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“教本”としての役割も果たした『ゴルゴ13』 近代史・世界情勢の「知のきっかけ」に

 24日にすい臓がんのため死去した漫画家さいとう・たかをさん(享年84)による不朽の名作『ゴルゴ13』。世界最長の漫画シリーズギネス記録の保持、独自に進化を遂げた日本の漫画シーンにおける“劇画”という新たな手法の確立など、その功績は計り知れない。一方で、“教育”という側面においても、同作は多大なる功績を残していると言える。義務教育下における近代史の脆弱性を、同作が補完してくれたと感じる読者は決して少なくはないはずだ。

理髪店に行けば必ず存在した『ゴルゴ』、思春期における“通過儀礼”としての役割も

 幼少期に理髪店や中華料理店に行けば、必ずと言っていいほど本棚に鎮座していたのが『ゴルゴ13』。現在、40代以上の男性ならば、その大多数が共感してくれるほど、その“定位置”を長年に渡り死守してきた。線の太く、ベタ塗り(黒で塗り潰すこと)の多用は、明らかに少年誌とは異なる雰囲気を漂わせており、眉毛の太い怖そうなおじさんが粛々と暗殺を遂行する様、どんな女性もイチコロで落とすベッドテクニック冴え渡る濡れ場シーンなど、子どもにとってはコソコソと親の目を盗んで読むべき作品だった。

 劇画という手法は、手塚治虫の出現以降、独自に進化を遂げた日本の漫画カルチャーにおいて、カウンターとなる「大人が読むべき漫画」だった。一方、子どもにとっての『ゴルゴ13』は、「背伸びをするための漫画」であり、同作に興味を持ち、ある程度その内容を理解できたという喜びは“大人になるための通過儀礼”そのものだった。

「近代史と世界情勢はゴルゴから学んだ」インテリジェンスの教科書としての役割

 義務教育における『歴史』の授業では、圧倒的に“近代史”の割合が少ない。古代史には時間を割くものの、近代史となると、3学期にサラッと触れる程度だったという感覚の方も多いだろう。だが、実社会に出た際に、『歴史』の分野において最も必要とされる情報は近代史であり、そこから派生する世界情勢に他ならない。そんな近代史・世界情勢の脆弱性を補完してくれたのが『ゴルゴ13』だった。

 旧ソ連のアフガニスタン侵攻に端を発し、現在のタリバン支配へと続く中東情勢、冷戦時代における大国間のにらみ合いとその代理戦争…デューク東郷の視点から描かれる世界情勢には、常に“リアリズム”が漂う。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏も熱狂的な『ゴルゴ』ファンとして知られており、外務省高官の間でも同作を“回し読み”していたと明かしている。外務省による「海外安全対策マニュアル」とのコラボレーションや、先ごろ行われた自民党・加藤官房長官の記者会見における哀悼の意などからも、決して“ネタ”ではないことがわかる。情報の世界に身を置く“プロ”たちも、綿密な取材に裏づけされた作品世界に魅了されているのだ。

 また、実在する秘密結社・薔薇十字団や、コロンビアを拠点とする巨大麻薬密売組織・メデジンカルテルなどの名称を知ったのも『ゴルゴ13』からという読者も多いだろう。世界情勢における“暗部”を切り取った、文字通り「教科書では教えてくれない世界史」からの学びだ。
 
 漫画としての功績は計り知れないが、教本としての役割も果たしてきた『ゴルゴ13』。さいとう・たかをさんの意志を受け継ぎ、連載は継続。デューク東郷による、世界を股にかけた“暗躍”は終わらない。同時に「インテリジェンスの教科書」としての役割も引き継がれていく。
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