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音楽だけじゃない 秋元康の“ドラマ制作者”としての実績 あえて「一過性」重んじる嗅覚

『ポケベルが鳴らなくて』が顕著、ドラマは“一発屋”でいい? 消費されることをいとわないスタンス貫くワケ

 秋元が手掛ける作品のスタイルは大きく変化してきているが、その根本は変わらず、常に“流行”をとらえている。例えば『ポケベルが鳴らなくて』について、秋元は過去のインタビューで「僕たちが学生の時は、好きだということを伝えるためにラブレターを書いた。それがポケベルになったり、メールやLINEになったりする。ツールが変わっても、返事を待つ気持ちは変わらない。『ポケベルが鳴らなくて』という歌をあえて書いたのは、たぶんポケベルってなくなるだろうなと。この言葉を使うのは今の時代しかないと思った」と語っている。

 この言葉通り、ポケベルはあっという間に衰退。これにより『ポケベルが鳴らなくて』はユーザーに完全に消費され、“過去の”が強調される作品に。

 「もう一つ、秋元さんの特徴は、決して“最先端”の流行には手を出さないこと」と話すのはメディア研究家の衣輪晋一氏。「AKBの楽曲『ヘビーローテーション』の逸話が有名ですが、この楽曲の案が来た時、秋元さんは『本当にその言葉は世に浸透しているのか』と難色を示し、吟味した上で作詞。「ちょっと遅れて」「老若男女に知れ渡った」という“熟れ”具合が“売れる”と考えている節があり、『アリよさらば』主演の矢沢永吉さんも過去のインタビューで『秋元さんから、90年代に入っても(トレンドをスーパーに例えて)“矢沢スーパー”に行列が絶えないのか興味があると言われた』と話されています」(衣輪氏)

 『あなたの番です』でSNSを上手く活用したのも、SNS創世期ではなく浸透してからの利用。AKBの選抜総選挙も、2009年の民主党躍進、政権交代で人々が選挙に沸く中で生み出した。そもそもそのAKBも自らが 『モーニング娘。』によるリニューアルされたアイドル時代再来を経て再び手掛けたものであり、“熟れた”素材を扱ってのヒットだ。

 だが“流行”とは一過性。ポケベルと同様、一世を風靡する事象や現象、“大ブーム”は長続きしないということだ。しかしドラマは、現在ほとんどが1クール(3ヵ月)という短期間で、時代を切り取ったものが好まれる傾向もある。つまり、すぐに消費されると分かっているコンテンツでも、ドラマに関しては問題ないのだ。小説や漫画原作が多いドラマにおいて、ほぼすべての作品でオリジナルの脚本で勝負しているのも、よりリアルタイムでの世相を反映するためだろう。

重厚な社会派だけが“ドラマ”ではない! 時代の写し鏡としてのドラマの役割

 また、秋元作品は純粋なエンターテインメントである潔さも長所だ。秋元は、近年のトレンドともいえる“社会派”ドラマをほとんど企画していない。いい意味でメッセージ性が薄い「後に残らないドラマ」なのである。自身を「芸術家ではない」としており、「自分は職業クリエーター。まずは依頼してくださる人の思いを成立させなきゃいけない。クライアントやテレビ局の意向を考える」と話していることからも、「ヒットさせること」に重点を置いた作品作りをしているとわかる。

 実際、賛否両論はあるものの、秋元作品たちは大きな反響を呼ぶことに成功している。普遍的ではないかもしれないが、純粋に楽しめるエンタメもなければ世の中は面白くない。また、秋元作品や当時の反響を振り返れば、その時代がどんな時代で、何が流行っていたかわかる。消費されても史書的なニュアンスは遺る。

 「秋元作品のどれもが成功しているわけではありません。例えば、過去に『人間のクズゲーム』というカードゲームがあり、金と運と頭を駆使して女性をポンポン切っていって、早いとこ身辺整理をした方が勝ち、というものなのですが、話題にならなかった。ですがこのアイデアはAKBをフリまくるゲーム『AKB1/48アイドルと恋をしたら』に受け継がれます。その時に流行らなかったものを別の時代に再生産、そんな柔軟性も持ち合わせています」(衣輪氏)

 10月からは秋元が企画した、日本テレビ『真犯人フラグ』、TBS『この初恋はフィクションです』、テレビ東京『じゃない方の彼女』がスタートした。『真犯人フラグ』は『あなたの番です』以来の2クール放送で、既にSNSで考察が飛び交うオリジナルの長編ミステリー。『この初恋はフィクションです』は深夜の帯ドラマ。主演は女優オーディション番組『私が女優になる日_』で1位のメンバーが務め、YouTubeで全話配信される。『じゃない方の彼女』は、「家族で楽しめちゃう?不倫コメディ」と銘打った、笑える不倫を描いた新ジャンルのドラマだ。

 このように、ドラマが始まる前から話題を呼ぶような仕掛けをいくつも用意し、SNS時代を象徴した戦略でドラマをヒットに導く秋元。消費されることを恐れず、トレンドのコンテンツを組み込んだエンタメを企画するからこそ、半世紀近くにわたり業界の最前線にい続けられるのだろう。

(文/中野ナガ)

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