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「売り手買い手」は古い? マッチング重視の採用方式へ 変化する「BtoB」企業の人材戦略
「合同企業説明会」中止で激減した求職者と企業の接点、コロナ禍でさらなる窮地に
「合同企業説明会では、手持無沙汰な学生に声をかけて、ちょっと説明聞いて行きませんかと声をかけることも出来ました。学生側も目指す企業説明開始時間まで少し時間があるから、とりあえず聞いてみようとなっていたと思います。ですがオンラインでは、学生側は最初から希望する企業の説明を聞くだけで、予定外の企業と接する機会がありません」
一方で、オンラインによる説明会や就職相談会にはメリットもある。例えば、地方に在住する学生にとっては気軽に参加しやすくなったという声も聞く。実際に、地方の大学から説明会を通じ、その後面接などを経て東京の企業に就職した学生もいる。
先の採用担当者も「コロナ禍以前は、理工系を中心に東京で企業説明会をしていましたが、オンラインになったこともあり、関東の大学だけでなく関西や九州の遠方の学生も気軽に参加してくれました」と話す。
BtoB企業や中小企業にとっては、オンライン説明会によって採用の幅が広がったという好影響ももたらした一面もある。しかし、いざ内定を出しても実際に入社してくれるかどうかはまったく別の話になる。
学生たちが選ぶ『大学生就職企業人気ランキング』の上位企業は、「BtoC」企業で知名度の高い大手企業がずらりと並んでいる。学生たちからすれば、知名度のある企業が就職先としてイメージしやすいから魅力的なのかもしれない。だからといって知名度のない企業に魅力がないわけではない。BtoB企業はその典型で、業界では知られていても一般的には知名度がないケースが多い。そのため事業内容や組織規模、社員待遇が良くても学生がそうした企業を見過ごしてしまうのだろう。
また、数社から内定をもらった学生が家族や友人に就職先を相談する場合でも、最終的に知名度で選ぶ傾向にあることも否めない。このような流れはコロナ禍になっても大きく変わっていない。むしろ知名度のないBtoB企業にとってはコロナ禍での新卒採用の厳しい状況は増しているといえる。
“得意”を売り込める事前課題に「ウラ会社説明会」、家族向け資料の配布も
同社が優秀な人材を獲得する為に実施しているユニークな選考方法のひとつが、面接時間の設定だ。1次面接では新卒学生1人につき1時間をかけて実施しているという。
「大企業のように応募者数が多くありませんから、逆にじっくり1人1人と話そうと考えた結果です。初対面で1時間も話していると、どうしても素顔がのぞきますし、人柄もなんとなくわかってきます」(共同カイテック 総務人事部 人事課・竹村駿さん/以下同)
就活学生が事前に用意して来た志望動機や自己PRを聞くだけでは中々本音が見えづらい。その点、面接が1時間あればいろいろな話題に触れることもでき、魅力や個性を発掘することが出来る。
また、2年前からは選考の過程で、「IKIZAMAチャレンジ」と呼ぶ課題を出すことも始めた。
論文やイラスト、写真、動画など10種類ほどある形式から1つを選んで取り組む課題で、例えば論文なら「あなたの考えるリーダーシップとは?」、イラストなら「自身を表現する4コマ漫画」というテーマで作品をつくって提出するというものだ。
「これは採用試験というより加点になる課題です。課題に取り組んでもらうことで、当社のことを考えてくれる時間も増え、一緒に働くことへの思いを高めてもらいたいと思いますし、学生の皆さんにとっても面接だけでは伝えられない個性を表現する機会になるかなと考え始めました。実際に実施してみると、得意なものとか、ものの見方や感受性とか、その人の新たな魅力を発見でき、今まで以上に良いところを発見することが出来るようになりました」
今年から「ウラ会社説明会」も予定しているという。入社年数による給与や賞与の明細や育休の具体的な状況など、オモテでは語りにくい実態を赤裸々に明かす質問形式の会だ。最終選考のタイミングで行われる。こうした取り組みをするのは、応募者と企業側とのミスマッチを防ぎたいからにほかならない。特に新卒採用者が少ない企業でのミスマッチは、大きな損失になる。
そういう事態にならないようにと、同社では内定した本人だけではなく、その家族に向けた企業案内の資料も作成して配布しているそうだ。事業内容や企業理念、企業風土や文化を理解してもらい、家族からも安心して就職の賛意を得られるという。こうした細やかな配慮が必要なのも知名度がないBtoB企業の苦労なのだろう。
「売り手買い手」ではない採用方式 マッチング重視が加速か
また学力の高さと仕事ができることとはイコールであるとは限らないが、優秀な人材が偏差値上位校の中にいる確率が高いことも否めないだろう。しかし、学歴フィルターのような条件による選考だけでは問題もある。会社の一員として働くには「コミュニケーション能力」「協調性」「主体性」「誠実性」なども重要だ。
コミュニケーション能力や主体性などをどのように評価するのか、企業側は職種、職域に適する人物なのかを踏まえて選考する傾向が強くなって来ている。
新卒採用に苦労している企業では、自社のホームページの作成に力を入れたり、SNSによる情報発信のほか、就活学生に向けた個別のアプローチ方法としてダイレクトリクルーティングサービスを活用するケースも増えた。これは企業がダイレクトに求職者をスカウトする採用手法で、ある意味でマッチングサービスといえる。
学生にとってはダイレクトリクルーティングサイトに登録しているだけで、関心のある業界や業態の企業から選考のオファーやインターンシップなど採用関連の情報が送られてくる。企業側は特定の専攻や学部を対象の学生に絞って直接アプローチできるだけに、知名度がない企業でも業界に関心のある学生に自社を詳しくアピールできる絶好のチャンスにもなる。こう説明すると、ダイレクトリクルーティングサービスが新卒採用の課題の切り札のように思えるが、そうとも限らないのが難しい。パートナー探しのマッチングアプリと同じで、希望する条件項目が多くマッチすれば必ずしも相性がいいとは限らない。
知名度や条件ばかりを優先して企業選びをした結果、入社してもすぐ辞めて第二新卒として就活する人が少なくないのが昨今だ。
従来の適性テストや外部の評価ツールを使った選考には限度があり、採用する企業側もコミュニケーション能力や主体性、協調性などに加え、企業風土となじむ資質があるかを独自に評価する制度や選考方法が求められているのだろう。言い換えれば、就活する学生と採用したい企業の間で本当の意味でのマッチングが求められているのだ。
とりわけBtoB企業の場合は、新卒採用に際して時間をかけて個人の資質まで見て採用していくことが賢明だろう。「企業は人でもある」といわれるように、その人となりがわかならければ、組織で長く一緒に働くことはできない。
学生側も採用する企業側も「こんなはずじゃなかった」とならないように、採用でミスマッチングをしないことだ。そういう意味でBtoB企業はじっくりと、許される限り採用に時間をかけて求職者を「知る」ことが大切になっていく。
フィルターによる引き算ではなく、これからはいかに「知る」ことで相互にマッチするか、その積み重ねの足し算が採用選考の軸になるのかもしれない。
(取材・文/福崎剛)