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『鬼滅の刃』に大人も納得、カウンセラーが分析する「ヒーローだけではない」組織の在り方

  • 映画館に掲示された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のポスター。まだまだ盛況は続いている。

    映画館に掲示された『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』のポスター。まだまだ盛況は続いている。

 映画『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が興行収入200億円を突破。コミックのシリーズ総売上も9,000万部を超えるなど、歴史的なヒットを記録している『鬼滅の刃』。「子どもを映画に連れていったら、自分がハマった」、「漫画を読んだら止まらなくなった」という大人のファンも増え続けている。普段は漫画やアニメに興味のない大人までも、惹きつける理由とは? 企業経営者などのメンタルトレーニングも行う、心理カウンセラーの浮世満理子氏に聞いた。

※一部、ネタバレになる内容を含んでいます。

煉獄さんの言葉に「感動した」「泣いた」、大事な言葉がたくさん詰まった『鬼滅の刃』

  • 心理カウンセラー/メンタルトレーナーの浮世満理子氏

    心理カウンセラー/メンタルトレーナーの浮世満理子氏

――コミック、テレビアニメに続き、劇場版も大ヒット。『鬼滅の刃』は世代を超えた人気を得ています。

 「映画を観たときも感じましたが、世代ごとに響くところが違うんですよね。小さいお子さんは『〇の呼吸、壱の型!』というキメ台詞やポーズに惹かれている。私の後ろの席にいた中学生くらいの男の子は、『猗窩座(あかざ。“上弦の鬼”と呼ばれる最強の鬼の1人)、マジかっけえ』って言っていました。強い悪に憧れるのは、思春期の子どもとしてはとても健全ですね。大人たちはやはり、煉獄杏寿郎(鬼を退治する鬼殺隊のトップに立つ9人の剣士の1人)と猗窩座が対決するクライマックスのシーンで涙していましたね」

――「柱ならば後輩の盾となるのは当然だ」「若い芽は摘ませない」「老いるからこそ死ぬからこそ、たまらなく愛おしく尊いのだ」など、煉獄杏寿郎のセリフに「感動した」「泣いた」という声が寄せられています。

 「最後のシーンには、大事な言葉がたくさん詰まっていますよね。その根底にあるのは、『何をもって生きるか』『人生の中で何を残すか?』という問いだと思います。主人公の炭治郎や仲間たち、柱の剣士たちは鬼たちとの凄まじい戦いに挑みますが、たとえ死を迎えたとしても、決して後悔せず、自らの命を全うしていく。私たちはカウンセリングで『あなたがやっていることは、命の時間を使う甲斐があることですか?』という言い方をすることがありますが、鬼と戦う人間たちは、まさに生きる甲斐をかけて戦っているのだと思います。映画をご覧になった方には、そんな登場人物たちを見て、自分を振り返ることもあるでしょう。ぜひ、どのセリフが自分に響いたかを考えてみてほしいですね」

――響いたセリフ、感動したセリフについて考えることは、自己を見つめ直すきっかけになりそうですね。

 「そうだと思います。私自身は、伊之助(炭治郎の仲間の1人)の『どんなに惨めでも恥ずかしくても、生きてかなきゃならねえんだぞ!』と炭治郎を叱るシーンで泣きました。その言葉が、カウンセラーとして東日本大震災の被災地を回っていた頃のことと重なったんですよね。人が亡くなることはもちろん大きな悲しみですが、残された人たちはそれでも生きていかなくてはいけないので。煉獄さんが亡き母親に向けて、『俺は果たすべきことを全うできましたか?』と語りかける場面も感動しました。そういう方も多いのではないでしょうか」

まるでブラック企業とホワイト企業、働く大人も納得の対比

――登場人物たちの生き方や言葉が、観客や読者の生活、仕事との向き合い方と重なることも、人気の秘密なのかもしれないですね。

 「『鬼滅の刃』には世の中、生きることの理(ことわり)がちゃんと描かれています。大人、とくに働いている人が観ても、納得する部分は多いのではないでしょうか。たとえば、鬼の頂点に君臨する鬼舞辻無惨、鬼殺隊の長であるお館様の対比も、とても興味深いです。無惨は自分自身がきわめて高い能力を持っていて、万能感を抱いている。鬼たちを暴力的に支配する、パワハラ体質のリーダーです。一方のお館様は、身体は弱いのですが、隊員たちへの思いやりと人柄でチームをまとめている。漫画の中に『永遠というのは人の想いだ。人の想いこそが永遠であり不滅なんだよ』というセリフがありますが、これはお館様の考え方をよく表していると思います。これから望まれるリーダー像ですよね」

――ブラック企業とホワイト企業の違いのようですね…。

 「そうですよね(笑)。また、炭治郎の先輩の村田というキャラクターも印象深いです。同期の冨岡義勇は柱なのですが、戦いの場で冨岡が自分のことを覚えていたことに感激する場面があって。誰もが柱になれるわけではないし、同期と差が開いても、村田のように持ち場で一生懸命やっている人もいる。社会に出て働いている人間としては、『むしろ柱のほうがすごすぎるんだよ。村田、がんばれよ!」と思わずにいられないし、大人に響くシーンですよね』

――たしかに、剣技に恵まれなかった人たちによる“隠”(かくし。事後処理部隊)なども描かれていて、組織は決してヒーローだけでは成り立たないことが描かれています。また、役割を全うするという点では、炭治郎の「俺は長男だから我慢できた」というセリフもありますね。

 「炭治郎の魅力はコミュニケーション能力の高さだと思うのですが、それは5人の弟と妹と一緒に育ったことで得られたものでしょう。父親がいないこともあって、当たり前のように下の子たちの面倒を見て、寛容さを身に着けた。これが2人兄弟だったら、そうはいかないと思います」

――炭治郎は、長男であることを受け入れることで、寛容さや優しさを身に着けたと。

 「はい。カウンセリングのときも『私は〇〇だからがんばれる』というフレーズを作って遊ぶことあります。『私は関西人だからがんばれる』、『私は農家の娘だからがんばれる』とか(笑)。人から『〇〇なんだから』と押し付けられるのはイヤだと思いますが、自発的に『〇〇だから』と考えること枷にはならないし、むしろ役割が自分を強くしてくれることも多い。アイデンティティが苦しいときの自分を支えるくれる、というわけです。

――役割が人を作る、というのは社会に出ると身に沁みますね。本当に大人に響く要素が多いです。

 「映画を楽しんだ後は、家族や友だち、職場の人たちとも『どこで感動した?』『どこが気になった?』と語り合ってみてください。自分や相手の内面を見つめ直して、メンタルを良い方向に導くきっかけになると思います」

(文:森朋之)
【プロフィール】
浮世満理子(うきよ・まりこ)
全心連公認上級プロフェッショナルカウンセラー/メンタルトレーナー。大阪府出身。『全国心理業連合会』代表理事。『全国SNSカウンセリング協議会』常務理事。トップアスリート、芸能人、企業経営者などのメンタルトレーニングを手掛ける。『子どもの可能性を120%引き出す! メンタル強化メソッド 50』、『チームを120%強くする! メンタル強化メソッド 50』(実業之日本社)、『LINE上手 ビジネス・私生活で相手の心理をつかむ!』(徳間書店)など、著書多数。『週刊まるわかりニュース』(NHK総合)、『関ジャニ∞のジャニ勉』レギュラー出演(関西テレビ)、『newsZERO』(日本テレビ系)などメディア出演多数。

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