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高橋優、感情と妄想のギャップを歌い続けた10年「幸い、僕は満たされた経験が少ない」

1曲1曲が“名刺代わり” 「無事、年々ひねくれていっているので安心してもらいたい(笑)」

 そんな高橋は、世間一般の人たちに合わせて曲作りをしている気持ちはないと話す。その理由は「自分自身も世間一般の人だから」。自分が置かれたアーティストという立ち位置にギャップが生まれることもある。その時は、タクシー移動を敢えて電車にしたり、豪華な食事をした次の日はカップラーメンを食べたりするなど、“慢心”につながらないよう、バランスを取っているという。

「幸せになりたい気持ちは僕も一緒。ある日、地位も名誉も手に入れた先輩のミュージシャンの方に、それだけ満たされた状態でのモチベーションの上げ方について聞いたことがあるんです。すると、『シンガーソングライターは、(満たされて)曲が書けなくなってからが面白い』と。曲を書くためにわざと自分に毒を入れて、不幸に足を踏み入れる人もいます。ただ僕は満たされた経験が圧倒的に少ないことが幸いしている。たくさんの出会いは感謝していますけどね。でも、自分が知ってもらえたとか思えたことはまだないので。毎回この曲で自分を思いを知ってもらいたいと思うし、また怒りに満ちた人と思われるだろうと思いながら怒りの曲を書いています」
曲を書いているうちに、自分の中の孤独や怒りに気付かされることも多い。自身を「ひねくれている」と表現する高橋は、「僕は無事、年々ひねくれていっているので、そこについては聞いてくださる方には安心してもらいたい」と笑った。

「こんな時代だからこそ、これからも、会うこと=ライブを大切にしながら音楽活動を続けていきたい。リモートライブなども増えてきましたけど、僕はやっぱり会うことにこだわりたいんです。対面で喜びを分かち合いたい。誰かと会う空間があって初めて、僕の音楽活動が一つ完結する気がしています。握手したりハイタッチしたり、その瞬間には得も言えぬ喜びがあります。インターネットが発達すればするほど、いよいよ直接会うことの重要性はなくなっていくかもしれません。でも僕はそこには反発していきたいです」

 前作の『STARTING OVER』ではその名の通り、「これまでの自分をゼロにして再スタートを切る思いで制作した」と語っていた。コロナ禍に生まれた今作では、「人様に見せるのもおこがましいような自分の感情も荒削りな言葉のまま落とし込んだ」と話す。この10年、自分の“名刺代わり”のつもりで1曲1曲紡いできたという高橋優。

 着実に人気を伸ばしても、「満たされていない」「何者にもなれていない」という思いが常に新しい音を奏でる根源なのかもしれない。新曲「one stroke」には、さらなる一歩を踏み出したいという思いも込められている。“ひと羽ばたき”を積み重ね、不器用ながらも上を目指していく彼の音楽をこれからも楽しみにしたい。


(取材・文=衣輪晋一 撮影=田中達晃(パッシュ))

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