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(更新: ORICON NEWS

ソニーグループの躍進は「失敗を責めない姿勢」にあり  “75年分の失敗”が社内共有される「べからず集」が財産に

 世界的な品切れ状態を呼んだゲーム機『PS5』や、社会的ブームを巻き起こしたアニメ映画『鬼滅の刃』などが大ヒットを記録し、好調な業績を上げているソニーグループ。創業以来、技術とコンテンツの両軸で、次々と革新的な商品を生み出してきた同社は、昨年5月75周年を迎えた。今や世界に名を轟かす“ソニーブランド”の根幹を支えているのが、常に時代を先取る新たな“音へのこだわり”。日本の音楽史に残る革新的な音楽体験を次々と生み出してきた、ソニーの本懐とは?

〈音〉は、ユーザーを感動に導く大事な媒体の一つ、着目するのは必然

 多くの革新的製品を生み出し続け、いまやその名を世界に轟かせるソニー。その快進撃の始まりは、1950年、創業者の井深大氏と盛田昭夫氏らが作り上げた日本初のテープレコーダー『G型』に始まる。55年に発売した日本初のトランジスタラジオ『TR-55』からは、「世界中を相手に仕事をする」という決意の表明として、『ソニー』ブランドを制定し、製品に表記。世界最小のトランジスタラジオ『TR-63』で世界にその存在を知らしめると、58年には社名も東京通信工業からソニーへと変更。その名の由来は「音(SOUNDやSONIC)」の語源となったラテン語のソヌス(SONUS)と、「小さい」「坊や」という意味のサニー(SONNY)。2つの言葉を掛け合わせ「小さくても、はつらつとしたやんちゃ坊主」という意味を込めたというから、並々ならぬ音へのこだわりを計り知ることができる。

 同社で40年間、イヤホンなど「音」にまつわる開発に携わってきた投野耕治氏(シニア音響アーキテクト)は言う。

「ソニーの存在価値は『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』と定義されていますが、それは創業者の精神が今に受け継がれています。音楽などの〈音〉は、お客様を感動に導く大事な媒体であり共通言語のひとつ。ですから、弊社が〈音〉に着目するのは必然ではないかと考えています」

 この言葉の通り以降も、世界を驚かすことになる『ウォークマン』や、海外企業と共同で開発した『CD』や、『MD』をはじめとする新しい記録メディア、小型の再生装置の開発、さらには『ハイレゾ』を含む音質の追求など、その社史は日本の音楽文化・産業と密接に関わり、各時代で音楽史に残るような革新を起こしてきた。

「ソニーの誕生以前から、音楽と音楽産業は密接に絡み合い、オーディオ技術進化に伴って共に進化してきました。例えば、20世紀初頭にマイク、アンプ、スピーカーのオーディオが出来たことで、それまで1000人の観客を楽しませようと思ったら100人のオーケストラが必要だったところを、4人の演奏家で楽しませることが出来るようになった。音楽産業が変化し、アーティストの表現自体も変化していったのです。また、録音技術とラジオの発明によって、コンサート会場でなくても国中で音楽を楽しめるようになりました。レコードのような物理記憶メディアの発明で、国境を越えて、世界中のお客さん相手に音楽を伝えられるようになりました。そのなかで特に近年は、手前味噌ではありますが、ソニーの貢献も大きいものがあったと思います」(投野氏)

『ウォークマン』をはじめ、常識を覆し新たな文化を生み出せる理由は「失敗に寛容な企業風土」

「近年のソニーの貢献」と投野氏が話すように、ソニーが開発した商品のなかでも特に印象深いのが、1979年に誕生した『ウォークマン』だろう。当時、「録音機能なしのテープレコーダーなんて売れない」という社内外からの否定的・悲観的な声に反して大ヒットしたこの商品は、単に売れただけでなく、世界中の人々の音楽の聴き方そのものを変え、新しいライフスタイルを作り上げた。

「『ウォークマン』が誕生する以前の音楽コンテンツは、家庭に一台、持ち運びしにくいステレオ装置や、テレビ、ラジオがあり、それらを通じて、一家の大黒柱である父親が決めた同じコンテンツを、共有スペースで家族全員で楽しむものでした。それが、『ウォークマン』の誕生によって、音楽を“個人持ち”できるようになり、自分だけの好きな音楽アルバムを、いつでも、どこでも、一人で気兼ねなく楽しめるようになった。その結果、人々が音楽を聴く時間も大幅に増えました。これはまさに、『ウォークマン』が“パーソナルオーディオ”文化をけん引した結果と言えると思います」(投野氏)

 1つの新商品が、それまでの常識を覆し、新しい文化、ライフスタイルを生み出す。ソニーがそれを繰り返す理由を、投野氏はこう分析する。

「『ウォークマン』をはじめ、ソニーがけん引したものは、単に新しい再生装置でなくて、音楽コンテンツや、リスニングスタイルに伴うファッションまでの幅広い文化にアクセスする商品。だから大きなムーブメントにできたのではないかと考えています。ソニーの場合、ハードとソフトの両輪で、音楽や映画といったコンテンツ含めた文化創造をすることができる。例えば新しい技術を開発したとき、クリエイターとリスナー両方にソリューションを提供できる。ビジネスエリアが広いからこそできることかと思っています」(投野氏)

