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50周年『サザエさん』過去最大の危機は“今”「変わらない日常」と「タブーへの挑戦」

1話ごとに“リセット”が原則、年を取らないはずの磯野家の20年後描いた理由

 変わらないと言えば、登場人物が年を取らないことも気になる方は多いはずだ。渡辺氏いわく、この秘密を解く鍵は“リセット”だそう。「『サザエさん』の物語は1話ごとにリセットされます。誤解を恐れない言葉を使うと、1話が終わると、次回では前回の話は“なかったこと”になっています。1.2話との繋がりを考えて3話を作ることはありません」

 確かに、サザエさんが髪型を変えるお話があっても、次の話に移れば、彼女の髪型はすっかりあのお決まりスタイルに戻っているのだ。これにも理由がある。『サザエさん』は、決して登場人物の成長を描く物語ではないからだ。繰り返される1年。その四季の中で暮らすサザエさん一家の物語。1年は何度も“リセット”されながら繰り返されるので、当然年は取らない。

 そんな『サザエさん』の“不変性”に挑戦を試みたのが、先述のイベントだったということだ。さらに渡辺氏は、磯野家の10年後を描いた藤原紀香主演の舞台の設定に関わったほか、20年後を描いた天海祐希主演の実写ドラマも手掛け、この“タブー”に挑んでいる。

サザエ役に藤原紀香、波平は松平健が演じた舞台『サザエさん』

サザエ役に藤原紀香、波平は松平健が演じた舞台『サザエさん』

「20年後というと、カツオが31歳、ワカメが29歳、タラちゃんは23歳。この若者たちの年齢は、社会に出てある程度経験をして壁にぶち当たる時ですよね。ワカメも女性としてどう生きようかと、タラちゃんは就活を考えていて、それぞれが人生のターニングポイントを迎えている。磯野家にも人並みの悩みがないわけではないけども、家族の温かさがあれば乗り越えていけるというメッセージを伝えたかった。“未来に向かって歩き出す”というのがゴールになるとイメージしていました」

 50年守り続けてきたタブーにも挑み、『サザエさん』の新たな境地を開拓した渡辺氏。我々からしてみれば“変わらぬ”良さが勝手に根付いているが、同作品は長い歴史の中で、当然様々な局面を迎え、1つ1つ乗り越えてきたからこその今の地位がある。『サザエさん』の映像作品は実はアニメよりも映画が先だったし、アニメ放送当初は今とは全くテイストの違うギャグテイストだった。最近でも、20年近く一社提供だった東芝スポンサーが降板したり、長年作品を支え続けてきた声優交代が余儀なくされたり、水面下であらゆる変化に対応してきたからこそ、不朽の名作が守られ続けてきたのだ。

50年で制作ストップは初めて、危機迎えた今こそ「変わらない日常を描くのが使命」

 そんな『サザエさん』において、一番の危機はいつだったかと渡辺に尋ねてみると、「今」という答えが返ってきた。新型コロナウイルスの影響を受け、アフレコ収録が休止中なのだ。50年の歴史において、制作がストップするのは初めてだという。現在は収録済みの作品を放送しており今後の制作については未定だが、こんな時だからこそ、国民的作品にしか伝えられないメッセージがある。

「“変わらない日常”を見せるのが『サザエさん』で、これこそが同作品の果たすべき仕事だと私は考えています。現実ではコロナ禍で自粛が続いており、日常が元に戻るには時間がかかるかもしれません。ですが、『サザエさん』の世界にはコロナ禍の現実は存在しません。今こそ、いつも通りの家族の“日常”を描いていきたい。そして辛い現実を一瞬でも忘れ、ほのぼのしていただければ」。

 日常が失われた今だからこそ、“終わらぬ日常”が描かれる『サザエさん』は重要性を帯びる。サザエさん一家は、老いることなく、外出自粛することもなく、これからも自分たちの時間を生き続けるだろう。そしてこの日常こそが、今の私たちの癒やしとなるはずだ。



(取材・文=衣輪晋一)
(画像提供=(C)長谷川町子美術館 (C)Fuji Television Network, inc. All rights reserved.)
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