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』(C)ABC-A・東映アニメーション

アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』(C)ABC-A・東映アニメーション

──“プリキュア=変身ヒロインアニメ”と受け取られてきました。シリーズ第20弾の『ひろがるスカイ!プリキュア』のテーマをヒーローとした理由を教えてください。

鷲尾天さん 実は“プリキュア=ヒーロー”という概念はシリーズ開始当時からありました。世間で言う“ヒロイン”という言葉から想起されるイメージは、ヒーローから守られる存在や、あるいはサブ的な役割だったと思います。そこにはずっと違和感がありながらも、“女の子が主人公のアクションアニメ”という言い方をしながらヒーロー/ヒロインという明言を避けてきたのは事実です。ジェンダー不平等をなくすことが求められる社会になったいま、ようやく『プリキュア』を明確にヒーローと銘打てる時代になったのを感じています。

──特撮は男の子向け、変身ヒロインは女の子向け。こうした子ども番組の区分けについては、どう向き合ってきましたか?

鷲尾天さん 当時はあまりそこを意識したことはなかったですね。『プリキュア』は女児向けアニメとして始まったわけですが、意外にも4〜6歳の男の子の視聴率が高かったです。次第に女児視聴が殆どになっていきましたが、そこは気にしていませんでした。ただ我々としてはあくまで「子どもたちが喜んでくれる作品」を作っていこうという思いでいました。

──シリーズ第15弾『HUGっと!プリキュア』には「誰の心にもヒーローはいる」「男の子だってお姫様になれる」という台詞がありました。ジェンダー規範に捉われなくて良い、男の子もプリキュア好きで良いというメッセージだったのでしょうか?

鷲尾天さん 当時のスタッフに聞かないといけませんが、きっとそういう意味合いだったと思います。初代監督の西尾大介さんがお持ちだったジェンダー意識は、脈々とシリーズに受け継がれていると思います。特に主人公の身近な大人たちの台詞には配慮し、「男の子だから、女の子だからこうしなさい」といった発言はさせないよう気を付けています。

“変身ヒロインアニメ”に付きまとう“不適切な大人の目線”と向き合った20年

アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』(C)ABC-A・東映アニメーション

アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』(C)ABC-A・東映アニメーション

──変身少女アニメは、子ども向けとして作られながら「変身シーンで裸になる」「胸が強調された衣装」など、一部の大人の性的な関心を掻き立てる側面があります。『プリキュア』の見解を伺えますか?

鷲尾天さん シリーズ開始当初から「不適切な大人の目線から守る」ことは、はっきりと意識してきました。変身シーンについては、「戦隊やライダーが変身で裸になることはないよね」という議論もありました。その中で初代監督の西尾さんが打ち出した金属的なものに覆われた変身シーンが、それに対する答えになるかと思います。その後もシリーズによって光に包まれて変身するなど、さまざまな工夫をして性的なイメージを想起させないようにしています。

──ミニスカートの下にスパッツを履いた衣装のキャラクターも、「プライベートゾーンを守る」ための配慮でしょうか。

鷲尾天さん スカートをことさらに翻さない、この角度からアクションシーンは撮らないなど、スカートの中を見せない描写のルールは徹底しています。スパッツについてはシリーズ開始当初から派手なアクションを想定していたので、衣装に取り入れたという経緯があります。

──初期作品では水着もNGにされてきたそうですね。

鷲尾天さん “主人公たちの水着姿を子どもたちは見たいだろうか?”というのが判断材料でした。ただ時代が進み子どもたちが憧れるようなファッショナブルな水着も増えました。水着を着るシーンがあってもいいだろうと。子どもたちの嗜好や意識の変化には柔軟に対応していくべきだと考えています。

──配慮を徹底することで、表現が制限されるジレンマはありませんか?

鷲尾天さん むしろ表現にはある程度の制限があったほうが工夫も生まれるんじゃないかと思います。制限のある中で、いかに華麗でステキなアクションを見せるとか、製作スタッフは苦労が多くなって大変かとは思いますが、子どもたちが安心して楽しめる作品のために、ぜひいろいろ試してもらえると嬉しいです。

── 一方で嗜好も多様化し、「少女向けアニメを好む大人は不適切な目で見ている」というのも、もはや偏見ではないか? という意見がありますが、どのように考えていますか?

鷲尾天さん 視聴者を選ぶことはできないし、いろんな見られ方があるのは承知しています。しかし、決してそこに媚びることなく、あくまで子どもたちに楽しんでもらうことだけを考えています。ただ大人の『プリキュア』ファンの多くは、私たちに意識が近いというか、映画やキャラクターショーでも“子ども優先”のスタンスが浸透しています。そこはとてもありがたいことですし、20年続いてきた成果の1つだとも思っています。

NGワードや描写、敵/味方の概念も独自ルールを徹底「子どもに好ましくないことは極力排除している」

  • キュアウィング(C)ABC-A・東映アニメーション

    キュアウィング(C)ABC-A・東映アニメーション

  • キュアバタフライ(C)ABC-A・東映アニメーション

    キュアバタフライ(C)ABC-A・東映アニメーション

──『プリキュア』シリーズには、他にどのようなルールがあるのでしょうか?

鷲尾天さん 子どもたちに好ましくない影響が考えられる描写は、極力排除しています。例えばダイエット。主人公である中学生が興味を持ちそうなトピックですが、一緒に観ている保護者の方たちにとって子どもにはたくさん食べて健康になってほしいという願いがあるでしょうから、それに反するような描写は外した方が良いと思っています。またアクションシーンでは、頭やお腹を殴られないようにしています。子どもたちが真似した時に、そこは危険であることを知らしておきたいと考えています。

──NGワードはありますか?

鷲尾天さん 最初に話した「男の子だから」「女の子だから」とかは入れないことにしています。それと相手を罵倒するような言葉は極力避けています。それから“敵/味方の概念”については、慎重に扱っています。西尾さんは、「向き合う相手も自分たちこそ正義だと思っている。主張がぶつかるからバトルになるけれど、どっちが正しいとかを表現するのは慎重に考えた方がいいよね」とよく言っていました。主人公たちがなぜ、何に対して立ち向かっていくのかは、常に考え続けながら描いていきたいと思います。

──新シリーズには歴代初の男の子のプリキュア「キュアウィング」がレギュラー登場します。彼のキャラクター造形や立ち位置を教えてください。

鷲尾天さん 新シリーズのモチーフは「空」。それぞれのメインカラーは気象がテーマで、キュアウィングのオレンジは、夕暮れをイメージしています。全員に共通するのは共に行動できる人であること。新シリーズには18歳の“新成人プリキュア”も登場しますが、男の子だから、年上だから指導的な立ち位置という描き方はしていません。

──時代とともに進化し続けてきた『プリキュア』シリーズですが、一貫して変わらないことはありますか?

鷲尾天さん 最近よく初代のコンセプトである“女の子だって暴れたい”について、「ジェンダー規範からの解放だった」と言われます。そこよりもむしろもっと大事だと考えていたのは、「自分の足で凛々しく立つ」という同じ企画書に書いていた1文で、それこそが『プリキュア』の根っこの部分でした。困難に向かって立ち向かい、跳ね返されても諦めないこと。そして仲間を信頼し、人を許すこと。それが『プリキュア』でこれからも変わらず描いていきたいヒーロー像です。

(文/児玉澄子)
『ひろがるスカイ!プリキュア』(ABCテレビ・テレビ朝日系)
【放送日】毎週日曜 朝8時30分〜

◆アニメ『ひろがるスカイ!プリキュア』オフィシャルサイトはこちら(外部サイト)

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