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復刊の『LARME』は本当に“変わってしまった”のか? 編集長に聞く“女の子”を表現することへの気概

 2020年9月に復刊し、新たなスタートを切った雑誌『LARME』。YouTubeやTikTokで人気な“なえなの”を起用した表紙、“地雷ちゃん”や“量産ちゃん”といった巷にいる女の子のファッションを取り上げた特集など、挑戦的なクリエイティブが目立っていた。読者からは復刊を喜び、新しい誌面に共感の声が上がる一方で、「私の知ってる『LARME』じゃない」「前の『LARME』の世界観が好きだった」という意見も。賛否の声が上がったことは雑誌が“強い世界観”を作り上げてきた証拠でもあるが、はたして『LARME』は本当に変わってしまったのか。雑誌の世界観は誰が定めるものなのか。『LARME』編集長の中郡暖菜さんに話を聞いた。

雑誌の世界観が崩れたと批判も

――『LARME』の権利を出版社から買い取り、待望の復刊。復刊号は前号と比較しても3倍以上の売上があったということですが、あらためていかがですか?

【中郡】『LARME』の創刊編集長として雑誌を立ち上げた後、私が辞めた後に編集長が3人変わったんです。全員が私が0から作り上げた『LARME』の世界を守るという姿勢で作っていたのではないかなと思っています。今回また私が編集長として携わるということを決めたとき、今までの世界観を壊さないといけないと最初に決めました。その理由は、休刊という道を選ばねばいけなくなるほど、世の中から求められているものとの乖離があったということが一番の理由です。そもそも創刊したのは私なので、私の手で変えていくことで「誰に何を言われようと、私が作ったものが『LARME』だ」って言うことができる。他の編集長はそれが言えないから、いくら雑誌を変えようという気概があったとしても“守りの姿勢”に入らざるを得なかったのかなと思います。それは復刊号を編集してみて、あらためて気づいたことですね。

――表紙について、以前のテイストと「変わった」という意見も。どんな意図があったのでしょうか?

【中郡】表紙に関しては、これまでと違う表紙にしようと意識したわけではなく、今ベストなものを考えました。表紙にはTikTokerでありYouTuberでもある、なえなのちゃんにお願いしました。なえなのちゃんは、昨年まで静岡でアパレルのショップ店員をしていた子。雑誌の表紙はもちろん、本格的にモデルをするのも『LARME』が初めてです。

――過去には女性アイドルなど、ある程度“慣れている”モデルさんを起用していたこともありましたよね。

【中郡】はい。でも今回、有名なタレントさんを起用することがベストだとは思わなくて。『LARME』ってこうだよね、っていう意識がない子のほうが良いのかなと。その意識が働いてしまうと変に意識したり、しばられたりしちゃうじゃないですか。変化していけない雑誌のほうが弱いし、かっこ悪いと思うから。新しく変化して、新しい世界に届ける。新規ファンを獲得していかないと、雑誌が広がっていかない。なえなのちゃんの表紙を「LARMEっぽくない」って言う意見は目にしましたけど、私からすればそもそも最初に創刊してその時のLARMEらしさのようなものを作った私も『LARME』が何なのかはずっと分からない。雑誌はそのときそのときで作っていくものなので、時代と共に変化していくものだと思っているからです。

当時前代未聞だった女性アイドル起用、これまでも“攻めの姿勢”を貫いてきた

 創刊当時の『LARME』では、乃木坂46の白石麻衣やNMB48の渡辺美優紀など、これまでの女性誌では珍しかった女性アイドルのレギュラーモデル起用も積極的に。『LARME』でのモデル起用をきっかけに、他の雑誌でも活躍の幅を広げる事例も見られている。

――『LARME』でのモデル出演がきっかけで、これまでは男性ファンの多かったアイドルが新しく女性ファンや女性人気を獲得していった系譜は大いにあると思います。

【中郡】(白石)麻衣ちゃんが初めて女性誌の表紙を飾ったのは『LARME』でしたけど、そういった麻衣ちゃんの新しいチャレンジのひとつひとつが、現在のように幅広い層の方々からの圧倒的人気に繋がっているのだと思います。そういったきっかけを、雑誌として一緒に作れるほうがメディアとして意義があることだと思いませんか? 人気の女優さんや有名タレントさんの名前に乗っかって、「私たちはカッコいいファッション誌ですよ」って顔をするのはイヤでした。

 以前別の雑誌の編集長をしていて、その時は敢えて人気の女優さんや有名なタレントさんにお願いしていたのですが、そうなると表紙や巻頭で女優さんやタレントさんが登場して、その後ろのページでインフルエンサーっていう『序列』ができてしまうんですよね。実際に雑誌を育ててくれているのは、インフルエンサーの子だったりするのに、ずっと表紙は飾れない…。読者の方はインフルエンサーの子達を応援して買っていてくれる子も多いので、明確な序列が出来てしまう構図はあまり良い形ではないのかなと思いました。

――復刊号で表紙を飾った、なえなのさんの得意なジャンルはTikTokやYouTube。すごく“今”の時代に適している方だなとおもいます。

【中郡】そうですね。なえなのちゃんは、新しい時代に一緒にチャレンジしていける子。1年前まではショップ店員をやっていた子がYouTubeを初めて、いまでは『LARME』でモデルをしている。とても夢のある話だと思います。

――そういうストーリーがあってこそ、雑誌のファンが増えていくのでしょうね。では、実際に発売後の否定的な意見を中郡さんはどう見ていましたか?