 75年間、受け継がれ続けている革新的な“音楽体験”の歴史。ではなぜ、次々と革新的なものを生み出すことができるのだろうか? 投野氏は、その要因の一つとして、「失敗を恐れない」「失敗を責めない」という風土を挙げる。

「実は、ソニーは失敗も多いんです(笑)。だから、失敗しても問わない、どんどん挑戦しろという創業者の精神が、今も末端まで伝わっています。狭いオーディオ市場でシェアを奪いにいくというより、音楽の楽しみ方を拡げることそのものに意義があり、それによって大きな変化を作ることが、結果、売り上げに貢献することになるという考えが企業文化として根付いていると思います」(投野氏)

 投野氏自身、40年間技術者として働いてきて、「革新的なアイデアを出すことは難しい」と語る。だが繰り返されてきた革新の歴史は、まぎれもなくソニーのアイデンティティと言えるだろう。

「新しい技術へのチャレンジは実は難しく、アイデアもパッと簡単に出てくるものではありません。アンケートをとっても直接的に出てくるわけでもなく、いろんなところに埋もれているもの。潜在的な需要を掘り起こすことは難しい。
 一方で、過去の経験で、失敗したもの、不可能だったもの、トラブルになった事例は『べからず集』のようなかたちで、禁止ルールになり蓄積していきます。しかし、そういうものだからこそ、見直してみる。技術や社会の変化で前提が変わって、過去に不可能だったものが可能になることもあるからです。自身や自組織の中にある先入観を排除し、今の技術を組み合わせたら新しいものができるんじゃないか、という技術的なソリューションと、こういったものができたらいいなという自分の強い気持ち、どちらも大事にすることが大切なことかと思います」(投野氏)

ユーザーだけでなく、クリエイターにも新しい場を〈音〉の世界で提供したい

 こうしたソニーのアイデンティティを受け継いだ革新的な“音楽体験”は今もなお、新たな形で具現化している。例えば『360 Reality Audio(サンロクマル・リアリティオーディオ、以下/360RA)』は、ソニー独自の360立体音響技術により、アーティストの生演奏に囲まれているかのような没入感や臨場感のある立体的な音場の体験を楽しめるもの。現在、UVERworld、鬼頭明里といったアーティストがこのフォーマットを使ったコンテンツを配信し、従来とは異なる音体験を楽しむユーザーも増えているという。
 また、現実世界の音と仮想世界の音が混ざり合う、『Sound AR』という新感覚の音響体験ができるアプリとして『Locatone(ロケトーン)』をリリース。スマホの位置情報に連動して自動的にその場に応じた音声や音楽を再生することに加え、歩行やジャンプなど体の動きに連動。360立体音響技術などソニーの技術を集結することで、まるで仮想世界に入り込んだかのような没入感ある体験を実現させた。
 こちらも、ガイドコンテンツや、アニメなどの聖地巡礼コンテンツ、テーマパークでのサウンドアトラクションなど、さまざまな用途で活用されているほか、YOASOBIやLiSAといったグループに所属するアーティストとコラボ。楽曲とともにその背景にある物語や、アーティストの歴史などを楽しめるコンテンツとして好評を博している。また、目下、クリエイターが自分でコンテンツを制作・配信できるツールも準備中と、これらを開発している八木泉氏(事業開発部サービス企画課 ビジネスプロデューサー)は言う。
「ソニーには、耳をふさがない開放型のヘッドホンがありますが、その現実世界にバーチャルな音を重ねるという製品の特性を活かして、現実世界を音の力で拡張することで、ユーザーの生活をもっと便利にもっと楽しくしたい、それが『Sound AR』の原型になっています。ソニーのアイデンティティでもありますが、ユーザーに新しい体験価値や新しい発見を届けるだけでなく、クリエイターにも今までになかったような新しい表現方法、現実世界を舞台にした新しい場を〈音〉の世界で提供したいと考えています」(八木氏)

 歴史から引き継いできたDNAを大切にしつつ、常識にとらわれず、常に挑戦と創造を続けているソニー。これからも、「人のやらないことをやる」チャレンジ精神で、世界をアッと驚かす、新しい〈音〉の文化や体験価値を作り出してくれることだろう。

「新しいものを想像したい、思う存分技術をふるってみたい、そういう創業の精神が、今のビジョンでも『クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす』というパーパスにも引き継がれている。創業の精神や、それ以降に形成された企業文化は、これからも引き継がれていくと思います」(投野氏)

「私たちは、クリエイターと共に感動コンテンツを創り、それをユーザーに届ける、そのためのテクノロジー開発、コンテンツ開発を推進しています。それは、ユーザーにとってもクリエイターにとっても、新しい体験価値を提供し、新しいライフスタイル、文化を創るということにつながっている。歴史を大事にしつつ、常識にとらわれずに『挑戦と創造』を続けていくこと、が“ソニーの本懐”ではないかと思います」(八木氏)

取材・文/河上いつ子

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