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高橋優、感情と妄想のギャップを歌い続けた10年「幸い、僕は満たされた経験が少ない」

 今年デビュー10周年を迎えたシンガーソングライターの高橋優。学生時代にストリートライブを始めて以来、様々な表情の音楽を100曲以上歌い上げてきた。その根源には、生きていく中で感じる孤独や怒り、疑問があるというが、10年もの間現状に満足することなく、感情を音楽に注ぎ続けるエネルギーはどこから湧いてくるのだろうか。10月発売予定の新作アルバムでは、コロナ禍の外出自粛中に渦巻いていた感情を放出し、「人様には見せられないような自分を落とし込んだ」と語る高橋に聞いた。

コロナ自粛が自身と向き合う機会に “人様に見せるのもおこがましいような自分を曲に”

 1年9ヵ月ぶりの新曲となった「one stroke」。「大変お待たせしてしまいました」と切り出す高橋の表情は明るい。「昨年の12月から『free style stroke』というツアーを行いました。そのコンセプトは自分の総括じゃないですけど、改めて自由にセットリストを組んで、自分らしい音楽の表現方法を追求したらどんな音楽になるか、ということ。いろいろ実験的なことがやりたい中で未発表の曲を組むことにしました。せっかくだから想いの強い曲を制作し、ツアーをやりながら歌詞を変え、表現方法を変え、曲はどんどん進化させ…。そして完成したのが『one stroke』です」

 タイトルの“one stroke”は、「いち移動」「ひと羽ばたき」「泳ぎのひとかき」といったニュアンス。自身の「ひと羽ばたき」を言葉に言い換えるとどんな楽曲になるか、ということを考えることから曲作りはスタートした。思い入れが強いのは2コーラス目。敢えて言葉を整えず、自身の想いを解放し、荒削りなまま表現したのだと言う。「ちょっとヒリヒリした言葉が散りばめられたのかなと思っていて。歌っていて感情が乗っちゃう部分でもありましたね」
 満を持して臨んだツアーだったが、新型コロナウイルスの影響で2月で中止に。その後緊急事態宣言が出され、高橋も自粛を余儀なくされた。

「自粛中は家でアルバム用の曲作りに没頭していました。そのうち、目線が改めて内面に向いてきて。結果、自分の外側で起きている出来事に対して、内側で渦巻いていたものが表出してきたんです。しかも、これまで向き合ってこれなかった気持ちが。例えば、有名画家のムンクの『叫び』という名作絵画がありますが、不安や恐怖を表現しているものの方が、何か魅力が生まれてきたりするのではないかとも思うんです。デビュー当時から実はずっと持っていた、人様に見せるのもおこがましいような、そんな自分を落とし込んだ曲がたくさん生まれたように思います」

おままごとも細かい設定を確認する理由とは「武勇伝おじさんにはなりたくない」

 近年、ますます人気と知名度を増しているが、「その実感はあまりない」と語る。デビュー後しばらくして、『SMAP×SMAP』(フジテレビ系)など国民的人気番組などにも出演する機会もあったが、「一瞬、何者かになれた気はするんですけど、僕はその誇らしさも一瞬で終わっちゃうんです。自身がやってきたことに価値を見出すことがなかなか出来ないというか、それより、自分という人間を常にアップデートしていないと聞いてくださる方に失礼になるんじゃないかという想いが強いんです」とストイックな姿勢は相変わらずだ。

 ヒット曲を出しても、ファンが増えても、過去の自分に満足することなく高橋の目は常に次なる自分を探している。数年前に、デビュー以来初めて曲が書けない時期があったという。その時、「余裕が出てきた自分が怖くなった」と彼は語っている。余裕があれば曲も書きやすいのではないかと安易に想像したが、「むしろ逆」との答えが返ってきた。
「若い頃に自分が何を成し遂げたか、武勇伝を語る方もいらっしゃるじゃないですか。僕も36歳ですけど、同世代でも話題の半分が人生の振り返りだったり、過去の功績の話だったり、そういう慢心したおじさんにはなりたくないんです(笑)。1つのテーマで、“ああ、それね”って、何でも分かった風に話す人も、本当に考えているのかなって。常に10代、20代の子たちとムキになってゲームしたり、話し合ったりできる大人でいたい」

 1曲を作り上げるのにどれだけの感情とエネルギーを費やすのかは計り知れない。それでも、常に新しいものを吸収し、自他ともに疑問を抱き続けることが、新たな音楽の放出に繋がっている。自身の立場や周囲の評価が変わろうとも、相手が誰であろうとも、普段の生活からその真摯な姿勢は変わらない。
「例えば姪っ子が小学生ですけど、おままごとをする時も、僕は姪っ子にめっちゃ設定を確認するんです。そこにしっかり向き合わないと子どもだって気づいてしまう。そこに向き合わないと遊んだことにはならない。僕はむしろ、こっちが遊んでもらったと思いたいんです。ままごと一つとっても改善の余地もあると思っていて。そうやって同じ目線で向き合っていないと、曲作りでもトークでも、なんか歪んじゃうような気がするんです」

 これらの源泉は幼少期にまで遡る。高橋少年は、例えばテストで低い点を取った時、大人の蔑んだ目に気づいた。悔しい。でもそんな想いを抱えていても仕方ない。そこで高橋が取った手段は「自分を褒め称えている人の絵を書くこと」だった。高橋は「気持ち悪い子どもですよね」と自嘲する。

「でも書いていたりすると、次から次へと新しい発見があるんです。自身の考えのディティールが見えてくる。そのうち、思っていたことと書いていることの間にギャップが生まれる。でも悔しいという想いのままで曲を書いていたら、それは悔しい曲にしかならない。おかしな言い方になるかもしれませんが、そこで生まれたギャップが僕の“歌”になるんです。だから自分が思っていたことをそのまま書けることはあまりないんですけどね(笑)」

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