【中郡】予想していたわけではないですけど、こういう声が怖くて、休刊するほどになるまで“変えられなかった”のかなと思いました。新しいチャレンジは、賛否があるくらいでいいと思うんですよ。今回炎上したので、この先なにか新しいことをやるとなっても、やりやすいかもとは思っています(笑)。私は自分自身が『LARME』を愛していると確信しているから、変化することは怖くはないです。

地雷ちゃん・量産ちゃんが見出しに「初めてのことをしないと意味がない」

「量産」「地雷」といった流行りのファッションを特集

「量産」「地雷」といった流行りのファッションを特集

――編集者として本を作るときに、作り手が思い描いている世界観もあれば、読者と一緒に作り上げていく世界観もある。中郡さんの場合は、そのバランスをどのようにとっていますか?

【中郡】『LARME』に関しては、読者のほうには敢えて寄せすぎないようにしていますね。それはなぜかというと、好きなアーティストで考えると分かりやすいと思うんですけど、自分でも思いつきそうなものだけを発信している人って憧れないじゃないですか。常に想像の一歩先に立って、自分では作れないと思わせるものを作らなきゃいけなくて。「LARMEってこうだよね」っていう価値観も常にアップデートしていきたいと思っています。たとえ「ここがヤダ!」っていうポイントがあったとしても、それはその人の感情が動いているということ。「ここの何がイヤなの?」って、それを自分自身で深く考えたり、知ったりしていくことこそが大事だったりすると思うんですよね。これは一体…とか、見ててギョっとしてもらえたりしたほうが、こっちもやりがいがありますね。

――ギョっとすると言えば、復刊号で目に付いたのは新宿・歌舞伎町をロケ地に“地雷ちゃん”や“量産ちゃん”を扱っていた特集。このキーワードを出しちゃってもいいんだなって衝撃を受けました。

【中郡】そう、地雷や量産の特集をやったのも雑誌では『LARME』が初めてだよねって言われることをしていかないと意味がないと思ったからです。実際に量産とか地雷のファッションをしている子が読んでいる雑誌って『LARME』が多いと思いますし、このテイストのファッションを楽しんでいる子って今は本当に多いんですよね。先日歌舞伎町にあるコンカフェに行ってきて、そしたらお店の女の子に「なんで地雷の企画に私を使ってくれなかったんですか?」と言われました。「私が一番歌舞伎町に詳しいのに」って。「表紙のなえなのちゃんとは同い年で、羨ましくてしょうがない」って悔しそうに言っていて、その“気持ち”がすごくいいなと思いました。

 そういう気持ちを持てるっていうことが、素晴らしいと思いませんか? たとえば私は34歳で、同じ年の芸能人だったら石原さとみさん。でも、石原さんが雑誌の表紙を飾っていることに対して、羨ましいって思いますかね?

――確かに、何も思わない。悔しい…とも思わないですよね(笑)。

【中郡】そういった感情は、大人の私たちはもう一切湧かないですよね。石原さんと自分は違うとハッキリしているし、それが自身でもわかっている。でも『LARME』に対しては「私と同い年なのに」とか「私の方が地雷だし」「歌舞伎町の映えるスポット、もっと知ってるのに」「LARMEの表紙に私もなりたい」と素直に言える。

 どんなに叩かれても、私はストリートにいる今の女の子の気持ち、そこに寄り添える雑誌を作りたい。自分もいつか表紙になれるかもと思える距離感の近さ、夢を見られる雑誌でありたい。そして、『LARME』には実際にその可能性だってあります。そこは、創刊時からずっと変えていないポイントなんです。

――では、今後『LARME』をどのようにしていきたいですか?

【中郡】『LARME』だけでビジネスが成り立つような形にしたいですね。いまの女性誌はなかなか厳しい世界で、赤字続きの雑誌も多いです。雑誌単体だけでも成り立つようにしないと、女性誌っていうもの自体が失われてしまうことになりかねません。

 『LARME』では、様々な周辺ビジネスを展開しています。雑誌の看板を使ってアパレルの展開も始めたのですが、それは“強い世界観”のあるこの雑誌だからこそできたこと。出版ビジネスっていう旧時代的なビジネスモデルに対して、『LARME』で新しい方向性を提示して、これからの時代の女性誌におけるモデルケースになりたいです。私も株式会社LARMEの社長になって、まだ3ヵ月。色々やらなきゃいけないこともあるし、分からないことばかりです。今は失敗しながらも、自分のやり方を見つけていく時期。分からないことを乗り越えて、社長としても一人前になれるように頑張っていきたいと思います。
『LARME』
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