ORICON NEWS
今年で30周年、時代と共に変遷を遂げた『BOSS』CM 「ろくでもないけど、すばらしい」に込めた“救い”
『BOSS』CMの始まりは矢沢永吉 バブル崩壊の苦境の中で共感を得て人気商品に
「缶コーヒーは1960年代に誕生して以来、自販機の急速な普及により、どこでも手軽に飲める国民的飲料として発展していました。そんな中、特に長距離運転のドライバーや、工事現場で働いている方が、日々購入していることが分かりました。彼らは一見、自由な働き方にも見えますが、一方で孤独な時間も多い。そんなときに1本飲んで、何か会話をするような、仕事がうまくいかなかったときや落ち込んでいるときにも、どこか頼り、頼られる関係になれるような、働く人の日常に寄り添った存在になれたらという思いをベースに開発しました」(サントリー食品インターナショナル・ブランド開発事業部 大塚匠氏/以下同)
「働く人の理想」という意味を込めた洒落たネーミングと、パイプをくわえたダンディーなイラストで、“働く現場”に浸透していった『BOSS』。さらにその人気を高める要因となったのが、テレビ出演がほとんどなかった矢沢永吉を起用したCMだった。日本を代表するカリスマ的ロックミュージシャンが、普通のサラリーマンを演じ、「まいったなぁ」とつぶやく姿は好評を博した。従来のブルーカラー層に加え、いわゆるサラリーマンたちからも人気を得て、右肩上がりで売上を伸ばしていった。
「バブル崩壊で希望が見えない中、『矢沢さんも頑張っているなら俺も頑張るか』と多くの方々から共感をいただきました」
累計70以上の職業に就いた“宇宙人ジョーンズ”「『なぜここにいるんだろう?』という空気感が魅力」
「それまで発売していた『スーパーブレンド』も『セブン』も、主にブルーカラーの方に向けて開発していたため、5分の休憩で一気に飲んでもらえるような味わいに仕上げていました。ただ、時代は働き方が多様化し、味わいも多様性が求められるようになっていました。『BOSS』はいつの時代にも老若男女問わず、働く人たちに『ホッとする、元気になる』と思っていただける存在であることを一番に考えていますので、“働く人の相棒になる”という本質を守る意味でも、新しい変化を取り入れることが必要でした」
そして2006年、今も続く「宇宙人ジョーンズの地球調査シリーズ」がスタート。米俳優のトミー・リー・ジョーンズが宇宙人に扮して、いろいろな職場を転々としながら地球を調査する内容で、心がほっこり温かくなる優しさや、クスッと笑える皮肉が印象的だ。そこに込められているのは、「この惑星で働くすべての人たちに寄り添いたい」という思い。ちなみに宇宙人ジョーンズはこれまで70以上の職業に就き、潜入捜査を実施してきたという。
トミー・リー・ジョーンズの起用の理由については、「宇宙人らしい人として、ジョーンズさんに決めました。映画『メン・イン・ブラック』シリーズの演技もそうですが、そこにいるだけで存在感がある。『なんで自分はここにいるんだろう』という空気感を出すのも得意で、そういった演技が決め手となりました」と明かす。
職業構造や働き方、働く価値観が多様になる中、その時その時の変化を、様々な職場の働く人の喜怒哀楽を描くことで、職業を問わず広く共感するCMとなった。
商品の特徴を一切言及しない『BOSS』CM、「マーケティング的には間違いかもしれないが…」
2010年代に入ると、「働き方改革」の実現が掲げられ、女性の活用やダイバーシティの推進、リモートワークやテレワーク就労の普及が加速。日本は、就労環境の刷新に向けて進み始めた。CMに込められた想いのとおり、『BOSS』もまた、2017年に現代に働く人を快適にする“新しい相棒”をコンセプトに、ペットボトル型コーヒー『クラフトボス』を発売し、直近約10年間で女性ユーザーを2.7倍に増やした。
「缶コーヒーは“働く男性の飲み物”というイメージがあったためか、お客様の7〜8割は男性で、女性からは『BOSSの広告は好きだけど、自分向けの商品がない』というお声を多くいただいておりました。『働く人の相棒になる』という本質を変えずに、変化していく『飲み物としての相棒とは何だろうか』を考え続けてきました。それは、コーヒー飲料をあまり堅苦しく考えずに、その可能性を広げることに注力し続けてきた歴史であり、更には、コーヒーだけではなく、嗜好飲料の可能性を拡げてきたとも言えるかも知れません。その象徴がクラフトボスシリーズです」
「広告では、働く人の気持ちに寄り添うというBOSSのテーマと同時に、時事性やジャーナリスティックな一面も大事にしています。またその時の状況に対して、宇宙人の視点で意外な感想を言ったり、旬な話題を盛り込む、そういう俗っぽさであったり、すばらしいと最後にいうけど、ろくでもないと一言文句をいう、働く人の日々の喜怒哀楽に寄り添い、またがんばろう、と救いがある、そういったところを大切にしています。いろいろなことが起こった2021年も、目の前の仕事をひたむきに頑張ってきた働く人に「お疲れさまでした」の思いを込めて、「青空みたいな星で。」篇を制作しました。今後も「働く人の相棒」として、働き方・世代を超えて愛されるブランドになれるよう、働く人に寄り添い続けていきたいと思っています」
(取材・文/河上いつ子)