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“爪痕を残す”ことだけが正解なのか? 杉野遥亮の演技に見る“個性派俳優”に対するアンチテーゼ

  • 杉野遥亮 撮影:booro(C)Deview

    杉野遥亮 撮影:booro(C)Deview

 現在放送中のドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』(日本テレビ系)に出演している杉野遥亮。主演の杉咲花に対して一途な想いを寄せるその演技に、「目の表情で上手く表現している」「表情の演技の天才だ」「このドラマで伝えたいことをよく理解して演じているように見える」などと多くの反響が集まっている。杉野はこれまでにも話題作への出演が続いていたが、なかなか“ネクストブレイク”の枠からは抜け出せずにいた印象も否めない。だが、いわゆる“強烈な印象を残す”ことでブレイクスルーをする図式はもちろんあるものの、近年のドラマを見ていると、「作品で爪痕を残すことだけが正解なのか?」という疑問も生まれてくるのではないだろうか。

「表情だけの細かい演技がうまい」 作品性をきちんと理解している演技に反響の声

 ドラマ『恋です!〜ヤンキー君と白杖ガール〜』は、杉咲花が演じる弱視のヒロイン・ユキコと杉野遥亮が演じる健常者のヤンキー・森生の恋愛模様を描いたラブコメディである。ただ、ドラマの作りとして、単なる胸キュンものの作品では終わらせていない。“弱視”の世界観を広くわかりやすく発信する社会派な部分もあれば、障害を受け止めることで抱える葛藤、さらには家族関係を描写する人間ドラマ的な側面も持ち合わせている。

 杉野はこのドラマで、健常者視点で視覚障害の世界観をなんとかして理解しようと奮闘する役どころを演じている。健常者が普段の生活をしていくなかではなかなか気づけない環境があるということを、杉野の演技を通して視聴者もリアルに感じとることができる。

 11月3日に放送された第5話では、杉野演じる森生がヒロイン・ユキコに、自分の過去のつらい出来事を打ち明けるシーンがある。「幼い頃に母親に捨てられた」と今にも泣き出しそうになるのを必死に堪えながら話す姿には、「表情だけの細かい演技がうまい」「泣きの演技にもらい泣きした」「頑張って涙堪えてる感じの演技がすごかった」と、SNS上には杉野の演技に対してたくさんの驚きと賞賛の声が寄せられていた。

正統派の塩顔イケメン俳優として定着するも“次期ブレイク枠”イメージいまだに

 デビューが実施した『2021年 ネクストブレイクランキング〜俳優編〜』では、見事首位に輝いた杉野。185cmの高身長に加え、清潔感あふれる正統派の塩顔イケメンで、雑誌『FINEBOYS』の専属モデルオーディションでグランプリを獲得して芸能界にデビューをして以来、映画やドラマへの起用は後を絶たない。

 『ハケンの品格』(CX)、『教場II』(CX)などの話題ドラマに立て続けに出演し、深夜ドラマ『直ちゃんは小学三年生』(TX)、『東京怪奇酒』(TX)では主演も務めている。また、『キセキ −あの日のソビト−』でスクリーンデビューをし、松坂桃李、菅田将暉、横浜流星、成田凌といった、今をときめくそうそうたる俳優たちとの共演も果たした。最近では、映画『東京リベンジャーズ』にも出演しており、若手俳優たちが徒党を組んで出演する作品には必ず杉野がいるというイメージがあると言っても過言ではない。

 だが一方で、次々と話題作に出演して高い評価を得ているものの、作品内で必ずしも強い印象を残しているとは言い切れない部分があるのも事実としてあった。『恋です!』の出演にあたっても、SNS上では「今回の作品で顔と名前が一致した」「なんかいまいちパッとしない」「顔がキレイすぎるから印象に残らない」といった辛辣な声も実際に挙げられてしまっていた。

良い意味で“爪痕を残さない” 消費されることを恐れないことが個性のひとつに

 ブレイクを果たした俳優は、作品内で“爪痕を残した”といった言われ方をすることがよくある。特に最近は、ベテランの名バイプレイヤーや舞台出身の俳優、個性派俳優たちの人気が顕著になっている。それに加えて、お笑い芸人やミュージシャンなど、他ジャンルから演劇の世界に参入して注目を集めるといった流れも固定化してきている。

 作品内では、そういった個性あふれる俳優たちによって、ある種型破りな演技が存分に発揮される。そして、重厚かつ外連味たっぷりのドラマが“真のドラマ”であるとして大きな幅を効かせている風潮が見られる。良く言えば“演技派中心”、悪く言えば“脂っこい”キャスト布陣の作品が増えている状況だといえる。

 ただ、そこで問いたいのが、すべてのドラマがそこを目指して作られるようになると、インパクト重視のコテコテな作品ばかりが増えていくのではないかという懸念だ。そこで重要視されるのは、作品のなかで強いインパクトは残さなくとも、役柄をしっかりと着実に演じ切るスキルであり、良い意味で“爪痕を残さない”ということも、俳優の重要な個性のひとつとしてとらえられるのではないだろうか。

 杉野は間違いなく、この「役柄を着実に演じ切る」ということを地道に体現してきた俳優の一人である。作品性やテーマ、伝えたい想い、そして役柄自体をきちんと理解して演じ切る。その役柄として、コンテンツの一部として消費されていくので、演者自体のイメージをヘタに消費されることなく表舞台での活動を持続できるという利点もある。

 ブレイクした俳優は、どうしても一時の人気に露出量が左右されてしまうことが多い。人気作品に出演することにより、その強いイメージが良い意味でも悪い意味でも残ってしまうケースも往々にして見られる。しかし、杉野のようなタイプの俳優は、作品に次々と出演をしても、役の持つ印象が必要以上につきまとうことがない。だからこそ、コンスタントにさまざまな作品に出演できるし、役者としての幅をどんどんと広げていくこともできる。ブレイク俳優の筆頭という言葉では言い表せない、演技界にとって重要な立ち位置として大きな期待が今後も寄せられるのではないか。
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